2.37 Z戦士VS渡りドラゴン
冬の澄んだ空は高く、そのてっぺんを渡りのドラゴンがひとつ飛んでいます。越冬のため北の果てからもっと南の海を目指して飛ぶ種類のドラゴンです。この季節にこんなところを飛んでいるとは珍しいですね。群れからはぐれたのでしょうか。
見上げていたら栗毛が「私がやってみてもいいですか」と言うので許可しました。
「失敗してもボクがフォローしてあげますので安心するといいです」
「ありがとうございます! では、行っきまーす!」
ボッ!
膨大な気が噴き出して栗毛の全身が発光し髪が逆立ちました。次の瞬間栗毛はいきなりトップスピードで飛び出しました。時速500~600kmくらい出ているのではないでしょうか。一直線にドラゴン目掛けて飛んでいきます。
あっという間に小さな点になった栗毛から青白い波動剣が発射されます。事前に魔覚で察知したのでしょう、ドラゴンはヒラリと回避しました。そしてその本能に従って迎撃の姿勢に入りました。
お互いを追いかけるように円を描いて栗毛とドラゴンがグルグル空を回ります。火炎や雷撃や光線の魔法と波動剣の応酬が晴れた空に幾何学的な模様を描きます。
一瞬の攻防の後、栗毛はドラゴンに追いかけられる形になりました。あー、多分わざとですね。栗毛は上空目掛けて反り返るような曲線を描きました。ドラゴンは即座に栗毛の後を追いかけて旋回します。
ドラゴンは飛ぶのに揚力も利用しているので最低速度に限界があります。一方栗毛は気オンリーで飛んでいるので遅い速度で飛び続けることができます。つまり栗毛の方が回転半径を小さくできます。先を行く栗毛を追いかけて後から旋回したドラゴンは、その実先を行ったはずの栗毛を追い越してしまいました。
背後を取った栗毛は瞬間的に加速、首にしがみついて延髄の後ろにおでこをくっつけて魔法を使いました。
ギャアァァァァ……。
断末魔にも似た呪いの波動が伝わってきます。あれはグヤの【部位破壊】ですね。ここまで飛んで来るとはなかなかすごい魔法量です。かわいそうにソフィーがビビッています。
首を取られて暴れていたドラゴンがふいに動きを止めました。慣性で飛ぶ体が急速に高度を下げています。延髄を破壊されて即死したのでしょう。ドラゴンの魔法耐性は非常に高いのですけど至近距離であの威力の魔法を食らってはひとたまりもありませんでした。
ドラゴンを抱えたまま方向をコントロールしてこちら目掛けて落ちて来る栗毛が手を振りました。それを見た隊長は「もうあいつ一人でいいんじゃないかな」とつぶやきました。
栗毛のドラゴンは金貨100枚で売れました。
「やったー! ドラゴン見つけたら積極的に狩ろうかな」
「安定してできるなら大したもんだ。……お前ならできそうだな」
隊長が呆れた顔で言いました。
「じゃあみんなで山分けしましょう」
「取っておくといいです。お前がやったものですからね」
「え、いいんですか?」
「まあ普段ならパーティーの報酬は山分けだが、ドラゴンを初めて単独で殺ったときはご祝儀で総取りする慣習なんだ」
あ、そういうことだったのですね。以前川ドラゴンをやったときに報酬を独り占めした理由がいまさらわかりました。栗毛は飛び跳ねて喜びました。
「わー、ありがとうございます!」
というわけでその夜は栗毛のおごりで飲みました。
ちなみに特に言及のないときのソフィーはボクにぴったりくっついてます。軽いけど重いです。