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2.61 幕間

 ソフィーは黒山羊隊を抜けました。クランの女冒険者に誘われて、今は農家に住み込みでの護衛の依頼を受けているそうです。

「この辺りの農家って元冒険者が多いんだよ」

 とミラは言いました。

「オオカミとかゴブリンとかいっぱいいるからさ、戦える人が家族にいると便利なんだ。だから護衛の冒険者がそのまま嫁入り婿入りってよくあるんだよね、うちもそうだったし。冒険者の婚活としては一番ポピュラーかも」

「そうですか」

「不安定な冒険者やってるより土地持ちの方がずっといいしね。ソフィーもそういう気分になったんだね」





 しばらくの間周辺にいる適当なモンスターを捕まえて悪魔を召喚することを続けました。


 ゴブリンが増えるとホブゴブリンが生まれてくるように、オークもまた個体数が増加するとその中から上位種が生まれてきます。これはウルクと呼ばれています。ウルクは普通のオークよりも頭一つでっかい上に魔法も使います。

 群れの中にウルクが発生すると群れの形が変わります。ウルクがオスの場合群れのアルファ個体となり、それまでアルファ層を形成していたオークたちはベータ層へと格下げされます。シータ層はそのままです。メスもまたアッパーとミドルの二階層に分かれ、ウルクはアッパー層を独占しミドル層をベータ層へ分け与えることで群れを安定させます。ウルクがメスの場合はオスがアルファ層とベータ層に分かれ、ウルクがアルファ層を独占します。シータ層はやっぱりそのままです。


 そのウルクを見つけましたので捕まえてきました。

「~~ッ~~~~ッッ!」

 猿ぐつわをかまされてウーウー唸ってます。まあ上位種と言ってもしょせんはオークの中での話です。ボクの前ではゴブリンのクソガキと大差ありません。

 一緒に捕まえたオーク4匹と並べて命を台無しにして、もとい有効活用して悪魔召喚!


「おいでませ悪魔たち!」


 血と肉をすり潰して、悪魔アカシックと悪魔キーウィ4体が顕現しました。




 ウルクの次にはトロルを捕まえてきました。あとついでにホブゴブリンも。こいつらからは悪魔ファーファと悪魔グーグーが生まれました。




 その次にはトロルとウルク、ホブゴブリン2体、ゴブリンとオークを5体ずつ捕まえてきました。

「さすがに多くないか?」

 隊長が冷や汗を流しています。

「だってお前たちこれくらいいないともう練習にもならないじゃないですか。では行きますよ──カマンデモンズ!」


 ゴブリンたちが潰れて裏返って、そこにいるのはもう悪魔たちです。悪魔ファーファ、悪魔アカシック、悪魔グーグー2体、そしておなじみのローラ5体とキーウィ5体も合わせた悪魔の混成一個旅団がボクの前に立ち並んで開戦の合図を待っています。向こうでは隊長を頂点としたくさび型の隊形で三人が待ち構えています。


「さあ悪魔も人間も、命も力も惜しむことなくただひたすらに──戦うのです!」




「いつもありがとでーす」

 崩れゆく悪魔に手を振ると『いいってことよー』みたいな思念波が返ってきました。


 さすがにキツかったみたいで隊長は地べたにグッタリ座り込んでいます。ヴァンですら立っていられず、あちこち傷だらけの二人を栗毛が治療しています。

 度重なる戦闘で荒れ果てた牧場は荒れ果てた原野に変わっています。あちこちにクレーターが開きむき出しの土は焼け焦げて溶け、あるいは毒の沼地に変わり、無事で残っているのはボクが魔法で守ったゴブリン牧場だけです。


 さすがに数が多かっただけあって戦闘も長引きました。お日様は西に傾いて、座り込んだ二人と栗毛とボクの影が長く長く伸びています。今から帰れと言うのも厳しそうです。


「ここをキャンプ地にします」


 ボクは以前にも使ったテントを張ってバーベキューセットを用意しました。お肉と野菜を串に刺して炭火で炙って、そうです、スープも温めましょう。


 牧場跡地の向こうは手つかずの自然林です。もはや生命の気配のない荒野と違ってそこには命が満ちあふれていて、名前も知らない草虫が恋の声を上げています。パチパチと焚火のはぜる音が虫の声と共演します。アウトドアチェアにグッタリ深く腰掛けた三人は火のゆらめきをぼんやり見つめながら怠惰に腕だけ持ちあげて串にかぶりついています。ボクは土の上にシートを敷いて、あぐらをかいて足の間に楽器を抱き込みました。リュートみたいな形でネックが長く、胡弓みたいに弓で弾く四弦の楽器です。町の道具屋で見つけたのです。


 隊長がうつろな目でボクを見ました。

「お前楽器もできるのか?」

「弾けますよ」

 短大出たての幼稚園の先生がアップライトピアノで弾いたリストの鬼火がボクとピアノの出会いでした。まあ小2で飽きてやめちゃったのですけど。こいつは初めて触る楽器ですけどバイオリンの要領で弾いてみます。

 むむ……低音が取りにくいです……。まあいいです、虫に負けてはいられません、ボクも陽気な曲を奏でます。


 弓をキュッキュと動かすと、どきどきとわくわくをぎゅっと詰め込んだにぎやかなメロディーが虫の声と競うように森の奥の闇の中へと吸い込まれてゆきました。



 いやーそれにしてもずいぶんいろんな悪魔と戦いましたね。どの悪魔たちも強力で多彩な攻撃をもって隊長たちを苦しめました。でも三人ともだんだん慣れてきて、今後は初見の悪魔でなければ苦戦することもないでしょう。


 いい感じですね。そろそろ大物に挑戦してもらいましょうか。





「あ……」

 ソフィーは時々町に戻ってきます。キャンプが終わった帰り道、バッタリ出会ったら気まずそうに目をそらしました。そんな顔しなくてもいいですのに。ボクはソフィーの手を引っ張って森の妖精亭に連れて帰りました。


「調子はどうですか?」

 レストランのすみっこの席に陣取ってお酒と料理を勧めながら聞いてみました。

「良くないわね」

 ソフィーは肩をすくめました。


 なんでもソフィーたちが今雇われている農家は広大な農地と牧場を持つかなり大きなところで、近隣の農家の若者たちが研修を兼ねて手伝いに来ているそうです。冒険者も何人も詰めていて、ちょっとしたお見合いパーティーみたいになっているのだとか。

「ではチャンスも多いでしょう」

「ホストファミリーの娘が牛みたいなおっぱいでみんなそっちばかり見てるわ。……ああ、でも料理だけは好評ね」

「お前の料理はおいしいですからね」


 お互いの近況報告から話がふくらんで、農家で大勢に出すのにピッタリな料理のレシピだとか王都に行ったことがないから行ってみたいだとか、どうでもいいようなことをペチャクチャしゃべりました。なんだか一緒に暮らしていたときよりも落ち着いて話せたような気がします。


「……ああ、すっかり遅くなっちゃった。今夜の宿を探さないと」

「今から探すくらいならボクの部屋に泊まっていくといいです」

 帰ろうとしたソフィーを呼び止めると今日は素直に従いました。


 やれやれです。やはりこいつはボクがいないとダメなようですね!戻ってくるのも時間の問題でしょう。

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