3.6 ナンパエルフ、エルフをナンパする
「やあやあお嬢様方、ちょっといいですか?」
ボクが声を掛けるとその女の子たちはキャーキャーと笑いさざめきました。色とりどりの髪の毛の、カラフルな瞳の、耳の長い……三人のエルフの娘たちです。
基本的に森エルフは人間より背が高い傾向があるのですが、町エルフたちの身長は人間と変わりません。背丈や顔つきなど、ボクたちから見ると全体にあどけない感じですね。
一番顕著な違いは耳でしょう。ボクたちの耳は薄く長く、耳を支える軟骨が若干弱いために先が少し垂れ下がっています。対して町エルフたちの耳は横に張り出しているのは同じですがボクたちほどには長くなく、また人間のように厚く、端は水平より少し上を向いています。耳の違いは人間たちにも見て取れると思います。
そしてみんなおっぱいが控えめでいいですね! これがカワイイっていうことです。そんな醜いものはこの世にいませんので仮定の話になりますけど、もし巨乳のエルフなんてものがいたら自分のスタイルの悪さに悩むこととなるでしょう。
とにかく、町のエルフはボクたちと比べて小柄なのです。三人の行く手を遮ったボクは見下ろす形で迫りました。赤い髪の子が上目づかいでモジモジ尋ねてきました。
「あ、あの、どんなご用でしょうか……」
「実はボク、お店を始めるのです。働いていきません」
「やります!」
最後まで言う前に赤い髪の子が食い気味に答えました。まだどんな業種とも伝えていませんのに。
「店員を見つけましたよ」
「早っ」
ボクは三人を連れて家に戻りました。赤青黄、信号機みたいな髪の毛のエルフの少女たちが後ろでモジモジソワソワしています。いえ実年齢は少女ではないのでしょうけど、町のエルフってボクたちの感覚だとティーン感強いのです。
それにしても、ボクの森だと金銀パールくらいしかバリエーションがありませんでしたけど、町のエルフたちは髪の色が多彩ですね。南国の鳥みたいです。染めているのでしょうか? 瞳の色も青や緑でカラフルです。ボクたちって全員妖精眼ですから瑠璃色しかいませんでしたけど。装飾多めの色とりどりの服は手作りなのでしょう、それぞれのカラーにマッチしてよく似合ってます。
その三人にボクはまずエリーを紹介しました。
「あちらはボクのビジネスパートナーのエリーです」
「よろしくね」
エリーは軽く手を挙げてこたえました。
「それで、あなたたちは?」
ここに来るまでに三人の素性は確かめてあります。ボクは隣にいた赤い髪のエルフの、そのロングの髪を耳の下から撫でて、先をひと房手に取ってキスしました。
「ミリア、お前も自己紹介するのです」
「はっ、はひっ! みっ、みりゃー! ごめんなさい、ミリアです!」
ミリアは顔を真っ赤にして頭をぺこっと下げました。
一番元気がよくて積極的なのがこのミリアです。薄く緑がかった黄色い瞳がやる気で輝いています。
ミリアは二十代前半と三人の中では一番若いのですが、若いだけあって逆に全能感溢れていて世の中や他人をちょっと小バカにしているところがあります。見た感じもギャル感強めのJKといったところですね。
今度はその隣のエルフの黄色い髪を指先でつまんで絡めます。
「エルマ、次はお前です」
「はーい。エルマでーす。よろしくねー」
エルマの年は二人のちょうど真ん中くらいらしいです。色味の強い緑色の瞳がいたずらっぽく揺れています。
背丈は小柄ですね。自分の武器をよくわかっているようでファッションもロリカワ系です。見た目だけじゃなくて性格も甘くて幼いところがあります。そのくせ身振り手振りに妙に男の気を引こうとするものがあって……まあ要領は良さそうです。
最後に一番向こうの青い髪のエルフの手を取ってその指先を握りました。
「ユリア」
「はあ。あの、私には心に決めた人が……」
「その話はまたにしましょう。エリーに名前を教えるのです」
