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2.40 俺ら王都さ行ぐだ

 流れで隊長とサシ飲みしました。森の妖精亭の二人掛けのテーブルで向かい合って料理をつつきます。ソフィーは厨房に、ダメッピは夕方からハテノへ、栗毛は彼氏のところに行ってしまいました。


 隊長が以前は王都に住んでいたという話を思い出して「いつかは王都も行ってみたいですね」と言うと、隊長はつまらなそうな顔で「別に行っても何もないぞ。ここみたいにメシも酒も旨くない」と答えました。えー、こここそ何もない田舎じゃないですか?

「……なんだその顔は。どうも誤解があるようだな。確かに王都に行けば何でもある──ただし金さえあれば、の話だ。例えばここでは普通に食べているこの肉だが」

 と言って仔羊の骨付き肉のソテーをフォークの先でつつきました。

「王都ではとんでもない値段になる。ここから王都までまともに歩いて半月はかかる、荷物を積んだ重い荷馬車ならもっとかかるな。羊の肉は冬なら塩漬けで運べるが、夏には冷凍魔法が必要だ。荷下ろしする町ごとに値段は跳ね上がって、王都に着くころにはとてもじゃないが庶民が気軽に食えるような値段じゃなくなってる」

「羊は場所を選ぶでしょうけど、王都の周りでは豚とか飼っていないのですか?」

「確かに豚は飼っているがな、人が多すぎて行き渡らん。全国からものが集まるから確かにここにはないものもあるが、あるのと手に入れられるのとは別の話だよな」

「元々ボクは人間の作る物品にはあまり興味がありませんし。そんなものより欲しいのは刺激です」

「刺激って何だ? 確かにギャンブルや飲み屋や性産業はこの町より充実してるかもな。お前、そういうのに興味があるのか?」

「違いますよ。冒険です、冒険」

 隊長はフン、と鼻を鳴らしました。

「それこそつまらんぞ。王都周辺に人がまだ足を踏み入れたことのないところなんて当然ないし、都会に出るモンスターはアンデッド系ばかりで気が滅入るし、冒険者も弱い」

「えっ……都会こそ強い冒険者が集まるのではないのですか?」

「王都にいるのは名を上げたいだけで中身のない奴らばかりだよ。何しろあそこにいたって戦う仕事がないからな、そういうのを求める奴は出て行ってしまう。本当に強い奴がいるのは国境かここだ」

「またまたご冗談を……。ここに強い冒険者なんていませんでしたよ」

「お前から見たらそうかもしれんがな。だが一つだけ言わせてもらえば、あの狭いリングで魔法なしで戦ったらそりゃあ誰も本領は発揮できんだろ。お前が前にブチのめした"鬼人マルク"なんて一昔前には王都の闘技場で敵なしの冒険者だったんだぞ? あいつは周りが弱すぎて賭けが成立しなくなって帰ってきたんだ」


 ガーン……。ショックです。あいつのレベルで無双できるって、どれだけ弱いのですか人間たち……。

 やはりボクの戦う相手は魔王くらいしかいないようです。


「ここだと毎日風呂も入れるしな。ここは水も薪も豊富だから風呂屋が安い。庶民でも毎日公衆浴場に通える。王都は高いぞ、まあ安いところでも十倍はするな。今はもっと高いかもしれん。あそこは風呂や肉に限らず何でもかんでもここよりずっと高い。流通の問題だけじゃなくて、需要に対する供給が少なすぎて価格は高騰する一方なんだ。王都じゃ金さえあれば何でもできる、かもしれん。だか金がなければ何にもできん。金がなければスタート地点にも立てない」


 まあ……それは前世でもそうでした。ボクの町でも田舎から出て来た人にかぎって「都会には何でもある」って言ってましたね。でも何でもあったとしても一杯800円のラーメンが高いと文句をつける生活で一体何を手に入れられたのでしょうか。


「それに仮に金があったとしてもな、王都の大抵の料理店よりもこの店の方が旨い。この店じゃなくてもな、そもそもが屠殺してから数日間いい感じで熟成させた肉と塩漬けで半月経った肉のどっちがうまいと思う? この酒に至っては国王だって飲んだことはないだろう。金がなくたって生活のクオリティはここの方がよほど高いぞ」

 隊長は手の中で琥珀酒のカップを揺らしました。

「……都会に行けば何かがあると信じて、一旗揚げようと王都に向かって、なけなしの金を使い果たして……。帰る金がないか、大きなことを言って出て来た手前何かにならないうちは帰れないと見栄を張って、結局一生何もないまま死んでゆく……。そんな奴ばかりだったよ。金があればいいところだろうさ、お貴族様や大商人ならな。だが庶民にも冒険者にもつまらんところだよ、あそこは。……いや、少しでも持つ者は今度は誰もが誰もを出し抜こうとしてたな。それが果たしていいところかな?」


 そして隊長はお酒をグイッと一息にあおって顔をしかめました。のどが焼けちゃったみたいです。

「すまん、少し飲みすぎたようだ。今日はお開きだ」






 そんなこんなで個別に指導をしたおかげでみんな力もついてきましたし、そろそろチームでの戦闘の訓練も始めましょうか。

 特訓のメニューにフォーメーションの研究が加わりました。




 毎日走って、学んで、たくさん食べて、泥のように眠って……。

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