2.21 それはどちらかというとYouTuberでは?
ハテノで依頼達成を報告して報酬をもらい、ついでに帰りの便の護衛をしてようやくイーデーズに戻ったのは午後三時頃のことでした。この町もなんだか久しぶりです。二日ほど留守にしただけのはずなのですけど。
ギルドに護衛依頼完了の報告をしてゴブリンの耳を換金しました(額が大きくてハテノの出張所ではできませんでした)。金貨四十五枚分ですからね。依頼の報酬よりもはるかに多かったです。
さて報酬をみんなで山分けして、武器を預けてギルドを出たところで突然ダメッピが土下座しました。うわ、周りにジロジロ見られてます。何なのでしょうねこいつは。
「頼む、オレを弟子にしてくれ!」
昨日からずっと黙っていたかと思えば突然何を言い出すのやら。
「オレは何もできねえ! 剣もダメ、頭もダメ、あんたの言う通りのダメ野郎だ! 弱えくせに使えもしない剣を振り回して、自分一人で強くなれると思、思う、思われ……」
「もしかして思い上がり?」
「そう、思いあがってた! 頼む先生、オレを男にしてくれ!」
嫌ですよ面倒臭い──と言いかけてボクは言葉を飲み込みました。
ちょっと考えます……。
「……ボクの指導は厳しいですよ。お前、途中で投げ出さずについてこられますか?」
「ああ! 何でもする!」
ん? 今何でもするって(以下省略)
「いいでしょう。お前を強くしてやります。限界以上に」
「本当か? 恩に着るぜ!」
ダメッピはガバリと頭を起こしてボクの顔を拝み、また土下座しました。
「隊長、ついでですからボクが全員面倒見てあげます」
「ん? どういうことだ?」
『面白いことが始まったぞ』みたいな顔をして聞いていた隊長に声を掛けると虚を突かれたのかキョトンとしてました。
「お前たち全員をこのボクが直々に指導してあげようと言っているのです」
「ちょっと! 私はそんなことお願いしてないけど!?」
「お前の強さは認めるが、俺もこの年でまた訓練というのは、今更ちょっとな……」
赤毛と隊長は否定的です。
「えー、私はどうしようかなー……。あのー、私は痛いのとか苦しいのとか嫌いなんです。それでもリンスさんより強くなれますか?」
「はい! 一生懸命トレーニングすればボクより強くなれますよ」
「じゃあやります!」
なれるわけないでしょうが舐めてんじゃねーです。お前には地獄を見せてやります。
まあアホ栗毛はともかくとしてボクは考え方を改めたのです。
自分で闘ったらこの世はヌルゲーです。月の直径は地球の4分の1ですがベテルギウスと並べたらそんなのどんぐりの背比べ、誤差にすぎません。同様にドラゴンだろうと魔王だろうとボクの前ではゴブリンと同じ、目くそ鼻くそ五十歩百歩いざりの蹴り合いです。この国の魔王とやらもボクがやったら特に苦労することもなく倒してしまうでしょう。
ではどうすればよいのでしょうか? ボクがこの世界を楽しむには?
答えは縛りプレイです。以前へっぽこ冒険者をチアしてゴブリンキングと戦わせたことがありましたけど、あれはよかったです。ボクが支援しててもどっちが勝つかわからなくて結構ハラハラドキドキしました。あの感じで行きます。
それとですね、実はインスタ映えも気にしてるのです。今までの傾向から見てボクが直接闘うのってエルフには全然受けないのですよね。勝って当たり前ですし。
ボクは大抵の場合簡単なタイトルをつけた動画を投降しているのですけど、例えば『人間をゴブリンキングと戦わせてみた!』ってタイトルの投稿は軽くバズりました。でも『ヤクザを皆殺しにしました!』の時は「そう……(無関心)」って感じの反応しかもらえませんでしたし、『冒険者の研修中にゴブリンを駆除しました!』なんて閲覧者たったの三人でしたからね……。多分リーンとカルスとカリンの三人しか見てくれませんでした。これが『ゴブリンに敗北しました……』だったらほぼ全員が面白がって見たのでしょうけど。ボクが戦うくらいならただ町を散策してるだけの動画の方が断然伸びます。料理作ってる期間はまるで無反応でしたけど。
ちなみに過去一バズった動画は『ドワーフのジジイと友達になった』でした。エルフ的には大事件なのです。
RPGを低レベルでクリアするように、初期装備でクリアするように、職業を制限してクリアするように──ゲームのキャラクターみたいにこいつらを鍛えて操作して、この国に巣食う魔王とやらを倒してやります。
ダメ「変われるかなぁ!!!?オレ変われるかなぁ!!!?」
アホ「ム 」