「はい。ユリアです。よろしくお願いします」
ユリアはこの三人では一番年嵩らしいです。目も青で若干垂れ目がちで、ちょっとお姉さん風に見えなくもない落ち着いた感じの、というかのん気そうなエルフです。見た感じだけじゃなくて会話のタイミングもワンテンポ遅いところがあります。
「それで、私たち何をするんですか?」
ミリアが勢いよく手を挙げました。何だか前のめりです。エリーはちょっと咎めるような目でボクを見ました。
「なによ、説明してなかったの?」
「説明する前にオーケーをもらってしまったもので……」
「まあいいわ。あのね、私たちはこれから屋台をやろうと思ってるの。まだ認可前だけど」
「お前たちには宣伝と接客をしてもらいたいのです。お前たちのようなカワイイ娘が客引きをしてたらすぐに話題になっちゃいますよ」
「可愛いだなんて……わかりました、やります!」
「私も!」
「はあ。じゃあ、私も」
同意を得られましたのでボクは三人のために制服を作りました。
まずはチェックのシャツとスカートの上下です。チェックの色はそれぞれの髪の色に合わせて淡い赤、淡い青、淡い黄色になってます。シャツの襟は白、ただしステッチの色はチェックと同じです。角は丸く作ります。スカートはひざ丈ですが足を見せるのを嫌がるエルフのために白のニーハイソックスを採用しました。足にはエナメルの靴です。
それからフリフリのフリルのついた白いエプロンを掛けます。ただしポケットなどの縫い目の糸はこれもチェックの色と合わせています。紐は太めで、リボン結びで結ぶと後ろでちょうちょみたいに広がります。
頭には同じ色のチェックの三角巾をかぶります。この世界の人間たちは結婚すると頭に被り物をします。未婚だと帽子もかぶらないのですが、でも「今恋人はいりません」という意思表示のためにこういう布をつけることがあります。要するにナンパ避けですね。よそ様の嫁入り前の娘さんを預かるのですからこういう気配りも必要です。
さっそく試着した三人はクルクル回ってお互いの姿をチェックしながら感想を言い合ってます。普通に回るだけでも華やかで、妖精がダンスしてるみたいですね。
「わー、こういう服って初めて!」
「屋台ならミリアは髪結んだ方が良くない?」
「すごい縫製技術……。糸が布地に溶け込んで、縫い目が見えないわ……」
それとエリーには襟ぐりを広く取ったTシャツにモスグリーンのカーゴパンツを作りました。頭にはパンツと同色の三角巾です。黒いレースの見せブラも作ってあげました。谷間見せろです。前かがみで鳥焼いてたらきっとアホな人間どもがバカスカ釣れます。
ついでにボクはユリアが着ていた町エルフの服をアレンジしてみました。
まずはアクアブルーのロングワンピースです。全体にタイトですがひざ下あたりから裾にかけてわずかに膨らんでます。
その上にトップスを着るのですが、ちょっと独特です。すごく長くてひざ下まであります。右側はレモンイエローで左側はミントグリーンの片身替わり風で、ギャザーバシバシです。また腰から下の左右には大きくスリットが入ってます。足元は白い靴で高めのヒールがついてます。
人間の服は中世感ありますけどエルフは割と未来に生きてますね。なおみんながみんなこういう服を着ているわけじゃなくてミリアはJK風、エルマはロリカワ系とエルフごとにバラバラです。
ボクの服を見たミリアがポーッと顔を上気させて言いました。
「何着ても似合う……」
「森にはこういう服はなかったので新鮮です。持っていったら流行りそうですよ」
「そういえばリンスさんの森ってどこにあるんですか?」
「■■■の■■■■■です」
「?」
「?」
そろって首を傾げてしまいました。
……あー、どうも誰かの魔法で制限が掛かってるみたいです。よそ者に教えるなってことなのでしょう。