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1.52 かぶりもの

 屋台街はかつてない活況を見せています。行き交う人の波は朝の開店から夕方の閉店まで途切れることなく、そこかしこの店頭から店と客との威勢のいいやり取りが聞こえてきます。

 串かつは言うまでもありませんしアヒルの屋台も隣のスープ屋も順調です。そばのガレットで肉を巻いていたおっちゃんはハンバーグがすっかり気に入ってしまい肉野菜炒め屋を辞めてハンバーガーショップに転身しました。ボクが作ったガレットで挟むタイプのとは別に、丸パンのバンズでハンバーグを挟んだハンバーガーそのまんまのものも自分で工夫して繁盛してます。照り焼き風ソースのバーガーもあるのですけど、砂糖も醤油もなしでどうやってるのでしょうね? ミラは五人くらいに分裂してあちこちの屋台でせわしなく働いています。


 ボクはもう自分では働いていません。新しいレシピを作るのが忙しくて売り子をやっているどころではなくなってしまったのです。別にお金がほしくてやってたわけではないのですが何だかくれるというので、協議の結果アイデア料として屋台一軒につき一日銅貨十枚をもらうことになりました。おかげで不労所得が毎日金貨一枚分入って来ます。


 今日も屋台街のメニューの改良のために市場へと視察に出かけることにしました。


 人々の流れは東門へと向かっています。屋台街に昼食なり夕食なりを買いに行くのでしょう。遠いとか家に台所があるとかの理由で今まで来なかった客層もリピーターとして定着しつつあります。ちなみにこの町の住民たちは一日三食、農家だと五食は食べるそうです。体を使うとお腹が空きますものね。

 道を行き交う町の女たちの多くはスカーフを三角に折って頭に被っています。帽子をかぶっている女もいます。男はたいてい帽子です。かぶっていないのもいますけどほとんどは子供か若者です。


「前から気になってたのですけど、あれってどういうファッションなのですか?」

 同行していたミラの四機目だか五機目だかに聞いてみると「あれはねー、結婚するとスカーフを頭に巻くの」という答えが返ってきました。

「私独身だから何もかぶってないでしょ」

「貧乏だからかと思ってました」

「いや首に巻いてるでしょ」

「前は巻いてなかったじゃないですか」

「冒険者は巻かないの。町の人間じゃないから」


 要するに未婚者はスカーフを首に巻き、既婚者は同じスカーフを三角巾にするようです。夏の素材は亜麻、冬にはウールに変わります。リノスでは絹も木綿も生産していませんがこのスカーフのためだけに亜麻が生産されているのだとか。

 通行人を見る限り未婚女性は結び目が前に来るオーソドックスな巻き方で、男の場合はアスコットタイのようにして巻いているみたいです。ただしミラによると独身者でも「今恋人はいりません」という意思表示で既婚者のようにかぶることもあるそうです。

「お祭りのときとかね。ナンパ避けで」


 その時、花冠をかぶった男が弾むような足取りで通りすがるのとすれ違いました。

「あのアホっぽいのは何ですか?」

「あー、あれはプロポーズ成功したんだね」

 何でも男性からのプロポーズを受けたとき、あるいは女性の側からプロポーズするとき、女性は男性に花冠を渡すのだそうです。男性がそれをかぶることで婚約が成立するのだとか。

「いいなー、うらやましいなー」

「お前でも結婚願望あるのですね」

「私は結婚したいってずっと言ってたでしょ」

「そういえばそうでした。家付きの男と結婚して町で暮らしたいのでしたね」

「そう! 目指せ玉の輿!」

「冒険者でも一般人と結婚できるのですか?」

「ほうりつ上はできる……で、結婚したら市民になれる。家に住める」

「そりゃ法の定めの上ではできるかもしれませんけど、そうではなくて。おとぎ話なら追放された没落令嬢が王子様と恋に落ちて一発逆転玉の輿、なんてこともあるでしょうけど、現実にそんなことが起きるかというと……。まして冒険者では……」

「そんな言葉は聞きたくないし!」


 花冠はともかくとして、例えば役所やギルド勤めならフェルトのソフトハット、商売人ならハンチングやキャスケットと、帽子の色、柄、布地、形状などである程度所属がわかるそうです。ついでに寡婦は被り物をするもしないも自由だそうで、大抵は首に巻いて結び目を横に跳ねさせてりしているみたいです。あーあー、そういえばギルドのサブマスがそんな感じでした。


「この地方独特の風習ですか?」

「どうなんだろ。うちの国はどこに行ってもこうだと思うけど。リンスはつけてないから他所から来たってわかるんだよね」

「なるほど」

 そこでアイテムボックスからスカーフを取り出してターバンみたいに巻いてみました。

「それはどういうあれなの」

「特に意味はありません」

 ただのファッションです。



 おまけですけど小さい女の子はみんな白いエプロンを着ています。不思議の国のアリスを貧しくしたような姿です。服を汚さないための工夫でしょう。どうも人間の染色技術は低いようで、色柄物はちょっと洗濯するとすぐに色あせてしまうようなのです。白いエプロンなら汚しても洗えますものね。そのせいかエプロンは子供っぽさの象徴のようになっていて、思春期になるととたんに着るのを嫌がるようになるそうです。

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