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1.19 ゴブリンの使い道

「さーて、ゴブリンの方はどうする? いつものメンツならやっちゃうけど」

「新人を抱えてたんではな。仕方ない、今日は戻るぞ。報告して態勢を整えて出直しだ」


 なんて言ってますけど出直す余裕はなさそうです。走査の魔法に三匹のモンスターが引っかかりました。三匹分の足音が音を忍ばせつつ近づいてきます。ボクは耳がいいですのでバレバレですけど。あ、チューターたちも思いっきり気づいてますけど気づかないフリをしています。

 足音は太い木の向こうで止まりました。姿を隠しているつもりでしょうけど尻が見えています。アホですね。足元の枝を拾って尻目がけて投げつけてやると「ギャッ」と悲鳴を上げて押し出されるようにワラワラ姿を現しました。

 下草をガサリと揺らして木陰から出て来たのは、汚れた毛皮を身にまとい、弓矢と石斧で武装したブサイクな小男……人間ではありません、ゴブリンです。


「ギョエエエ!」

 ゴブリンは威嚇の咆哮と共に粗雑な弓で矢を打ってきました。本当に粗末な弓なので的を外していましたけど、手を伸ばして人差し指と中指で挟んで受け止めて、くるっとひねってそのまま投げ返してやります。

「ギィヤァアア!」

 こっちは狙い通り肩に刺さりました。矢が刺さった痛みに悲鳴を上げたゴブリンに仲間のゴブリンがびっくりした瞬間、縮地の魔法で三匹の後ろに回って手刀で首の横を打ちます。

「キュ」「キ」「ケ」

 迷走神経を打撃されて意識が飛んだゴブリンたちはバタバタと倒れました。


「何をやってるんだ、早く殺せ!」

 チューターが叫んでいます。え、利用しないのですか?

「何も殺さなくても……。ゴブリンはいろいろと使い道があるでしょうに」

「ゴブリンなんか何になる!食えるわけでなし金になるわけでなし、かといって生かしておいても害になるだけだ。さっさと殺して燃やしてしまえ!」

「だって実験台にぴったりですよ? 魔法の的にしてもいいですし、あとはゴブリンレースとか……」

「何だそれは」

「そのまんまですけど。ゴブリンに徒競走させるのです」


 ボクたちの基準でもそこそこ昔のことです。暇なエルフたちがゴブリンで『十数える間にどこまで逃げられるかゲーム』をやっていたそうなのですが、より遠くまで逃げられるゴブリンを見極めるためにレースをさせるようになったのだそうです。以後ゴブリン競争は定例のものとなり現在まで続いています。特に毎年夏至の頃、繁殖ゴブリンの選定のために行われるゴブリンダービーは大変に盛り上がりますね。レースで負けたゴブリンは十数え(中略)ゲームで魔法の的にされるので必死で走ります。


 ──ということを説明するとチューターは「理解できない」と首を振りました。

「何でゴブリンでやるんだよ、馬でやれよ。いや的にするゲームはやらなくていいけどな?」

「だってボクたちの故郷って森の中ですし、馬って需要がないのですよね」

 ちなみに今一番速いゴブリンはなんと百メートルを十五秒で走ります! 時速に直せば24km/h、これは普通のゴブリンの倍近い速さで、十秒間に約66.7mも逃げることができます。はい、ボクたちの魔法なら寝起きでボケてても外さない距離ですね。というわけで十(中略)ゲームの方は全然盛り上がりません。


「ではゴブリンウォーズもやらないのですか?」

「また知らない単語が出て来たぞ……。一応聞いておくが何だそれは」

「そのままですけど。ゴブリンを組織して、ゴブリンを訓練して、ゴブリンを武装させて、ゴブリン同士で戦争させる遊びです」

「やらねーよ!何か思ってたより邪悪だなエルフって」

 軽くディスられました。


 まあゴブリンウォーズが流行ってたのは六百年以上も昔の話なのですけどね。ボクもやったことはありません。ボクの祖母世代の話ですけど、その頃のエルフたちはゴブリンでは飽き足りなくなり、人間で同じことを始めたのだそうです。

 プレイヤーたちはそれぞれ定められた地域からひとつを選び、そこに住む人間に知恵を授けて内政や戦争をさせ、この東大陸の人類諸国を統合させることを目的として争ったそうです。彼らの言う『大帝国ゲーム』です。これは六百年前から三百年前まで続きました。人間の歴史では戦国時代と呼ばれているみたいですね。最終的にカリンの母親のカレンが泥沼の争いを征し優勝者となりました。彼女はゲームの参加者たちから"忍耐のカレン"と呼ばれ今でも尊敬されています。


「とにかく殺せ。お前がやらないなら俺がやる」

「ではさくっとやっちゃいます。命がもったいないですねぇ」

 ボクは土の魔法で足元を沼地に変えてゴブリンたちを沈めました。


 ところでゴブリンを駆除すると一匹当たり銀貨四枚の報酬金が出るそうです。ただし倒した証拠として右の耳を切り落として持って行く必要があるそうなのです。あの、埋めちゃったのですけど……。先に言ってくださいよ。たった四枚の銀貨目当てにわざわざ掘り返すのってアホらしいじゃないですか。

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