1.55 街金ウルリラさん
「あのウアカリ……ぶっ殺してやります!」
絶対昨日の2.5次元がやったに違いありません。おばちゃんは「証拠がないよ」と力なく肩を落としてしまいましたけど、物証はなくても心証では確実です。
「仕方ありません。とりあえず屋台は新しく作り直すとして……」
「お金がないよ」
「なければ借りればいいのです。商売は他人の金でやるものです」
というわけでおばちゃんと二人で町の中の金貸しのところへとやってきました。この世界の金融業者は規模の大小はあれどまだ個人商店の域を脱していません。この庶民向けの街金も間口一間の小規模店舗です。
「ごめんくださーい!」
お店に入ると若い男が店番をしていたので「お金貸してください。五十メリダでいいです」と声を掛けると「店長を呼んできます」と慌てたように奥の方に引っ込みました。
「店長ー!」
店番の声がして、少しして四十がらみの女主人が出てきました。針金を束ねたみたいな痩せっぽちです。でも、線は細いですけど芯は太そうです。女主人はおばちゃんを見て「なんだい、デリラじゃないか。アンタのとこは手堅くやってたと思ったけどね」なんて言いながらボクをジロジロねめつけてきました。値踏みされてるようで気分悪いですね。
「そのエルフのせいかい?」
「それがねぇ、聞いておくれよ」
「ま、立ち話も何だしこっちへおいでよ」
女主人はボクたちを応接室へいざなったのでした。
「──なるほど。屋台を壊されたので再建したい。で、屋台の撤去費用と再建費用が合わせて50メリダ、と」
「そういうことです」
「あの屋台で五十メリダも返済できるだけのアテがあるの?」
「任せてください。ここ十日間の串かつと串焼きの販売本数は一日当たり六百本弱でした。金額で言えばだいたい三メリダです。ただし原材料費、燃料費、人件費、雑費、税金が売上に対して合わせて80%ほどあるので利益は毎日十四から十五プライドルほどですね。ですのでこの利益の25%を返済に回すとして──金利はいくらです?」
「ウチは単利で月利2%だよ」
「それでは毎月四メリダを返したとして……えーっと十七か月で完済できる計算になります。多少の売り上げ低下や店休日を考慮に入れても二十か月もかかりませんよ」
「なるほどね」
女主人は視線を斜め上に向け、あごに手を当てて何やら考え事のポーズです。
「……そうだね。今日いきなり貸すの貸さないのという話にはならないからね。検討してみるから明日またこの時間においで」
「検討した結果融資はできないという結論になりました。悪いね」
翌日また同じ時間に街金に行くと借金を断られてしまいました。え、何故ですか!?
「ええ、何でだい?」
おばちゃんも驚いています。
「返済計画に問題はなかったはずですけど」
「調べてみたんだけどアンタたち『夜の妖精亭』の亭主とトラブルになったそうじゃないか」
「あのウアカリそんな店をやってたのですね。で、何です? そのいかがわしい名前の店は」
「いかがわしい売春宿だよ。他にもいくつか飲食店を経営してるね。まあそういう商売だから当然バックにはヤクザがついてる。──さああなたたちにお金を貸しました、あなたたちは屋台を再建しました。どうなると思う? 絶対また壊されるよ。返済どころじゃない」
「うわ……マジですか。そこまでやりますか?」
「アイツはそういうことをやる女だよ。ウチは町の人たち相手の小さな商売でね、他所みたいにアコギなことはしてない。エルフは金勘定できないから知らないだろうけど、単利の月利2%はこの国じゃかなり良心的な設定だからね。逆に言えば大して儲かってもないんだ。焦げ付きそうな融資をする余裕はないんだよ」
すげなく店を追い出されてしまいました。さすがにちょっとショックです。おばちゃんは見るも哀れなほどにうなだれています。
……あーもう、しょうがないですねぇ。こういうことはあまりやりたくなかったのですけど!
「仕方ありません。この町で一番高級な生地卸店を教えてください」
「……どうするんだい?」
「金のあるやつに用立てさせます」