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1.33 遭遇戦

 休憩を挟みながら四時間も進んだでしょうか。足手まといの二人を引き連れてましたので本当に亀の歩みのように遅かったのですけど、平均時速二キロメートルでジグザグに進んだとしても五キロメートルは森の奥に入り込んだことでしょう。そろそろ目的地に近づいたはずです。多分。


「お」

 冒険者が声を上げました。獣道の奥でロープに足を引っかけた鹿がもがいています。くくり罠ですね。鹿は宙に浮いた足を何とかしようとケンケンしています。

「ゴブリンの罠だな」

 研修の時にもありましたね。


「確かにこの辺りにゴブリンの巣があるみたいだな」

「ああ。それほど大きくないといいんだが……」

「どうする? 待つか?」

「そうだな。隠れる場所を作ろう」


 後ろで二人が何か相談してます。何の話でしょうね? アイテムボックスに入れていた細長いパンを鹿に食べさせながら聞いてみました。

「何を待つのですか?」

「ゴブリンだよ。そのうち罠を見回りにくるだろう。そうしたらその鹿を仕留めて持って帰るだろうから、後をつけて棲み家を確認するんだ」

「それなら、待つまでもなく来たみたいですよ」

「なにっ」

 ボクは耳がいい上に魔法で常に周辺の状況を把握してますからね。曲がり角の向こうから四匹のゴブリンが近づいてくるのを既に察知済みです。冒険者たちは慌てて盾を構え剣を抜きました。


「ギエッ!」

 ノコノコやってきたゴブリンたちがこちらを見て一瞬硬直しました。人間がいるとは思ってなかったのでしょう。あちらも慌てて石槍の先を向けて威嚇の声を上げてきました。ギャーギャー言っててうるさいですね。

「どうします? これ。やっちゃっていいですか?」

 指さして聞くと大声を上げてゴブリンと同レベルの威嚇をしている冒険者たちが青筋を立てて怒鳴りました。

「できるならさっさとやれよ!」

「お前強いだろ!」

「はいはい、それでは」


 というわけで一匹を魔法の力で捕まえて空中に持ち上げました。「グェッ!」とか言ってますけどどうしましょうかね……。とりあえず潰しときましょう。ボクは魔法でゴブリンの右耳を引きちぎって回収し、胸の前で手を合わせる動作をトリガーに圧力の魔法を発動。ゴブリンの全身に一億パスカルの圧力をかけてやりました。

「ギエッ!」

 ゴブリンの肉体は一瞬でグシュッ! と潰れました。周辺の大気は巻き込んでなかったのですけど肺の中の空気が断熱圧縮された熱でゴブリンの肉体は一瞬で煮え上がりました。さらにこねこねこねくり回してるうちにまぁるくなってゆきました。隙間からしみ出した血液がでこぼこした球体の表面を細かく振動しながら覆ってゆきます。

「ヘイお待ちデェス!」

 ボトリ。できあがったゴブ肉団子を残った3匹の前に転がしてやります。圧力から解放された血液が霧状に飛び散ってゴブリンたちを濡らしました。


「「「オッ、オアアアアアアッ!!!」」」

 ゴブリンたちが絶叫しました。何でこうなったのかはわからないでしょうけど目の前で仲間が一匹つくね団子に調理されたことは理解できたのでしょう。すかさずもう一匹別のゴブリンを魔法の手で捕まえます。また右耳を引きちぎって回収して今度は熱を奪う魔法でマイナス四十℃まで瞬間冷凍、さらにスライサーの魔法でスササササッと1mm厚にスライスしてリアルMRI画像の完成です。魔法で一枚一枚並べて空間固定して空中に展示してやりました。

「健康なクランケですねー。あ、でもよく見ると尿道炎を患っているようですね。クラミジアですか?」


「「ヒエエエエエエッ!!」」

 そろそろボクがやってるって理解できたでしょうかねぇ? 三匹目のゴブリンを魔法の力で捕まえて右耳を引きちぎって、今度は数学的意味における四次元側の方向から力づくで引っ張り出して表面と中身をひっくり返してやりました。

「……! …………!!」

 裏返ったゴブリンは皮膚が真ん中で塊になってその周りに肉、内臓や骨や脳みそがその表面に張り付いた前衛オブジェに変身しました。ミカンの皮をむかずに中身を取り出したいときに便利な魔法ですけどゴブリンに使えばご覧の通りです。血管や内臓も裏返しちゃった方がやり方としては楽なのですけど、それやると即死しちゃいますからね。しばらく生命を維持するだけの機能は匠の技で残しておきました。体の表面でまだ心臓がドクンドクン脈打って網目状に走る血管に血液を送り続けているのが観察できます。まあ口と鼻が内側になっちゃってますので遠からず窒息死するでしょうけど。


「オゲェェェ……」

 残った最後のゴブリンがサーモンピンクのぬっぺっぽうを見てゲーゲー吐いています。

「次はお前でーす!」

 なんて言ってもゴブリンには言葉がわかりませんからね。警告代わりに魔法の手でナデナデしてやりました。

「ヒッ、ヒイイイイイッ!」

 舌で舐めるかのようにベロンとほっぺたを撫で上げてやると、残ったゴブリンは恐怖の叫びを上げながら元来た方へと一目散に逃げ出しました。


 冒険者たちはまだ剣を向けたまま立ち尽くし、逃げて行くゴブリンを呆然と見送りました。

「な、何だ今のは……」

「何をしたんだ、お前……」

「魔法ですよ。魔法で潰して冷やしてひっくり返してやったのです」

「魔法? お前の加護って戦士系じゃなくて魔法使い系だったのか?」

「あれ、言ってませんでしたっけ?」

「聞いてねーよ!」

「魔法使い系なのにマルクを殴り倒せるのかよ……」

「魔法と言っても今のはエルフなら誰でもできるような初歩的なものですけどね。……何ですかそんな距離を取って。心配しなくても人間相手に魔法を使うつもりはありませんよ」

「本当か? 本当に大丈夫か?」

「ククク、信じるがいいです……。まあ生殺与奪の権は完全にボクが握ってるので、信じるというか寛恕を乞うしかお前たちにできることはないのですけどね」

「クソ、信用致しますよ慈悲深きエルフ様!」

「ゴブリンなんかよりこいつの方が危険なんじゃないか……?」

 実際のところボクがその気ならこいつらはとっくにあの町ごと真っ平ですからね。今までそうなってないってことはそんな気はないってことですから、安心するがいいです。


「そんなことよりこれであのゴブリンが巣まで案内してくれますよ。後を追いかけましょう」

「そ、そうだな」

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