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1.48 私が私を見つめてました

「というわけで誰か手伝って欲しいのですけど」

 夜、屋台を閉めていつもの酒場でいつものメンバーと飲みながらバイトを募集してみたのですけど……みんなヘラヘラ笑うばかりで反応が芳しくありません。ラーナはガン無視でビールをあおり、ノンナを見つめるとプイッと視線を外しました。

 ボクのバイト代で飲んでおきながらこの態度……。こいつらクソですね。忌憚のない意見ってやつです。


「赤毛、お前はどうですか?」

 水を向けると赤毛はビールをチビチビ飲みながら「私料理は嫌いなの」とそっけなく言いました。

「お前そんなだから男に捨てられるのですよ」

「ハァ? できないとは言ってないし。彼には作ってあげてたし」

「では原因はやっぱり胸の方ですか……」

「ハァ────!? 他の誰に言われてもあんたにだけは言われる筋合いはないわぁあ!!!」

「ドウドウ」

 顔を真っ赤にして立ち上がった赤毛を犬耳の巨乳が後ろから抱き留めました。いやボクにおっぱいがあったらおかしいじゃないですか、男ですのに。お前にないのはおかしいですけど。


「じゃあ私やってみよっかなー」

 なんとミラが手を挙げてくれました! 思わず肩を抱きながら称賛しましたね。

「おおミラ、偉大なる宴会屋、お前こそ女です。他のやつらは母親の子宮の中に金玉を置き忘れてきたできそこないの男です」

「ちょっと興味あったし。その代わりお給金は弾んでよね」

「任せるがいいです。冒険者やってるよりももうけさせてあげますよ!」


「フフン」

「まあせいぜい頑張ってねー」

 他の連中はニヤニヤ笑いを隠そうともしません。

 こいつら本当にクソですね!



 次の朝さっそく非定住事業者登録をさせて、その日のうちからお肉を揚げさせました。

「串かつ五本くれー!」

「こっちは十本だ早くしろっ間に合わなくなっても知らんぞー!」

「そんな手つきじゃ金はやれねぇぞミラー! 串かつ売るより自分を売れー!」

「ふぇー!」

 指の股全部に串の根元を挟んで鍋につっこんだミラが眼を回しています。


 おばちゃんがひたすらお肉を捌いて串かつの仕込みをして、ミラは渡されたその串かつの元をひたすら揚げてゆきます。ボクはお肉の焼き加減を見てお客に渡してお金をもらっています。こいつはアホの子で計算ができないのでボクがレジ係をやるしかありませんでした。スパコン並みのボクの演算能力をこんなところで浪費するのは無駄遣いもいいとこですけどこの際仕方ありません。でもまあ人手が一人増えた分お客の罵声は昨日よりは収まった気がします。あとあの冒険者は殺しましょう。マジで。


 ようやくお客の列がはけて休憩です。ミラはくたびれ果ててぐったり伸びています。

「思ったより忙しかった……」

「お前のおかげで昨日よりはマシでしたよ」

「手伝いが欲しいって言ってた意味がわかったよ。なんかもう、自分がもう一人欲しいくらいだよね」

 自分がもう一人ですか……。そういう魔法に心当たりがあるんですよね。

「やってみますか?」

「え?」

 ボクはこれあまり得意じゃないのですけどね。行きますよ!


「【分身】!」


 視界が一瞬ぶれました。隣を見るとkawaiiの化身がボクを見つめています。鏡でしょうか? ボクですね。

 あー、もう限界です。力を抜くとボクとボクとは吸い込まれるように元の一人に戻りました。

 ミラは目をぱちくりさせています。

「え? 今の何? どうなってるの?」

「複製の神ロスリンの【分身】の魔法です。自分自身をコピーして一時的に分離するのです。幻像や幻覚とは違う本当の分身の術です」

「そんな魔法が……」

「いいですか、これからこの魔法でお前を二人に増やします。その感覚を自分のものにできたら、もしかしたらロスリンがお前に力を与えてくれるかもしれません」

「うー……お願い!」


 そしてボクはえいやっ! とミラに【分身】の魔法をかけました。ミラの輪郭がゆらりと震え、サボテンが同じ形に増えるようにあるいはゾウリムシが細胞分裂するように、PON! と二つに割れました。ミラとミラとは驚きの目でお互いを見つめました。

「「うわすごい、私が目の前にもう一人いる! うわー変な感じ!」」

 そして二人のミラは両手を天に掲げて叫びました。


「「神さまー! 私にもこの魔法を使えるようにしてくださーい!!」」


 翌日、屋台に並ぶ客たちはなんとなーくざわめいていました。まったく同じ姿形の女性がそっくりな手つきで串かつを揚げているのです。双子でしょうか? ミラですね。

 二人のミラが、ときどき三人になりながらお肉を揚げたり焼き加減を見たり、余裕ができるとおばちゃんの手伝いまでしています。自分同士ですから息もぴったりです。おばちゃんは少し気味悪そうに串をミラに渡していました。


「できてるじゃないですか」

 声をかけると二人のミラはまったく同じタイミングで答えました。

「「やってみたらできた」」

 人間やればできるものですね。

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