2.36 好奇心はゴブリンを殺す
今日は栗毛と一緒に人体の構造と機能のお勉強です。回復魔法の効果を上げるには必須の知識ですから。ボクは捕まえて来たゴブリンを手術台に拘束しました。ゴブリン解体ショーの始まりです。
「前に教えたようにゴブリンは人類の遠い親戚で内臓組織などは似通っています。実験動物にぴったりなのです」
言いながらボクは生きたままのゴブリンのお腹を開けました。もちろん止血の魔法を掛けていますので出血はほんのちょびっとです。
「ホア──ッ……」
ゴブリンは絶叫しましたけど腹筋が切れちゃってますのであまり大きな声にはなりませんでした。
「ほら、動いてるでしょう? これが実物の心臓です」
ドクンドクンと脈打つ心臓を指示棒の先でツンツン押さえるとゴブリンはその都度「キュッ、キュッ」と小さな声を上げました。意識が飛び掛けているみたいです。
「へえええええ!」
興味深そうに内臓を覗き込む栗毛の目がキラキラしています。オオカミやヒツジの解体ならしたことあるはずですけど、やはりヒト科とはちょっと感じが違いますからね。
しかしゴブリンの下腹部の辺りからプーンと臭気が立ち昇ってきました。脱糞しています。ついでにおもらしして、全身からものすごい量の汗を噴き出しています。汚いですね。まあ麻酔かけずに胸骨取っちゃいましたからね。痛いのでしょう。慈悲深いボクはゴブリンに情けをかけてあげることにしました。
「栗毛、【無痛】の魔法を掛けてやるといいです」
「はい」
栗毛は【痛覚鋭敏】の魔法を掛けました。……えっ?
「────ッ──ッッ!!!」
声もなく絶叫したゴブリンは拘束されたまま全身の力でのけぞりました。ゴキッ! 足が曲がり肩が外れ背骨が砕け、急角度で曲がった首が音を立てて折れました。あ、死んじゃってます……。
「お前、何をやってるのですか……」
「いえ、やってみたくて」
「なら仕方ないですね」
好奇心は科学を発展させる原動力です。それを取り上げるわけにはいきませんね!
ボクは死んだゴブリンをひっくり返して首の後ろを開けて、延髄が損傷しているところを見せました。
「この延髄という部位は呼吸や心拍数の調節と言った機能をつかさどっていて、ここが傷つくと呼吸不全を起こして死にます」
「へー」
それからボクたちはゴブリンを思う存分解体して人体構造への理解を深めたのでした。何しろおかわりはたくさんあります。
「ホギャアアアアアッ!!」
ソフィーの放った魔法が命中してゴブリンは悲鳴を上げました。地中深く打ち込んだ柱の一本一本にゴブリンが縛り付けられていて、ソフィーはそのゴブリンを的にして射撃の練習をしています。【加熱】の魔法で炎上させたり、【乾燥】の魔法でカラッカラに干上がらせたり、【冷却】の魔法でカチコチに冷凍したり、【酸化防止】の魔法で酸素を取り入れられなくして窒息させたりと自由自在です。どうやらトラウマはすっかり払拭できたようですね。正直全然自信なかったのですけど何だか上手くいったみたいでよかったです。まあ結果オーライということで。本来の実力を取り戻した今のソフィーならトラやゾウくらい一撃でしょう。
「どう? 上手になったでしょ!」
「この前までとは見違えるようです。お前はボクの誇りです」
頭をなでてあげるとソフィーはニコニコ笑顔を見せました。しっぽがあったらブンブン振ってるところですね。
気になったのでうちの赤毛の子猫ちゃんがどこまでワンちゃんか試してみることにしました。好奇心のおもむくままに。
その夜、ボクはベッドに腰かけて膝の上に座るように促しました。
「?」
疑問符を浮かべながらもソフィーは素直に従います。軽いですね。ボクは胴に手を回して服の下に手を差し入れました。
「……う」
抵抗しませんけどちょっと緊張してますね。力の入ったおなかを円を描くように撫でます。撫でます。毎日磨いた甲斐があってお肌スベスベです。薄い脂肪が手のひらに吸い付くようです。おやおや、耳が赤いですね。軽く噛んでおきましょう。
「ひゃっ」
声を上げてのけぞった隙にスポブラをツツツと上にずらします。
「あ……」
持ち上げて重さを確かめる……ほどないのでひたすら撫でさすります。おなかも太ももも撫でます。あちこち撫でます。
10分目くらいから息が荒かったのですけど、30分ほどあちこち撫でてたらとうとう体をひねってこちらを向きました。目が潤んでます。
「あ、あの……もう……」
「ん? 『もう』なんですか?」
「……もう!」
というわけでこの日は何をして欲しいのか全部言わせてやったのでした。