表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/195

2.45 魔剣

 酔っ払ったギルマスが「ちょっと見せてくれよ」とせがみました。オルドがこっちを見たので「オーケーです」と言うと、剣を抜いてテーブルに横たえました。

「持っとると辛いのでな」


 ギルマスはテーブルの上の剣を惚れ惚れと眺めました。

「なんちゅう美しさだ……」

「この輝き、優美な曲線、もはや芸術品だな」

 クランリーダーも同調します。しかしオルドは難しい顔です。

「美しさも強さも抜群だが、ほとんどの人間にとっては飾りよ。使えはせん」

「今の俺なら多少は使えると思うが、これを持って戦いたいとは思わんな」

「あ、こいつか! 抜いただけでゴッソリ魔力を持ってかれたぜ。無理無理」

 実際に手に取ったことのある隊長は顔をしかめ、横から覗き込んだギルドの受付がブルブル首を振りました。


「何でそんなことになってるんだ?」

「それはだな──」

 オルドはオタク特有の早口で解説を始めました。


「まずこの剣の素材だが、刀身の大部分はミスリルでできておる。刃の部分はオリハルコン、鍔はミスリル、柄はミスリルと金の合金だ。ミスリルの刀身にオリハルコンが埋め込まれる形──オリハルコンのブレードをミスリルで挟み込む形で刃になっている。いわゆる割り込み造りのような作りだな。何故このような作りになっとるのかというと、まずミスリルというのは気を吸収して速度を増す性質がある。ところが気を通したら通しただけ吸い込むから、これでは流星剣が使えん。剣士は流星剣が使えんと魔法使い相手には何もできんからの。そこでオリハルコンだ。オリハルコンはミスリルと逆に気を放出する性質があるのだが、薄く鋭く作るほど高い密度で放出するので、このように刃状にすると少しの気でも簡単に気刃剣のようにできる。このような刀の形にすると放出された気が極限まで薄くて高圧の気刃剣を形成するわけだ。折れず、曲がらず、錆びず、異様なまでの切れ味を持ち、刃を研がなくてもその切れ味が鈍らないという寸法だ。ただでさえ硬いオリハルコンの刃に気刃剣がかぶさっとるのだから、同じオリハルコンかミスリル以外で斬れぬものはないだろう。おまけに振っただけで流星剣になる。柄の部分はスポンジ状の月白金で造られていて掌に吸い付くようだ。握ると手にフィットする上に効率よく気を通せるようになっている。甘勃ちしたチンポを握っとるみたいだな。そこまではいいのだが、この剣には戦士の神の加護が乗っておる。いわゆる魔剣だな。そのために魔力を通しただけで誰でも気を生むことができる……のだが、どうもこれは魔力が人並み外れて多い者、つまりエルフのために作られとるようだ。祝福ではなく守護がかかっとるもんだから、抜いた瞬間から戦士の神の魔法がフル発動、気刃剣を形成するばかりでなく持つ者にずば抜けた運動能力を与え感覚を拡張する。その分魔力もたんと持っていかれる。魔力さえ十分にあれば抜いた瞬間から最強クラスの戦士となるのだが、な。鞘の内張りもオリハルコンで、鞘に納めとる間は魔法が発動せんように設定されとるようだ」


「なるほどなあ」

 ギルマスが腕組みで嘆息しました。この町で使えるのはヴァンと栗毛くらいなものでしょう。

「ドワーフ王国一万年の歴史の中にはミスリルの奥義を極めこのような剣を作れる者も数人はおっただろう。またこれほどの守護を与えられる者も一人や二人はおったかもしれん。だが今となってはもはやおとぎ話の中のことよ。このようなものは二度と作れぬ」

「古代のエルフのアーティファクトか?」

 と今度はクランリーダーが言いました。何か勘違いしてるみたいですので訂正します。

「古代の遺物なんかじゃありませんよー。ほんの一年前に、作られたものです」

「なん……だと……?」

 オルドが耳を疑うといった顔でボクを見ました。

「ボクの森の、クリスというエルフが作ったのです。加護を付与したのも、クリスですぅ」

 多分クリスから見たらボクの戦士の魔法が今ひとつなので老婆心でそういうことをしたのでしょう。余計なお世話なのですけど。

「このレベルのエンチャントができるのか……。とんでもない刀工だな。そんな刀工が現代におるのか……」

「加護の付与なんて、エルフなら、だれでもできますよー」

「というとお前もできるのか?」

「でーきまーすよー?」

「……お前酔っとるのか?」

「酔って、ませんよー。ちょっとワインを一本、空けただけでーす」

「酔っとるな」


 この世界の魔法は原理上生き物にしか使えません。にもかかわらず神様は無生物に加護を与えることがあります。魔石とか魔剣とか言われるものですね。それはつまりその道具を魔力のあるものに扱ってもらうことを期待しているのです。加護のないものにも自分の魔法を使わせてあげようという神様の粋なはからいなのです。

 で、無生物に加護を授けることは強い加護を受けていると割と気軽に申請できます。ボクたちってたいていのことは自分でできてしまうのでめったにしないのですけど。まあせっかくなのでボクも太陽神と暗黒神にお願いしてみました。この剣に加護を授けてくださいですナムナーム……


 即『オッケー』『いいよー』みたいな感じの高位存在の意志が返ってきました。

 キラキラした光と闇のかけらが降って来て剣に触れ、シャラランと霧のように細かく砕けて吸い込まれました。


「な、なんだ今のは!?」

「成功でーす。この剣に追加で加護を与えてみました……」

「嘘……だろ……?」

エルフの剣(無銘)

エルフの武器オタク・クリス作。ミスリルとオリハルコンの複合素材剣。戦士の神の加護を与えられている。加えて酔っ払ったリンスによって太陽神と暗黒神の加護を与えられた。この剣の使い手は戦士の魔法、光魔法、闇魔法を使えるようになる。また追加で光と闇の複合魔法の効果「斬った相手の魔法を封じる」「斬った相手の五感をひとつ奪う」「斬った相手の体力か魔力を吸収する」のどれかがランダムで発生する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