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2.54 生き試し

 剣の性能を試すために外に出ました。後ろからは「次はお前の剣を造るぞ」という声が聞こえていました。


「とりあえず試し切りしてみます?」

「頼む」

 ボクは前庭に杭を一本立てました。隊長は杭の前に立ち、左腕を腰の後ろに回し、剣をやや右斜め上に振りかぶりました。魔力が流れると青白い気刃剣が形成されます。

「フッ!」

 短い呼気と共に剣が振り下ろされ、杭を斜めに通り抜けました。少し遅れて杭の上側が斜めにずれて地面に落ちました。


「……えっ」

 隊長は何故か呆然と自分の握りしめた剣を見つめています。

「どうしました?」

「……何の手ごたえもなかった」

 隊長はもう一度剣を構えました。一瞬でした。右斜め上に構えていた剣が右側に振り切った形で止まっています。いえボクの妖精眼には見えてますけどね。隊長は剣を再び斜めに振り下ろし、さらに切り返して水平に薙ぎ払ったのです。切り放された杭の上部がふたつ、地面に落ちて軽く音を立てました。

「な、何だこれは! 恐ろしい切れ味だ! それに速すぎる、普通の剣を振るより倍は速いぞ!」

 たまげてますね。軽いだけじゃなくて気で加速されますので速くて当然なのですけど。


 隊長が「実戦で試してみたい」というのでみんなで森に入りました。この辺ってゴブリンやら何やらいっぱいいますからね。

 今の隊長は虎眼が使えます。魔眼持ち三人で森の中を探し回った結果すぐにモンスターを見つけることができました。

 トロルです。


 トロルはゴブリン属の生物で、遺伝的にはオーガに近いです。もっとも見た目は結構違います。身長は2.2m前後、体重は220kg程度、何より全身が長くて硬い毛に覆われています。ムックみたいに毛むくじゃらです。またオーガと同じく強力な戦士の魔法と再生能力を持ちます。種族的に防御魔法の優れた使い手で、全身の毛を硬化させているので打撃にも斬撃にも強く、なまくら刀では歯が立ちません。小オーガとでも呼ぶべきモンスターですが防御力はオーガ以上でしょう。


 トロルはゴブリンほどではありませんけどこの辺りにはそこそこいます。隊長によればリノスではトロルを一人で倒せたら一人前の冒険者ということです。

「イーデーズの冒険者は強いからな。王都の冒険者なら四、五人のパーティーで追い返すのが関の山だ」

「へー、そうなんですか」

 ボクの解説を聞いていた栗毛が手を出しました。

「それじゃ隊長、私も加護を与えるのやってみてもいいですか?」

「できるのか?」

「初めてですけどやってみます」

 ……何かこいつならできそうです。一応釘を刺しておきましょう。

「あまり魔力の消費が多くなると扱いきれなくなりますよ」

「あ、それもそうですね! それじゃちょっとだけ──あれとあれ、お願いします!」

 栗毛がお願いした相手は傷病の神グヤです。ゴブリンでいろいろやっているうちにグヤの弱い加護が強い加護になっていたのです。栗毛が渡された剣を掲げて神に願うと『りょーかーい』みたいな意志と共に赤と黒に明滅する光のかけらが降りてきて、剣に当たって砕け散りました。

「──やった、成功! 【再生阻害】と【エナジードレイン】を付与しました! これでトロルの再生は無効です!」

「そ、そうか」

 隊長はちょっと怯みながら剣を受け取りました。気軽に神様に申請して……こいつ本当に人間なのでしょうか。


 トロルは木立のはるか向こうで地を這うようにガサガサと茂みをかき分けて、どうやら芋か何かでも探しているみたいです。ボクたちは後ろからコッソリ近寄りました。空歩で足音を忍ばせて、一人だけ運動能力が人間なソフィーは抱っこして……あと30m……まだ気づかれていません……20m……10m……


 気づかれました!


 トロルはガバッと立ち上がって、戦うも逃げるもできるように身構えました。虎眼でプレッシャーをかけつつ隊長が一気に飛び出します! 睨みつけられてビビりまくったトロルは自分を奮い立たせるように大声で吠えました。

「ギエェーッ!」

 同時に巨大な気の塊が飛びます。気哮砲です。これは冷静に盾で受けて波濤、即流星剣にして返しました。

「ギャッ」

 トロルはとっさにかわそうとしましたけど左の手首が飛んじゃいました。しかし即再生が始まっています。グネグネ肉が盛り上がってあっという間に指の形になりました。その間に隊長は瞬足と縮地で接近、盾の影に隠した剣で腹を薙ぎ、即切り返して左脇から跳ね上げ、振り下ろし、無数の切り返しでトロルを切り刻みました。


 16回ヒット! 17分割された肉体がドサドサ地面に落ちます。トロルは一瞬でバラバラ死体になっちゃいました。


「な、なんて剣だ……!」


 隊長は震えています。

「これはもう、トロルがオーガでも負ける気がしないぞ」

 まあ今の隊長ならオーガどころかドラゴン辺りがちょうどいい相手でしょう。




「爺さん、これは凄いぞ!」

 工場まで走って帰った隊長はオルドの手を取ってブンブン振りました。

「いや、凄い剣だ! 軽さも速さも切れ味もかつて覚えがない。あの頑丈なトロルが藁束よりも簡単に斬れちまったぞ! これならドラゴンの骨でも切れそうだ。……まあ、相応に魔力は使うが」

「そうか、期待に添えて良かったわい」

 あまりの喜びようにオルドの方が戸惑っています。

「そうだ、さっきの鉄剣もくれよ。いやこの剣強すぎてな、頼ってたらかえって腕が落ちそうだ」

「そうか。まあこちらも戦士の神の加護が乗っとるのだがな」

「それはそれでいい」

 剣を受け取った隊長はホクホク顔です。そしてヴァンの剣となるべく揃えられた材料を見て「この剣でこれなら、その剣はどんな恐ろしい威力になるんだろうな?」とつぶやきました。

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