1.29 こいつけつあな確定な
さらに翌日、ボクはまた決闘場に向かっていました。昨日酒場からの帰りがけに勝負を挑まれたのです。今日の相手はアーリーという男で、貼りつくようなにやけ面をしてたのが印象に残っています。
「一晩と言わずかわいがってやるぜ」
なんて言ってました。実際の接点は秒の単位になりそうですけど。
「おう姉ちゃん、どこに行くんだ?」
決闘場への道すがら男たちに声を掛けられました。髪をトサカみたいに逆立てた頭の悪そうな男が三人です。この江戸時代より未開な世界でどうやって逆立ててるのでしょうね?
頭が悪そうとはいっても冒険者ではないみたいですね。町民風の服を着崩して腕まくりをしていて、決闘した男たちのような盛り上がった筋肉とは程遠い普通の腕が見えています。
三人はボクを取り囲むように位置取りました。タチの悪いナンパのつもりでしょうか? 今日のボクはフェミニンな春色トップスとふわふわフレアのチュールスカートにヒールの高いミュールでまとめたゆるふわコーデです。パッと見て普通の女の子だと思ったのかもしれませんけど、こんな奇蹟のようにカワイイ子がお前の近所に住んでるわけがないじゃないですか。
「お前たちに答えてやる義理はありませんね。そこをどくがいいです、邪魔すると攻撃とみなしますよ?」
「まあそう言わねぇでさ、ちょっと付き合えよ」
男はボクの腕をつかんでグッと力を込めました。
はい敵対行動確定です。即座に繊維の神マールの【操布】の魔法を発動、男たちの服の布地を引っ張って腕まくりを直して腕を後ろにひねり上げ、両ひざを折りたたんでその場にひざまづかせてやります。罪人座りです。「うおっ」とか「あおっ」とか変な声を上げながら次々しゃがみこんだ男たちの襟をさらにぎゅっと締め上げます。
「……!」
声も出せずにジタバタしてますけどこいつらの貧相な体では布地はびくともしません。次々ガクッと意識を失いました。
ボク対人間で魔法ありだと本当に勝負にならないのですよね……。つまらないです。
一応ギルドカードを取り出して確認してみましたけど何の変化もありません。カードの裏は緑色のままです。なるほど、聞いた通り『正当防衛は冒険者の権利』ということですか。
魔法で水を呼び出して、ふよふよ浮かぶ水の玉を男たちの顔にぶつけます。
「ぶはぁっ!」
「ゲホッ! ゲホッ!」
目を覚ました男たちは喉に入った水をゲホゲホ吐きました。
「お前たちどこの誰です? 何のつもりでボクに声を掛けたのですか?」
「ヘッ、てめえの知ったことか」
「こんなことしてタダで済むと思ってるのか? オラ」
やれやれ、会話のできないお猿さんたちです。ボクは【換装】で手袋を装備して、糸を伸ばして男たちをがんじがらめにしました。この手袋はギルドの定義による武器ではないので使い放題です。このまま力を込めて引っ張ってやったら悪魔超人編のミート君のコスプレの完成ですが、残念ながら今回の目的はバラバラの実の能力者の量産ではありません。
「うおっ」
「な、なんだ!?」
「クソッ、体が勝手に……動く……」
繊維の神と支配の神の複合魔法【寄生糸】です。この糸で縛り付けた相手を人形よろしく操ります。こいつらはもう指先までもボクのものです。
「なんでもインドの『カーマスートラ』という本には48以上もの『仕方』が載ってるそうです。でもとても重要なことだと思うのです、チンピラ解体ショーの『始まり』としては」
「何の話だ!」
男のうちの二人を立たせて親愛のハグをさせます。こうね、ベタベタ、ねっとりと……。
「お、おい、何をさせるつもりむぐぐぐ!」
ぶちゅー!
