表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

195/195

3.29 なんだか毎日幸せの日

 麗しの新市街地はガレキの山になりました。

 焼け落ちた家の前で老人がへたり込んでいます。きっとこの家が彼の人生のすべてだったのでしょうね。


 小麦のトレーダーたちもまた老人同様、倉庫の前で魂の抜けたような顔で座り込んでいます。

 二百トンもあった小麦は倉庫ごと真っ黒こげに焼けてしまいました。莫大な借金をして買った小麦を、買った以上の値段で転売して、一発逆転するはずでしたのに……すべてパアです。彼の人生もおしまいなら借金のカタに売り飛ばした家族も帰ってきません。


 トレーダーだけではありません。銀行家たちも不動産業者たちもそうです。トレーダーは会社や家土地を担保にお金を調達したわけですが、会社は倒産ですし不動産もまたみんな焼けてなくなっちゃいました。全財産を賭した債権は回収不能、つまり破産です。


 まあ新市街地だけではないのですけどね。開けっ放しの北門から飛んだ火花が旧市街地に、ひいては外市まで延焼して、スズナーンはあらかた焼けてしまいました。

 死傷者行方不明者は多数です。計数不能です。たくさん死んだというのではなくて、行政が機能していませんので数えられません。


 市民だった人たちはゾンビの群れのようにゾロゾロと移動を始めました。

 つてを頼って王都やメルオートに向かう多数の難民たちに、生き残ったわずかな兵士たち、そして冒険者たち。昨日までの新市街の住人もそれ以外の住人も今日は同じ列に並んでいます。

 焼け落ちた街に残ろうという者も少しはいるみたいですけど、残ったところでもう食べるものもありません。多くは立ち去ろうとしています。


 従業員たち、というかエルフたちの一団──従業員だけではなくてその家族や親族たちがひとかたまりに集まっています。悪魔コイコイが完璧にガードしてましたからこちらは全員無事です。おうちは全部焼けちゃいましたけど。みんな途方に暮れた顔でたたずんでいます。

 でもまあ、エルフは強いですので何とかなるでしょう。きっとエリーが新しいお店を始めることと思いますし、そこで雇ってくれるはずです。


 うん、サッパリしました。これでここに思い残すことはなし、冒険を再開することにしましょうか。


「さて、それではお別れです」

 エリーに告げるとちょっとだけ心細そうな顔をしました。

「あら、一緒に行ってくれないの?」

「残念ながら目的地が逆です。お前たちはあっちへ行くと良いです」

 言いながら東側、メルオート方面へ向かう街道を指さします。

「ボクはこっちの王都です。ボッタクル商店は今日でおしまい、事業を清算します。これは退職金です」

 ボクは儲けたお金を等分して、半分をエリーのアイテムボックスに譲渡しました。金額を確認してエリーは目をまんまるにしました。

「私たち、こんなに稼いでたのね」

 最終的にこの地域の現金のほとんどすべてをかっぱぎましたからね。現金で所有してる金額なら今ボクたちはこの国でも相当上位に入るのではないでしょうか。

「それとこれはサービスです」

 おまけで残った小麦を全部あげました。ラーメン屋をやるには小麦粉がなければ始まりませんからね。

「これだけあれば当分暮らせるでしょう。あとはお前の思うようにするといいです」

「いろいろとありがとう。本当に……」

「それではバイバイです」

「さようなら。元気でね」

 ボクは手を振るエリーに背を向けて二度と振り返りませんでした。平和なようでいてちょっとしたことで命が揺らぐこの世界です。どこかでのたれ死ぬのが関の山でしょうけど、あいつならしぶとく生き残りそうな気もします。


 やれやれです。またも寄り道してしまいました。

 さて、それでは王都へ向かうとしましょうか。ボクは旧市街地の西門から続く街道を歩きだしました。うつむき加減でトボトボ歩く避難民の列を、足取り軽く追い越しながら。






「──ということだったのです」

 ボクはあの時スズナーンで起こった事をかいつまんで説明しました。


「リンスさんのせいじゃないですか!」

 突然、栗毛が円卓を叩いて叫びました。何ですかいい大人が。あ、金髪もチューターも非難の目で見てます。何故でしょう?


「何が『人間の際限のない欲望が引き起こした災い』ですか、100%リンスさんのせいじゃないですか!」

「鳥を取ったのも食べたのも人間たちですよ?」

「リンスさんがそそのかしたせいじゃないですか!」

「まあいいじゃないですか、そういうの」

 ボクは両手を広げて肩をすくめました。


「ボクは鏡のようなものなのです」

「はァ?」

「ボクの人間に対する接し方は、友好的な相手には友好的に。そうでない相手にはそれなりに。スズナーンがああなったのはあいつらがああだったからなのです。ですから100%あいつらの自業自得です。お前たちはボクと友好的に接触してて良かったですね」


 円卓を囲む人間たちは、何だかくたびれた表情で大きく息をつきました。

 これにて第三章・ス虐編終了です。

 お付き合いいただきありがとうございました。

 今後は年に一章くらいを目標に更新していきたいと思います。

 その際はまたよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