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2.56 結婚式

 五月晴れの空の下、町の人たちがガヤガヤ路上にたむろしています。

 今日はカミラの結婚式です。ボクは森の妖精亭のメンバーと一緒に新郎新婦の登場を待ち受けています。結婚というのはエルフにはまったく無縁のイベントですのでちょっと楽しみなのでした。


 おばちゃんの説明を聞く限りこの世界の結婚式はすごくアバウトです。結婚式場とか教会とかは特にありません。晴れた日を選んで新居の近くの道路で挙式します。親族や新居の近所の人たちへのお披露目の面が強いそうで、そういう人たちが集まりやすいように近所でやるのだそうです。遠くの親戚には手紙で報告しておしまいです。

 雨天延期で日取りがまともに決まらないこともあって正式な招待状というものもありません。「大体この日」ということだけ口頭で伝えておいて、いざ決行となれば介添え人が頑張って呼び歩くそうです。カミラの場合はミラが分身して集めました。


 そういう感じなので参列者はあまり着飾りません。親族はさすがに一張羅でやってきてますけどボクたちは平服、近所の人たちは普段着です。仕事を放り出してきたらしい作業着の男もいます。しかし当人たちは持っている中で一番いい服を着ます。


 結婚式場はありませんけど神父? 仲人? 役はいるみたいです。人間たちの文化では結婚の神エリスの加護を受けた人間が仲人役をするのだそうです。神前式なのか人前式なのか難しいところですね。エルフだと多分その神様の加護を受けてるのはいないと思いますけど人間でもそんなにはいないそうで、この加護を受けているとお礼金で一生食いっぱぐれがないそうです。五月のこの時期は気候がいいこともあって仲人役が捕まりにくくて、カミラが頼んだ相手もこの後もう一件結婚式を控えているのだとか。


 さて、その仲人役に連れられて新郎新婦が現れました。新居(と言っても賃貸アパートですけど)から腕を組んで二人が出てくるとわあっと歓声が沸き上がりました。単に待っていたからというだけではなくカミラの服装のためもあるでしょう。

「うち貧乏だったから、あまりいい服って持ってなくて……」

 結婚式の話をしていたらカミラがそんなことを言いましたので採寸してジャストサイズのウェディングドレスを作ってあげたのでした。せっかく腰が細めなのに胸が大きくて残念でした。人間はこういうの好きなのでしょうけど。

 ドレスの素材は純白のシルクで肩はむき出し、体に添ってて上半身のラインがよくわかるようになってます。スカートは二重になっていて上側のレースは裾を引きずるほど長く、全体に植物模様の刺繍をバシバシデコっています。それと作ってる途中で「そういえば人間たちって結婚したらかぶりものをするのでしたっけ」と思い出しましたのでヴェールも進呈しました。

 この世界では今までになかった花嫁衣装でしょう。素材を五割増しで引き立てて、めちゃめちゃ参列者の目を引いています。男たちの目は釘付け、女たちは羨望のため息をついています。


 ところでボクの隣でソフィーもワインレッドのドレスとヴェールを身に着けていて、やっぱり周りからチラチラ見られています。カミラのを作っているときに欲しがったのでプレゼントしたのです。ソフィーはかぶったヴェールをきゅっと引き下げて「私も結婚したいな……」なんて呟きました。親が結婚をしくじっててもしたいものなのでしょうか。


 参列者たちの輪の真ん中で、新郎新婦を前にして仲人役が長々と祝辞を読み上げました。

「……そして二人と二人の家族が幾久しく健やかに過ごせますように!」

 仲人役が祝福を与えると光の粒が降り注ぎ、妙なる楽の音が響き渡りました。結婚の神の奇跡です。結婚が成立したという証だそうです。光のシャワーの中、参列者たちが一斉に拍手します。口笛を吹いてるのもいます。

 光と音が降りやむと参列者たちが新婚の二人に贈り物を渡します。プレゼントは新生活に必要なものが多く、大抵は生活雑貨です。おばちゃんは鍋を、ボクは包丁をプレゼントしました。オルドに作ってもらったステンレス鋼のいいやつです。ソフィーは毛布を渡してました。


 こんな簡単なことで結婚式は終わりです。披露宴も二次会もありません。期待してたのにちょっと拍子抜けでした……。


 参列者たちはバラバラに散会、ボクたちも森の妖精亭に向かって帰りました。前の方をおばちゃんたちがゾロゾロ歩いていて明日の営業について話しています(料理人が二人もいないので今日はお休みです)。ボクとソフィーは少し後ろを並んで歩いています。


 式の最中からずっとこっちをチラチラ見ていたソフィーが胸の前で手のひらをぎゅっと握り合わせてはにかみました。

「私たちもいつか結婚しようね」




 ……は?

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