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1.38 【闘わせてみた】激突! 冒険者VSゴブリンキング!

「さっきは説明し損ねましたけど、ゴブリンは同じ住居の中で数が増えるとその中から巨大化した個体が現れます。いわゆるホブゴブリン──ソルジャーやアーチャー、メイジやシャーマンといった特殊な役割を持つゴブリンですね。発生のメカニズムは成長ホルモンの過剰分泌によるものです。脳内でのストレス物質の放出が閾値を超えることがスイッチになることがわかっています。具体的には巣内の生息密度が高くなるとそのストレスで成長ホルモンの過剰分泌が始まります。しかしこの巨大化した個体には例えば末端肥大症のような不自然なところが見られず、むしろ均整の取れた肉体になることが昔から知られていました。普通のゴブリンたちの方が不格好ですよね。またホブゴブリンになると成長も遅くなりますし妊娠期間も平均266日と長くなります。寿命も20年まで伸びます。古くから疑問に思われていましたけど、その後の遺伝子解析により実はこの巨大化した姿こそが本来のゴブリンの姿であり、ノーマルなゴブリンはいわゆる幼形成熟であると考えられるようになりました。実際にホブゴブリンの骨格はオークとそっくりで、こちらの姿こそが本体であることを示しています。ゴブリンは早い性成熟や多胎性、短い妊娠期間などとにかく増えることに特化した進化をしていますけど、幼形成熟もまた同じ戦略の延長にあると思います。おそらくはカロリーの消費を抑えたまま繁殖するためにこのような形質を獲得したのでしょう。カロリーつまり食料が十分に多いと判断する材料が生息密度というわけです。人間その他の類人猿と比べてみてたかだか300万年でこのような特異な進化を遂げるとは通常では考えられませんので、進化の神メイシアの介入が予想されています。さて、ホブゴブリンが発生すると『巣分け』が始まります。ホブゴブリンに率いられた若いゴブリンたちが新しい居住地を探して巣立つのです。ところが生息地の洞窟が十分に広いと同じ洞窟内で巣分けが行われ、結果として狭い範囲にゴブリンおよびホブゴブリンが密集する、つまりホブゴブリンの生息密度があがるわけです。こうなるとホブゴブリンたちの中からさらに支配的な個体が現れます。これがゴブリンキングです。さらに数が増えると最終的にキング・オブ・ザ・キングゴブリンズ、ゴブリンエンペラーが誕生するのです。この洞窟はまだ皇帝誕生とまではいかないようですけど、群れの成熟度はなかなか高い水準にあったようですね」

「言ってる場合か!」

「クソッ、俺たちで勝てるか……?」

「やるしかねえ!」

「では頑張れです」

「はぁ!?」

「お前も戦えよ!」

「だってボクがやったら秒で終わるじゃないですか。それじゃ面白くないですよ。今日はまだボクしか働いてないことですし、せっかく来たのですからお前たちも仕事してくといいです」

 言いながらボクは後ろに下がりました。ボクができないなら危険を冒す役割はこいつらに分担してもらいましょう。


「おい!」

「待てよ!」

 取り残された形の二人は青い顔をしながらそれでも覚悟を決めたようで、剣と盾を構え直しました。


 ゴブリンキングは異様と言えるほど膨れ上がった筋肉に毛皮をまとい、背中に背負っていた長大な金棒を両手に構え直しました。ゴブリンは鉄を加工できませんので金棒と言っても青銅でしょうけど。ゴブリンスミスでもいたのでしょうね。コツコツ集めた銅を彼らの王のためにわざわざ鋳溶かして作ったのかと思うとその貧乏臭さに泣けてきます。


「ゴアアアアアアアッ!」

 ゴブリンキングはバットの素振りのように金棒を後ろに引きました。同時に金棒が光を放ちます。あ、流星剣ですね。

 雄たけびと同時の大振りで金棒の形に気が放たれました。

「うおっ!」

「危ねっ!!」

 二人が地面に体ごと投げ出して伏せたその上を流星剣が通り過ぎ、広場の向こうの木々をなぎ倒します。ボクは普通に魔法でガードしましたけど。冒険者たちが地面に伏せた瞬間に間合いを詰めたゴブリンキングは大きく振りかぶった金棒を二人目がけて叩きつけました。二人は全身の力で跳ね飛んで間一髪かわし、後ろに転げて距離を取りましたけど体勢を立て直す前にまたゴブリンキングに接近されて慌てて左右に散りました。


