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2.29 性の悦びを知りやがって!

 栗毛が突然ファッションに目覚めました。

 恋人ができるや否やシーラのメイクショップに通い出した栗毛はもさっとしていた髪がすっきりして、眉を整えたりリップを引くようになったりして、あっという間にあか抜けてしまいました。普段着も流行のものに変わっています。

 史記『刺客列伝』中の「女は己を悦ぶ者のために容づくり、士は己を知る者の為に死す」という一節が悦知 (えっち)の語源と言うのは民明書房の本にも載っている事実ですが、こいつも男を知ると同時に己を形作るようになってしまったのです。


「聞いてくださいよ、私のカレったら──」

 ニッコニコしながら毎日毎日その男の話をしてくるわけです。こいつ彼氏ができたらそいつの話しかしなくなるタイプだったのですね……。背が高くてイケメンで働き者で職場の部下たちからの信頼も厚い小金持ち、好きな食べ物は玉ねぎとベーコンの入ったポトフ、そして唐揚げ。猫舌で辛い物も少し苦手。

 顔も名前も知らない相手のことにすっかり詳しくなってしまいました。え? 何で名前を知らないのか、ですって? しゃべりながら聞いて欲しそうな顔でチラチラこっち見てましたけどね、心底興味ありませんでしたのでスルーしました。


 今日も森の妖精亭で赤毛と朝食を取っていると栗毛がやってきました。

「私のカレってカッコよくて優しくて仕事もできてとっても素敵な人なんですけどちょっと抜けてるところもあって、まあそういうところが可愛いんですけど、昨日なんかお肉を山ほどもらってきたんです! びっくりして『お肉ばっかりこんなにどうするの!?』って言ったら『君なら何とかしてくれると思って』って、そんなこと言われたら私頑張るしかないじゃないですか! というわけでバーベキューやるので来てくださいね! 冒険者ギルドの裏で鐘四つからです! お肉なら売るほどありますから!」

 栗毛は一方的にまくし立てると走って行ってしまいました。


 体を痛めつけるばかりというのもよくないので今日は訓練をお休みしてたのですけど(ダメッピは聞かずにハテノに行ってしまいましたけど)、栗毛は休む間もなく走り回っています。それにしてもまた栗毛の彼氏とやらのいらない一面を知ってしまいました。あ、赤毛が死にそうな顔をしています。ボクの知る限り最初に飲んだ時からこっち男っ気ないですしね、若さに中てられているようです……。


 他に用もなかったのでちょっと早めに顔を出しました。途中でお土産に野菜をひと籠とバーベキュー用の炭を三袋買っていきます。

 そしたらギルマスや職員たちも続々とやってきました。冒険者だけでなく一般人もいます。ちょっと年かさの男と若い女たちの一団は多分医者でしょう。他の女たちは冒険者でない友達でしょうか。本当にあちこちに声を掛けたみたいでどんどんやってきます。一般人から冒険者から50人以上いるのではないでしょうか。あいつ交友範囲広かったのですね。

 ギルマスはお酒を持って来てましたし職員たちもソーセージやらジャガイモやら、ただごちそうになるのも悪いからってみんな野菜やらなんやらを持ってきてます。手ぶらで来てるのはラーナとノンナくらいでした。これはちょっとしたパーティーになりそうです。


 ……あ、もしかしてこの中に栗毛の彼ピとやらがいるのでしょうか? まさかお肉をもらった張本人がいないということもないでしょうし。


「あ、リンスさん! ソフィーさん! 来てくれてありがとうございます!」

 栗毛がボクを見つけて手を振りました。周りには若い男がいっぱいです。

「リンスさん、こちらは私がお世話になってる治療院の先生です。こちらは若先生」

 紹介されたちょっとぽっちゃりの若い男が「どうもどうも、始めまして」とあいさつしました。手にはおみやげらしきワインの瓶を提げています。

「こっちは薬局と私がよく行くパン屋さんと雑貨屋さんの方たちです」

「「「どーもどーも」」」

 それぞれ芋類、パン、果物の入った籠を持っています。


 森の妖精亭の面々もやってきました。おばちゃんは「うちはビールを一樽と、バーベキューソースも持ってきたよ」と手に持った甕を掲げました。後ろにはミラが二人がかりで大きな樽を抱えています。

 女たちに混じって金髪もいます。手には何も持っていません。金髪は「やあ、いつもどうも」とその手を挙げました。

「お前は何を持ってきたのです?」

「肉だけど」

「お肉が余ってるからって人を呼んだのにお肉を持って来てどうするのですか」

「はは……」

 曖昧に笑って金髪は頭をかきました。マヌケなやつです。

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