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1.64 暴虐

 こんにちは、メイプルです。英語で言うとメイポゥです。痛いのは嫌なのでやられる前にやっちまいます。ボクは狩る側です。


 と言うわけで最短距離で行きまーす!

「とうっ!」

 近くの建物の屋根に飛び上がって、さらに屋根伝いにジャンプ! ジャンプ! ホップステップかーるいす! 【換装】して手袋を装備! こいつはギルドの定義による武器ではないので町中で使ってもオッケーです!


 おっ、ヤクザの事務所が見えました! 屋根の端からハイジャンプ、そして門にドロップキーック!

「キャオラッ!」

 バキバキッと派手な破壊音を上げて吹っ飛んだ大きな扉が突き当りの壁にぶつかって砕け散りました。


「な、何だ!?」

 音を聞きつけたのか駆け付けたヤクザたちが玄関のロビーになだれ込んできました。一、二、三……全部で十人います。ワラワラと奇妙な統一感を持った動きはその手の昆虫みたいですね。ボクは蟻塚に侵入した捕食者のように虫けらの群れに取り囲まれました。


「誰だテメー!」

「誰だか知らない相手に喧嘩を売ってたのですかこのおバカさんたちは。本当に知能が低いですね、虫のように!」

「知るかボケ!」

「何のつもりだこのアマ!」

「何のつもりと言うならば……えーと、こういう状況をなんて言いましたかね……? ブッコミ……じゃなくて、討ち入りでもなくて……。あ、そうそう出入り。出入りですよ。カチコミです」

「なにっ」

「やれやれ、たまにいるんだよなこういうバカが」

「無事に帰れると思ってるのか?」

「よく見たら上玉じゃねぇか。ヘッヘッ、カモがネギしょって飛び込んできやがったぜ」

「まあ実際のところはただの害虫駆除ですけどね。と言うわけでゴキブリ諸兄、とっととくたばるがいいでーす!」


 しゃべってる間に糸を展開していました。屋敷中に張り巡らせた糸で既に全員を捕捉済みです。ヤクザたちが動き出す前にボクのターン、糸を網の目のように絡めてグッ! と引っ張ったらその場の全員の両手両足がカレーの中の豚コマよろしくコマ切れになりました。


「「「「「!?」」」」」


 アハッ、ダルマさんが転びました! 手足がバラバラになったヤクザたちが地球の重力に魂を引かれてその場に鉛直自由落下です。


「おああああああ!」

「痛ぇよぉ……」

「腕ェ、俺の腕エエエエエ!」

 ほとんどのチンピラは前のめりに倒れました。こういう場合普通なら本能的に手でかばうのですが今はその手がありません。顎が砕けてうーうーうなってます。前歯が根元からへし折れて転げまわるたびに口からボロボロこぼしてる男はまだいい方で、思いっきり顔面を打ち付けて鼻骨が顔面にめり込んだ男はまともに声が出せず瀕死のゴブリンみたいなうめき声をあげてます。横向けに転んだ連中はまだマシだったかもしれません。首はイッちゃってますけど頭は打たずに済みましたから。一番運が悪かったのは尻から落ちた奴でしょう。尾てい骨が砕けた激痛でのけぞって後ろに倒れ、硬直したまま後頭部を打ち付けていました。セルフ高山ですね。意識を失ってカニみたいに泡を吹いてます。ほっといたら死にそうなので【止血】の魔法で脳内出血を止めてやりました。うーん、この優しさ……ボクって控えめに言っても天使ですよね。

 糸にも止血の魔法を乗せてありましたので出血は最小限に抑えられたことでしょう。同時に傷病の神グヤの【再生阻害】も掛けてあるのでどんな高位の魔法を使っても手足は生えてこないでしょうけど。人間の医者にボクの魔法を打ち破れるとは思えません。


 人豚たちを放置して屋敷の奥へと向かいます。侵入時の【走査】で建物の中には15人のヤクザがいたことがわかっています。そして今の糸の攻撃でその全員の四肢を切断しています。あと5人……廊下に転げたヤクザがうめいています。部屋の中から鳴き声がふたつ聞こえます。「ひぃえぇぇぇ……」下働きの女がほとんど這うように廊下を逃げてゆくのとすれ違いました。階段を転げ落ちて気絶したヤクザがいます。あと一人。


 三階建ての事務所の一番奥の扉にたどり着きました。最後の一人がこの中にいます。

「ブツブツブツブツ……」

 扉に刺した包丁で室内側のノブをスタイリッシュに開けると正面の机の向こうにヤクザの親分がいました。こいつは椅子に座っていたので顔や頭はぶつけなかったようです。もちろん両手両足はありません。文字通り手も足も出ないイモムシヤクザ……背中にリンゴをプレゼントしてあげましょうかね?


「初めましてザムザ閣下、ご機嫌いかが?」

「誰だ……ぐっ……だ、誰でもいい、医者を呼べ……早くしろ……」

「それが人にものを頼む態度ですか? もちろんお断りです。それではご一緒に、空も飛べるはずでーす!」

「ぐああああ! やめろおおおおおっ!」


 魔法でヤクザにロープを絡めて背負って窓から外へと飛び出します。今度は夜の妖精亭へと一直線です。あっという間に到着、ドアをガンガン蹴りつけてウアカリババアを呼び出します。

「ノックしてもしもーし! お前の旦那のお出ましですよー! 開けるで──す!!」


 ……なかなか出てきませんね。


「ほらお前も呼ぶのですよ」

 言いながらヤクザをわきの下で抱えて持ち上げます。

「はい飛びましたー、はい着地!」

 ビターン! 太ももの切断面を垂直に叩きつけます。

「うごおおおおおおおお!」

 ヤクザは全身をビキーン! と硬直させて、ライオンに食べられてる際中のゴリラみたいに絶叫しました。

「ハイハイミスター・ジオング、あんよは上手、転ぶはおへた。がんばれ♡ がんばれ♡」

「おあああああああああああああ!」

 肩を押さえつけて太ももを地面にグリグリ押し付けます。タガの外れたオーケストラの絶唱が響き渡ります。その熱い歌声に引かれたのか、ようやく扉が開きました。


「うるさいよ! ちょっとは近所迷惑ってものを考えな!」

 いつもの2.5次元面をしかめてブサイクが扉の隙間から怒鳴りました。OK、愛しのカレを返してあげます。

「ヘイ、パース!」

「……? ……ひっ、ひゃあああっ!」

「グゥッ!」

 投げ渡すとババアはいったんはそれを受け取ったものの、すぐに声を裏返らせて投げ捨てました。ヤクザは頭を打ってうめいてます。ひどいことしますね、こいつ。何事かと出て来た夜の蝶が二人、イモムシヤクザを見て悲鳴を上げて逃げ出しました。


 それにしても……。


「フフ、フフフフフ……」

 地面にベチャッと伸びてウーウー言いながら蠢くヤクザ。

 腰を抜かしてへたり込んだウアカリ。

 ドブに落ちて死ぬのを待つだけのネズミみたいな二人を見下ろしていたら何だか自然と笑いが漏れてきました。


「アハハハハ! アハハハハハハハハ!」

 やはり暴れたいときに暴れられないというのはフラストレーションが溜まりますからね。久しぶりに力を使ってスカッとサワヤカ、心が洗われたようです。

 いやー、暴力って本当にいいものですね。ですよね、ケンシロウ?

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