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2.49 賢者の意志

 ……あーもう、仕方ありませんね、ここは一肌脱いであげましょうか。


「お前に恋の魔法を掛けますので受け入れるがいいです」


 ボクはヴァンに魔法を撃ちました。効果は栗毛で実証済みです──【催淫】!

 ポワワワワワン……ピンクの光がヴァンを包み込みました。


「オレに……何かしました?」


 ……えっ!? 効いてません???

「お前……何も感じないのですか?」

「はい」

 Whaaaat!? そんなバカなですッ! 性欲のない十代男子なんて存在するはずがありません!!

 うろたえてそう言うとヴァンは首をかしげて言いました。

「よくわからないがあれのせいかな? 実は師匠から【明日への活力】という魔法を教わったんです。性欲を活動意欲に変えるという。年末からこっち使いっぱなしなので」


 オ、オールードー!! 何さらしてけつかんですかああっ!


 ガタガタッ、隊長がイスに座ったまま転びそうになって背もたれをつかみました。驚いています。かつてない勢いで驚愕しています。栗毛がドラゴンを倒したときだってここまでではありませんでした。

「マジか……お前マジか……!? お前、お前、強くなるためなら性欲まで捨てられるのか……!! そりゃ俺がかなうはずないわ……」

 ボクもビックリですよ。こいつの進歩の秘密がまさか魔法的な去勢にあったとは。


 うーん、道理でミラに無反応なはずです。以前は酒場のお姉ちゃんにちょっと触られただけでカチコチでしたのに。性欲がないのでは女の子相手に塩対応になるのも仕方ありません。

 しかし男女の関係とは性欲だけではないはずです。あまり自信はありませんけどそのはずです。とにかく女心がわからないのは犯罪ですよ!グリフィスなんてガッツに一緒にリンゴを買いに行って欲しかっただけでしたのに(それが答え……)、ガッツが自分の気持ちもまともに話せない貝殻野郎だったせいでとんだ大惨事です。

 よろしいでしょう、オトメゴコロマイスターであるこのボクが直々にこいつを指導してやります。乙女ゲーだってやってましたしね。え? 自分で恋愛すればよかったのに、ですって? 前世ではボクに見合う男がいなかったのです。


「いいから一発──」

 ハメてくるがいいです役得でしょう、と言いかけたところに横からソフィーがずいっと顔を出しました。

「あのね、そういう態度取られると女の子はすごく傷つくの。否定されたような気分になるの」

「そうだよ!」

 栗毛も同調します。

「お買い物が目的じゃなくて、何でもいいから好きな人と一緒にするのが楽しいんだよヴァン君」

「その通り! もっと言ってやって!」

「そうよね。それに、その……えーっと……ああ、もういいや、言っちゃお!」

 そしてソフィーはヴァンの耳元に口を寄せて小声でささやきました。

「あのね、あの子デートの後はセックスも期待してると思うけど、それって気持ちいいからしたいってだけじゃないの。抱きしめてもらうと安心するし、体がくっついてると幸せだし、自分の体で気持ちよくなってくれてるんだって自信が出るし。精神的に満足するの。セックスはただの性欲の解消じゃなくてコミュニケーションなの。愛情の確認行為なの。──もう、こんなこと言わせないでよ!」

 ほほう、なるほど。なるほどー。全部聞こえてました。エルフは耳がいいのです。それはいいことを聞きました。それでは今夜もコミュニケーションに励むこととしましょう。


「……だから、そういう態度取られると悲しいの。女の子からデートを誘われてるのに断っちゃダメよ」

「まあそういうことらしいですよ。ですからお前ちょーっとその魔法解除するがいいです」

「いやしかしですね、非常に楽なんです。一日中動き続けてもやる気が衰えないですし、誰とでもフラットな関係を築けますし物事を公平な目で判断できます」

「若者が楽な方向に流れてるのではねーです!」


 やれやれです。ボクは肩をすくめました。

「ミラ、もうやめましょう。こいつを変えるよりもお前が変わった方が早そうです」

「どう変わるのよ……」

「諦めて他の男を探しましょう」

「そんなあっさり諦めないでもうちょっとがんばろうよ!」


 そんなことを言われてもこいつに変わることを期待するくらいならマハマンなしでダイアモンドドレイクに挑む方がまだ可能性がありそうです。こいつはいわば常時賢者タイム、性欲をカットした男が女の買い物に付き合ってくれるはずがないのです。

夜ですね。町はすっかり寝静まって、ベッドの上のソフィーの呼吸音以外には何も聞こえてきません。まあボクって遮音魔法で自室を囲ってますので、中の音は漏れませんし外の音も聞こえてこないのですけど。

大きく上下していた薄い胸がようやくおさまってきました。

「どうです?満足しましたか?」

ほっぺたをツンツンつつくとソフィーはぎゅっと抱き着いて、うわ目づかいで甘えた声を出しました。

「もっとぉ……」

本当にしょうがない子猫ちゃんです。

というわけでソフィーが満足するまで確認行為とやらを継続したのでした。

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