表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/195

1.46 あ、これ美味しんぼでやったところだ!

 用意するものは仔羊の肉(可能ならロース)、豚の脂身をどっさり、堅くなったパンとハードタイプのチーズ、ニンニク、小麦粉と水と塩、分量外の水少々です。前世なら豚肉を使うところですけど、この町の豚肉って臭いのですよね……。そもそもこの屋台は羊の串焼きの店ですし。せっかくですから同じ肉を使います。

 屋台の裏手に回って金物屋で買ってきた銅の鍋をアイテムボックスから取り出し、魔法で空中に固定します。鍋に分量外の水少々を入れて魔法で加熱して、沸騰したら魔法で刻んだ豚の脂身を加えます。するとだんだん脂が溶けだしてくるので加熱を続けながらどんどん脂身を追加します。最初に水を入れたのは脂身を焦げ付かせないためで、脂が溜まって来ると水は蒸発してしまって純粋なラードが残ります。こうすればラードが取れるって美味しんぼのとんかつ回で読みました。

 おや、おばちゃんが横目でチラチラこっちを見てますよ? ククク、気になっているようですね……。


 ラードを作る間に羊の肉を屋台で売ってる串焼きと同じ大きさに切って表面に塩と小麦粉をはたきます。この世界は肉体労働者が多いので味は少し濃いめにしておきましょう。エルフの基準では塩辛いというレベルです。汗をかくと塩分が欲しくなりますからね。味付けは濃ゆく、風味はきつく、異世界人の舌に合わせて全体的に下品な味付けで攻めることにします。

 次にバッター液を作ります。と言っても卵は高くて屋台で使えるような金額でないので入れてませんけど。何しろ一個が銀貨1枚もするのです。商業者ギルドの月会費の20%ですよ?

 これも土地柄からの事情で、やはり鶏が少ないのです。鶏は農家の庭先で細々と飼われているだけで市場に出回るほど生産されていません。これもなんでかなーと思ったのですけど、聞いて回ったところどうやらこの辺りでは穀物の生産量が極端に少なくて鶏に回すほどの余裕がないからのようです。作物の中ではじゃがいもとそばは人間が食べるもので豆は馬の移動時の飼料、大麦はビール用、お肉は青草食ってても育つ羊とかガチョウとか、残飯を与えておけばよい豚とかがメインみたいですね。おかげで鶏肉が出回っていませんし、卵は嗜好品の扱いです。これではなろう定番のプリンが作れません。まあボクはプリンって作ったことないのですけど。茶碗蒸しなら作れるのですけどね。アヒルの卵なら時期によっては売ってることもあるみたいですけど、あれって固まらないのですよね。

 というわけで羊の乳に小麦粉でとろみをつけたものをバッター液の代わりにします。ダマが残らないようによく混ぜます。ご家庭で作る場合は溶き卵を使った方が確実だと思います。

 それから堅くなったパンをすり下ろしてパン粉を作ります。ところでこの辺りはハーブはそこそこあるのですが香辛料がまるでありません。そこでニンニクとチーズを臭み消しに使います。消すというか臭いものに臭いものをぶつけていい匂いに昇華させるのです。

 また羊の話になりますけど、仔羊を間引いた分の母羊の乳が余るので、絞ってチーズにします。羊の乳は牛乳より濃厚でチーズにするのに向いているそうです。このチーズは自分たちで食べるためのものと輸出するためのものと両方の用途で作られています。というわけでチーズは割と安価で売られているので屋台でも気軽に使えます。

 パン粉にニンニクのみじん切りとハードタイプチーズをすり下ろしたものを混ぜ込みます。マトンほどではないとはいえラム肉もやはり独特の風味がありますからね、臭い消しです。普通ならニンニクの切り口を肉になすりつけるとか油で一緒に揚げるとかで済ませるところをこうすると味と臭いがめちゃくちゃくどくなるのですが、肉体労働者にはたまらない味になるのです。どうもこの世界の人間たちってイタリア人並みにニンニクが好きみたいですし、きっとウケることでしょう。

 あー、胡椒がないのが本当に残念です。


 さてラードもいい感じに溶けてきましたので揚げていきましょう。

 羊の切り身を串に刺します。バッター液にくぐらせ、衣をしっかりつけて、カンカンに熱した脂で一気に揚げます。衣がきつね色に色づいたら引き上げます。

 普通の揚げ物だと二度揚げするとか、温度の低い油で揚げてから温度の高い油でさらに揚げるなんて手順を踏みますよね。あれは具材の中まで火を通してからさらに衣をカラリと揚げるための工夫なのですが、今回の料理では手順を逆にしています。つまり先に外をカラッと揚げておいてから中に火を通します。この屋台では焼けあがった羊肉は端っこの炭火の弱いところに置いて保温しています。そこに一緒に置いておいて、炭火の輻射熱で肉の中心まで火を通すと同時に余分な脂を飛ばしてやるのです。

 まあ今回は屋台を借りられないので炭火の代わりに魔法で加熱しちゃいましたけど。


「さーどうぞどうぞ、ボクの串揚げ食べてみてくださいです。あ、お前にもあげます」

 完成した串揚げをおばちゃんと、ついでにちょうど串焼きを買いに来ていたお客とに渡します。

「お、いいのか? 悪りぃな」

「じゃあせっかくだから……あら、おいしいねえ!」

「うっめ! 噛むと口の中に脂がジュワッ! またこのカリカリのニンニクとチーズの風味がたまんねえな」

「脂って甘いんだねえ。それに焼いたのよりも肉がジューシーだし」

「どうです? 結構イケるでしょう。お店で出してみませんか?」

「うーん……これは確かにうちの店でも出してみたいかも……」

「こんなにうまかったら絶対評判になるぜ。俺も買いに来る!」

「ね? お客さんもこう言ってますよ? 是非ボクの料理も置いて欲しいのです。お願いお願いなのですぅ」

「うう……そんなに可愛くおねだりされたら……ええいもう、しょうがないねぇ!」


 かわいらしくしなを作って迫ったらおばちゃんは簡単に陥落しました。人間に媚は売らないとキッパリ言ったばかりなのに……すみません、あれは嘘でした。でもまあこれでボクの料理を売る屋台をゲットです。

料理の原型は仔羊のミラノ風コトレッタです。跡形もありませんけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