二人は幸せなキスをしてスタートです! 通りすがりの女たちが「キャー!」と歓声を上げました。悲鳴ではありません。後ろにハートマークがついています。
「ぺっぺっ」
「な、何させやがる!」
「楽しいことですよ」
道行く人々に大きく手を振ってアピールします。
「みんな見とくですよー!」
もう一人の男に後ろから服を脱がさせます。ベルトにカチャカチャ手を掛けて、パンツをズルルゥンとずり下げます。女たちが嬌声を上げます。
「「「「「キャー!」」」」」
その下もです。
「「「「「キャアァァァ──!!」」」」」
右の男を左の男の前にひざまづかせます。
「おいちょっとくわえてやるですよ」
口を無理矢理開けさせて顔を股間に近づけてやります。
「よ、よせ馬鹿!」
「やめろ!」
「オラ、あくするですよ」
「キャー!」「キャー!!」
甲高い声を上げながら女たちがどんどんどんどん増えています。どこから湧いてくるのか……餌をねだる池の鯉のようにわらわらと、すごい数の女たちが集まってきています。まるで町中の女たちが引き寄せられているかのようです。
重なり合う歓声はもはや怒号のようです。食い入るように目を見張る町の女たちの視線の真ん中で世にも淫靡な物語が始まろうとしています。
「わ、わかった!」
「何でもしゃべる! だからやめてくれ!」
男たちが音を上げました。まだ始まったばかりですのに降参するのが早いですよ。まあしゃべるというならそれに越したことはありません。ボクは男たちの動きを縛る糸の力を緩めました。男たちはほっとした顔でその場にへたり込みました。
「「「「「え──!?」」」」」
ところが女たちから不平の声が上がりました。ザッザッザッ! 女たちは軍隊の行進みたいに足をそろえて踏み鳴らして、一斉に右手を掲げて親指を下に向けます。
「「「「「Booooo! Booooo!!」」」」」
「しょうがないですねぇ……」
そこまで期待されたら応えないわけにはいかないじゃないですか。
「おうお前脱がせるですよ」
「や、やめろ!」
やれってことですね! ボクは男たちに服を脱がせあわせて生まれたままの姿にしてやりました。
「やめろー!」
「「「「「キャー!」」」」」
「「「「「ギャ──!!!」」」」」
街角を揺るがすほどの咆哮が耳をつんざいて痛いです。エルフは耳がいいのですよ?
「おうお前犬になるです。ヨツンヴァインになるですよ」
「やめてくれよ!」
「しゃべるって言ってるだろ!」
「お前それでも謝ってるですかこの野郎。しゃべるよりもしゃぶるですよこの野郎」
あんぐり開いた男の口をもう一回×××に近寄せてやります。
「アーリー! 冒険者のアーリーに頼まれたんだ!」
男の叫びに動きをピタッと止めます。やれやれ、ようやく聞きたいことをしゃべり出しました。
「冒険者は一般人に手を出せないから足止めしろって言われたんだ。クソ、嘘じゃねぇかぁ……」
「手を出されたら反撃できるのですよおバカさん」
「おめぇのせいかよ!」
「すみませんでした!」
「で、足止めしてどうするのです?」
「決闘に間に合わなかったら不戦敗だって」
「うまくいったら俺たちにも『おすそ分け』してくれるって……」
「なるほど、そういうことでしたか。ではお前たちは用済みです」
ボクは男たちを夜のマッスル・スパーク(痴)の形で縛り上げてその場に放置しました。全裸のままで。
「汚ねぇケツだなあ」
「お前初めてかここは? なぁ?」
「おいこっちケツ向けろこの野郎。あくしろよ!」
「すいません許してください!」
「何でもしますから!」
「ん?」
「今」
「何」
「でも」
「するって」
「「「「「言ったよね?」」」」」
「「「ヒィー!」」」
女たちにおもちゃにされる男たちをしり目にボクは決闘場へと急ぎました。
やろうブッ殺してやるです!
どうやら間に合ったようです。決闘場につくと対戦相手の男は「チッ」と舌打ちしてつばを吐き捨てました。
「ケッ、失敗しやがったか。使えない奴らだ」
「お前ももうすぐ使えなくなりますけどね」
自ら罪を告白しましたね。大変にギルティですので痛くしてやります。
「始めぇっ!」
審判の合図と同時に突進してきた男を前にボクは魔法で肺活量を極限まで増やしました。すーっと大きく息を吸って、手のひらで筒を作って力いっぱい息を吹き込んでやります!
「うっ!」
パシャッ! 男の眉間で空気が弾けます。目の前まで駆け寄っていた男は瞬間目をつぶってしまいました。目をつぶったのは一瞬ですがボクにはその一瞬で充分です!
ぶちゅっ!
スカートがひるがえり、男のつま先が地面から浮き上がりました。思いっきり股間を蹴り上げてやったのです。命の源が潰れる湿った感触がすねに伝わってきました。
「おおぉぉぉぉぉ……」
魂が漏れるような声をあげながら前のめりに倒れ込む男……これでもう一生使用不可能でしょう。おしっこくらいは出せるといいですね。今後は後ろの穴でかわいがってもらうといいです。
観客の男たちは全員きゅっと内股を縮こまらせました。
審判が試合終了を宣告すると同時にリングの外から冒険者たちが駆け寄って男(元)を助け起こしました。
「大丈夫か!」
「しっかりしろ!」
残念ながら聞こえてませんね、白目をむいて口から泡を吹いてます。
これはもうダメかもしれませんね……。