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3.12 エルフの上手な雇い方

 ミルズを始めとするドワーフたちの頑張りによって鳥肉加工所が完成しました。お礼としてそれぞれの持ってきた武器や道具にそれぞれの希望の神様の加護を与えてあげました。

「うほっ、これはええの!」

「エルフにつきあうのもたまにはいいもんじゃな!」

 ドワーフたちはホクホク笑顔で帰って行きました。


 さて、それでは試運転してみましょうか。

 ボクのアイテムボックスの中には先日から買い求めた鳥類が山盛りで入ってます。これをまずは種類ごとにソートして取り出し、棚に並べます。今のところ屋台は焼き鳥と唐揚げの串ものだけですので、それらに適した中型の鳥を使います。

 最初に鳥から血を抜きます。首と足をスパッと切り落として、流体操作の魔法で血を全部抜いちゃいます。

 次に殺菌です。魔法で持ち上げた鳥を魔法で六十℃台に保ったお湯にジャブジャブ浸けて殺菌します。これは同時に羽根をむしりやすくする処理にもなってます。

 それから魔法で毛をむしります。産毛が残っちゃいますのでそっちは焼きます。コンロに入れた握りこぶし小のたくさんの石を魔法で加熱、その熱でチリチリ焼き切るのです。

 これで下処理はオーケー、お次に内臓を抜きます。魔法で。

 それから精肉加工して、魔法で殺菌してできあがりです。毛とか中身とかはとりあえずアイテムボックスに突っ込んでおきます。


「──ね? 簡単でしょう?」

「どこがよ!」

「何か難しいところありました?」

「全部よ、全部! 魔法ばっかりじゃない! エルフならともかく人間には不可能よ!」

「えー……」

 エリーによれば全体に魔法を多用するこの工程は人間には難しいようです。


「それではみなさん、よろしくお願いします」

「「「「「はーい!」」」」」

 人間には難しいということでしたので三人娘の紹介でエルフを他に五人雇いました。カワイイ女の子たちがボクの顔をチラチラ見てはヒソヒソ小声でささやき合ってます。「綺麗……」とか「素敵……」とか。聞こえてますよ、エルフは耳がいいのです。まあ男冥利に尽きるというものです。


 それにしてもみんな本当にカワイイですね! 血なまぐさい加工所が女の園特有の華やかな雰囲気に包まれました。何だかいい匂いもします。服装もそれぞれ趣向を凝らしてて見飽きません。髪型とか顔つきもみんな個性的です。そう言うとエリーは町エルフたちをしげしげと見比べて言いました。

「全員同じ顔じゃない」

「違いますよ! これだから人間は……」

 人間にはエルフの見分けがつかないみたいです。


「まあいいわ。エルフは下働きとしては有能だから」

「は? 全般的に有能ですよ?」

「うーん……」

 抗議したのですがエリーは何故か難しい顔で腕を組みました。

「……たとえばだけどさ、エルフって裁縫得意じゃない?」

「みんなおめかししてますよね」

「そう! エルフって元々手先は器用だし、寿命は長いし暇だしで極まってて、技術力は高いのよ。でもさぁ、自分の気に入ったものしか作らないじゃない? 気が向いた時しか働かないし。だから『形式の決まった服』は作れないし『納期のある仕事』は任せられないのよ」

「くっ、否定できません」

「おまけに人間の権威にちっとも興味がないから誰が相手でもタメ口だし」

 ミリアはボクには敬語ですけど、それはボクが森エルフだからですよね。人間相手だと砕けたしゃべり方しかしてません。

「人を使うのも下手よね。人間の気持ちがわからないから。全体的にそんな感じで、とてもじゃないけど人の上に立って働けるような人材じゃないのよ。能力はあっても」

 ぐぬぬ……。


「では町のエルフはどこで働いているのですか?」

「店番か事務員ね。それくらいしかできない。見た目はいいし読み書きそろばんは得意だし、ただ待ってるだけの仕事も平気だし、全然お金に興味がなくて盗んだりの心配もないから、店番としては最高なのよ。お客としては最悪だけど」

 また種族差別の誹謗中傷をされました。

「何故ですか?」

「だってこの子たち、お茶一杯で朝から晩まで平気で粘るんだもの」

 まあそのくらいの時間を潰すのはエルフなら朝飯前でしょう。お客としては最悪ですけど。町のエルフに目をつけられたら喫茶店なんて秒で潰れそうです。

「料理とか一回食べたらすぐ真似するから二度とこないし」

 本当に悪質です。


 うちの屋台も対策をしておいた方が良さそうですね。エルフをお店から排除する方法は……。

 あ、簡単でした。全部店員にしちゃいましょう。

「お前たち、暇なエルフがいたらどんどん雇いますからね。お友達をどんどん紹介してください」

「「「「「わーい」」」」」


 さて、工場を本格的に稼働するその前に。従業員の福利厚生を図りましょう。

 ボクは工場の横手にハーブ園を作りました。光魔法で太陽光を屈折させて畑のある一角だけ日当たり良好になってます。

「それではハーブのお世話は頼みましたよ」

「お任せあれ!」

 追加でハーブを育てるのが得意というエルフを一人雇いました。彼女にはハーブを育ててハーブティーを作る仕事をしてもらいます。

「売るの?」

 エリーが不思議そうな顔をして聞いてきました。

「いえ、従業員用ですけど」

「なんでそんな無駄なことを……」


 それから工場の一角を改造して休憩室を作りました。キッチンもついてます。ここには小麦粉とバターと卵と生クリーム、季節の果物、砂糖にハチミツにメイプルシロップも備品として置いています。

