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1.23 ドラゴンを売ってみた

 リバードラゴンは合わせて金貨四十枚で売れました。

 この金貨四十枚というのが前世で言うとどのくらいの金額になるかと言うと、……正直よくわかりません。


 まずですね、この国の通貨は金貨銀貨銅貨の三貨からなっています(先日屋台のおばちゃんに聞きました)。それぞれメリダ、プライドル、アントという単位になっていて、1メリダ金貨=24プライドル銀貨=1920アント銅貨です。1プライドルは80アントということですね。

 なんでこんな比率になってるのかがまず理解できないのですけど、何だか歴史が反映されているらしいです。おばちゃんもよく理解していませんでした。ちなみにアント銅貨は一円玉より少し小さいくらいのサイズです。ギルドで見せてもらった金貨は銀貨より大きかったです。


 この世界にはドワーフという熟練の採掘・精錬工がいるおかげで金属資源は中世ヨーロッパよりは簡単に手に入るのだと思います、多分。硬貨の大きさから見て金に比べて銀の価値が相当低いっぽいのはそのせいでしょう。でも、ドワーフは技術力はあっても経済活動に理解も興味もない種族なので、貨幣の鋳造なんてものには携わらないそうです。なのでこの銀貨銅貨もあまり出来が良くありません。


 銀貨と銅貨の価値が違い過ぎて使いにくいのでしょうね、バルダー(クォーターの意味です)銀貨という大きさが四分の一の銀貨、それから銅貨十枚分の価値がある十枚銅貨というのもあります。四分の一銀貨は百円玉くらいの大きさでしょうか。日常的によく使われるのはこのバルダー銀貨と十枚銅貨で、その辺の庶民が金貨を通貨として使うことはほとんどないようです。ドラゴンを売ったお金もすべて銀貨で支払われました。


 そしてですね、せっかくこうやって覚えても国によって通貨が違うそうなのです。おかげでホテルも泊まれませんでしたしね……。

 オーマ・ネットワークの解説を読む限り、どうやらこの世界は国々の独立性が高く、また前世の中世ローマ教会のような強い権威もないため、いろんな規格の統一が非常に困難なようです。三百年前に成立した大帝国のおかげで言語と度量衡だけはなんとか統一できているようですけど、分裂後にそれぞれの国が制定した通貨の規格はバラバラ。国際組織としては冒険者ギルドの方がよほどマシという体たらくで、もうどうにもなりません。

 結果としてこの手の組織の中で一番国際的連携の強い商業者ギルドの発言力が増して、重商主義というか拝金主義に偏りがちなのだとか。だったら商業者ギルド主導で国際通貨単位でも作ったらいいのではと思うのですけど、おそらく両替商の反対で実現していません(手数料で儲かるでしょうからね)。


 もう面倒くさいので今後はどこへ行ってもメリダだのプライドルだの言わずに金貨銀貨銅貨で通します。


 で、お金の価値の話に戻りますけど、労働力の価値が低かったり流通が未発達だったりするせいで物価や人件費が前世と単純には比較できません。例えば小間物屋の店番が日給銀貨五枚で冒険者の護衛費が一日金貨半分、中サイズのジャガイモ一個が銅貨二枚で買える一方で卵一個が銀貨二枚もします。日本円で言うといくらくらいなのでしょうねこれ。

 ともかく「前世で言ったらいくら」というのはわかりませんけど、この辺りだと食費や宿泊費などを含めた一日の生活費が銀貨4枚あれば最低限のことはできるということなので、しばらくは何もしなくても暮らせるでしょう。



 しかし何でたかが川ドラゴンなんかがあんな値段で売れたのでしょうか。疑問に思ったので聞いてみると、

「そりゃお前、『ドラゴンは捨てるとこなし』よ」

 とギルドの買取窓口の担当者が答えました。


「ドラゴンの骨は硬い上に軽いからな。武器にも防具にも引っ張りだこだ」

 まあチタン合金なんてこの世界の文明レベルではほぼ未知の素材でしょうからね。いやドワーフなら精錬できそうな気もしますけど、チタンの鉱床はたいていドラゴンが占拠してますし、手が出せないのでしょう。

 ボクたちですか? エルフは金属器をあまり好まない上にうちの森はミスリルを潤沢に使える環境なので、チタンはそんなに……。まあそれはともかくチタン合金は鉄より軽くて硬いので武器や防具にするにはいいかもしれませんね。


「毛皮もな、寒さも水も雷も魔法も防いでくれる。見た目も美しいから都会のご婦人にだって人気だ」

 金属皮革なんてこの世にドラゴンだけですしね。水中生活する動物は毛が密ですし。それに天然の防水加工済みです。ドラゴンの皮は外皮中皮内皮の三層構造ですから加工次第では皮が三倍取れますし、魔法を防ぐ効果も……ドラゴンが死んでも残ってるものでしょうかね? そこは疑問です。


「それに血や肉や内臓は薬になる。肉を食べれば元気百倍、血は不老不死の霊薬になるって噂だぜ」

「ええ……」

 それはどうですかねぇ? さすがに顔が引きつりました。

 この世界のドラゴンって金属を器官に利用する生物ですからね。その血肉なんて重金属で汚染されてて食べられたものじゃないですよ。不老不死どころか死に近づく貯金箱にチャリンチャリンとコインを貯めてるようなものだと思いますけど。それとも毎日食べるわけじゃないからそこまで問題にならないのでしょうか? うーん……。なんだか不老不死の仙薬と信じて水銀を飲んで死んだ中国の皇帝を思い出します。

 でも、考えてみれば前世でも令和にもなってまだプラセンタだのコラーゲンだのただのタンパク質の塊に特別な効能があるとありがたがってましたね……。特別な肉に特別な薬効を見出すというのは人間にとって世界をまたぐ感性なのかもしれません。

 まあボクが食べるわけじゃありませんし、自己責任ということで。


 それとおまけでゴブリンの駆除報酬が一匹銀貨4枚ということで、今回耳を持ち帰ったのが2匹分ありましたので銀貨8枚になりました。金貨と合わせて山分けしようと思ったのですけどチューターが「取っておけ」というのでお言葉に甘えて総取りです。

 これで支給品その他もろもろの借金も清算済みです。なかなか幸先のいいスタートと言えるのではないでしょうか。


 ともかくこれにて研修終了です。ボクたちは半人前と認められ、晴れて冒険者となりました。ドラゴンを倒して半人前とは人間も思ったよりやるようです。早く一人前と認められるように頑張りますよ!

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