 ゴブリンキングは見たところ身長2m以上体重200kg超、戦神オグマの加護を受けていて見た目以上の腕力と時速120km以上の瞬間的なダッシュ力を持っています。加えて火神グレイスの加護もあるようですね。戦神の加護で落盤を、火神の加護で爆発を耐えたのでしょう。ボクが闘った冒険者で言えばマル……何とかいう最初に闘った男と互角と言ったところでしょうか? この二人ではちょっとばかり荷が重そうです。


「「くらえっ!」」

 冒険者A君B君が左右から同時に流星剣を放ちました。一応戦神の加護も持ってたのですね。

「ガァッ!」

 ゴブリンキングは気合いを入れて全身の筋肉を引き締めました。【鋼身】の魔法です。ギャリンギャリンと金属的な音を立てて二筋の流星剣が表面で弾けました。その皮膚にはかすり傷もついていません。

 うーん、戦神の魔法はこの二人よりもゴブリンキングの方が上手そうです。

「オラァ負けてますよ冒険者、もっと気合い入れるです!」

「……チクショー!」

 二人は遠距離攻撃を諦めて接近戦に切り替えました。


「ガアアアアッ!」

「ゲフッ!」

「クソッ、何もできねえ!」

 二人はゴブリンキングの猛攻を何とかしのいでいます。冒険者A君がゴブリンキングの懐に潜り込もうとして蹴り飛ばされたのを見て冒険者B君が後ろから切りかかろうとしましたが、金棒の素振りで牽制されて慌ててバックステップでかわします。


 うーん、この二人、自分たちで言うだけあってあまり戦闘には向いてないようですね。もちろん一般人とは比べ物にならないのでしょうけど、これが例えばチューターとラーナの二人ならとっくにカタがついているように思います。

 ゴブリンキングの攻撃は確かに重そうですけど基本的に大振りです。青銅は鉄より重くゴブリンキングの筋力をもってしても「技の出所がわからない攻撃」などという芸当はできません。威力はあってもいつ振るか、どこを目がけて振っているかバレバレです。落ち着いて見ていれば避けるのは池のメダカをすくうよりも簡単でしょう。でもこの二人の場合、戦闘力の自信のなさとか金棒の威力への恐怖とかゴブリンキングが発する咆哮で身がすくんでしまうとか、いろんな要素のために腰が引けてしまっています。

 あ、冒険者A君が攻撃をかわしざまに足がもつれて転びました。ゴブリンキングは冒険者A君の前に立ちはだかり金棒を大きく振りかぶります。冒険者A君の顔が恐怖に引きつります。これは当たりますね。すなわち死です。

 しょうがないですねぇ……


「ゴオオオッ!」

「うああああっ!」


 ゴキィン!


 すごい音がしました。

 空を切って振り下ろされたゴブリンキングの金棒を冒険者A君の目の前に現れた光の膜がはじき返しました。ゴブリンキングも手がしびれたのでしょう、思わず金棒を取り落としそうになりました。


「ガッ、ウガアアアアッ!」

 ゴブリンキングはさらに何度も冒険者A君を殴りつけますけどそのたびに薄い膜が光って攻撃をはじき返します。躍起になってガンガン叩いてますけどびくともしません。

 冒険者A君は呆けたように目の前の光の膜を見ています。


「……何だこれ」

「それは太陽神の防御魔法【光のヴェール】です。物理攻撃を完全に遮断します」

 後ろから声を掛けると冒険者A君は「何言ってんのこいつ?」という目でボクを見ました。助けてやったのに失礼なやつです。


「ギエエエエエッ!」

 ゴブリンキングは今度は大きく息を吸い込んで、絶叫と共に激しく火花を散らす赤い炎のイフェクトを吐き出しました。あれは火神の魔法【火炎放射】ですね。本来なら火線が命中したところが燃え上がるという魔法なのですが……。

「えい」

 ボクが展開した闇の膜に触れるとジュッとバケツの水に花火を突っ込んだような音を残して消えてしまいました。

「グッ、グエ?」

 愕然としたゴブリンキングはさらに何度も息を吸っては火炎放射を連発しますけれどもすべて闇の膜に吸い込まれてしまいます。魔力の無駄遣いですね。無駄無駄の大無駄です。


「……何だこれ」

「それは暗黒神の防御魔法【闇のとばり】です。魔法攻撃を完璧にシャットアウトします」

「あ、もしかしてお前がやってたのか」

「いまさら気づいたのですか?」

「なんだかなー」

「ズルくね?」

「ではやめましょう。正々堂々闘うといいです」

「いえ是非このままでお願いします!」

「安全最高!」

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