「腕を振るってください」

「たくさん作るね!」

 それとお菓子を作るのが得意というエルフも追加で一人雇いました。

「売るの?」

 エリーが思いっきり首をひねりながら聞いてきました。

「従業員用です」

「なんでよ……」


 そしてボクはエルフたちに告げました。

「お前たち、お茶は飲み放題ですしお菓子も食べ放題ですよ。その日のノルマを達成したら後は好きにしていいです」

「「「「「キャアアアアアッ!!!」」」」」

「リンスさん、大好き!」

「一生ついてく!」

 真っ黄色の大歓声が上がりました。フフ、もっと褒め称えるといいです。


「だから、なんで?」

 エリーは理解に苦しんでます。何かおかしなところがあったでしょうか?

「何故って……そりゃ気持ちよく働いてもらうためですよ。エルフですからね」

「意味わかんない」

「エルフは愛の種族なのです。エルフはエルフを愛するために生まれてくるのです。要するにおしゃべりの時間が何より大切なのです。ですから時給をアップするよりもこういうことの方が喜ばれるのです」

「え……、お金よりおしゃべりなの? 本気で?」

 するとボクたちの話を聞いていたエルフが奇人変人を見る目で言いました。

「当たり前でしょ」

「何言ってるのこの人間」


 せっかくですからエルフ用の焼き鳥も作ります。ボクの森にカルスという料理オタクがいましたけど、あれがやってたことがちょっとだけわかってきました。

 用意するのは鳩の胸肉です。処理済みの胸肉を小さく切って串に刺して、軽く塩を振ります。申し訳程度にローズマリーの香りをつけて、炭火で炙ります。強火の遠火が基本です。中にしっとり感を残して──

「はい、上手に焼けました! 召し上がるとよいです」

「……うっわ、おいしいー!」

「屋台の焼き鳥もこんななら食べるのにー!」

 みんな頬に手を当てて喜んでます。こういうのがエルフの味ですよね。

「お昼はこういうの勝手に作って食べていいですよ」

「「「「「やったー!」」」」」


「全っ然味わいが足りない……。塩が足りないし脂っけゼロじゃない」

 案の定人間には不評でしたけど。


 ついでです。三人娘の方の待遇も改善しておきましょう。

「ちょっといいですか?」

「ひゃっ、ひゃい!」

 ミリアのあご先を捕まえてクイッとこちらを向かせると焦点のおぼつかない瞳がボクを見つめました。

 ボクは魔法で作ったバレッタを見せました。オリハルコンをベースに目の色に合わせた黄緑色のアレキサンドライトを散りばめたものです。光を受けたアレキサンドライトがさざ波よりも細かく輝いています。

「お前のために作りました」

「ふぇっ!?」

 硬直するミリアの後ろに回ります。ストレートロングの赤い髪を手櫛でといて、ハーフアップにまとめ上げてバレッタで留めます。

「どうですか?」

 鏡二枚で後ろを見せながらウィンクするとミリアはクネクネと体をよじらせました。

「え、女同士なのにそんな……でも……」

 ククク、悶えてます悶えてます。熟したリンゴみたいに真っ赤に色づいて、チョンとつついたらコロリと落ちてしまいそうです。まあ従業員に手を出すつもりはありませんけれども。

「いいなー」

 エルマもうらやましそうに見ています。

「お前にはこれを」

「わわわ! ありがとう!」

 スター入りのエメラルドをはめ込んだオリハルコンの指輪を贈るとエルマはピョンピョン飛び跳ねて喜びました。


 町エルフたちって何だかとってもカワイイのです。思わずプレゼントをしたくなってしまいます。


 え? じゃあユリアはどうしたのか、ですって?


「ユリアは幼馴染の人を待ってるんだよねー」

 ミリアがからかう調子で言いました。


 ユリア自身とミリアとエルマの語るところによると、何でもユリアには同い年の幼馴染がいたそうなのです。エルフの男の。ところが二人がまだ少年少女の頃、その男エルフは「冒険者になる」と言って町を飛び出してしまったのでした。

「それで、それっきり音信不通なんだって」

「もう帰ってこないって。そんな男のことは諦めて今を楽しもうよ!」

「そうね。でも私はクレイを信じているから」

 エルマとミリアに両側からせっつかれて、それでもユリアはどこか遠くを眺めるような目で静かに微笑みました。


 ユリアがそう言いますからにはプレゼントの権利は譲ってあげることにしたのでした。そのどこにいるか、生きているかもわからない幼馴染とやらに。寝取りとか本来ならむしろ好物なのですけど、今は従業員に手を出すつもりはないのです。

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