表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/195

2.19 ゴブリンスレイヤーやるよ!

 右手に剣をつかんで斜面を滑るように駆け降ります。そのまま速度をつけて走りだして洞窟の前で急ブレーキ! 勢いで乗り込みそうになったのですけど中でやってもあいつらにボクの活躍が見えませんからね。

 あ、そうです。ボクは暗視魔法で見えてますけどあいつらには見えませんよね? ボクは【空間光源】の魔法でゴブリン広場の一帯だけ昼に変えてやりました。


 よーし、まずはゴブリンを追い出しますよ! 【覚醒】の魔法で全ゴブリンの眠りを打ち破って──

 しゃあっ【威圧】! 【威嚇】! 【恐怖】! 【恐慌】! 【不安】! 【不快】! 【焦燥】! 【危機感】!! 精神攻撃魔法を次から次へと乱打します。範囲は洞窟全体です。


「ひえー! ひえー!」

 後ろから変な声が聞こえました。栗毛がまた奇声を上げています。もしかしたら神様的にはこいつはゴブリンの仲間でボクの魔法の範囲に含まれてしまったのかもしれません。

 まあゴブ栗毛は置いといて、ボクの魔法をレジストできるゴブリンがいるはずもなく。パニックに陥ったゴブリンたちの悲鳴が洞窟の奥から聞こえてきます。


「ギエエエエエエエ!」

「ギャアアアアアアアッ!」


「ここにいたら死ぬ!」という強い思いに揺り動かされたゴブリンたちが洞窟から駆け出てきます。実際には洞窟の中の方が安全なのですけどね。それにしてもワラワラワラワラ湧き出して……卵から一斉に孵化したゴキブリみたいです。キモイですね。駆逐してやります。


 真・エルフ無双の始まりです!


 先頭を切って逃げ出してきたのは子供を抱えたメスゴブリンです。ザシュッ! 横殴りの一刀で首を刎ね飛ばすと胴体がバタバタッと足をもつれさせて転びました。腕から取り落とされた赤ゴブリンの首をブーツのかかとで踏み折ります。

 続けてやってきたのはやはり子供を抱えたメスゴブリン、今度は三匹持っています。カカカッ! 雷光のような三連突きで赤ゴブリンを引っこ抜きます。

「ギ?」

 あ、腕の中から子供がいなくなったことに気づいたみたいです。そこで串に刺さった団ゴブリンの三兄弟を見やすいように掲げてあげます。

「探し物はこれですか?」

「ギャアアア!」

 悲鳴を上げたメスゴブリンを蹴り飛ばします。さらに剣をおおきく振りかぶって「えいっ」思いっきり振り抜きます!

「グブッ」

 剣から抜けて飛んで行った赤ゴブリンが後ろのゴブリンに激突して顔面を砕きました。


「ガアアアアッ!」

 仲間がやられているのを見たホブゴブリンが大きく吠えながら槍で突いてきました。ボクは大きく跳ね飛んでくるっと前方宙返り、槍をかわして回転の勢いで剣を叩きつけます。「グェァ」剣は頭にめりこんで脳みそがグチュっと潰れました。ゴブリンの体が垂直に崩れ落ちようとする寸前にその肩を踏み台にしてくるっと後方宙返りで元の位置に帰ります。せっかく観客がいるのですからちょっと曲芸やってみました。視線を切ってるようでも【走査】で全部見えてます。


「「「「「ヒャアアアアアッ!」」」」」


 ゴブリンの波が10匹単位で押し寄せてきます。そこでボクはハンマー投げみたいに腰を落として剣をぶん回して大回転! エルフハーリケ────ン!! ゴブリンの集団の中に突撃します。

「ヒャッハ──!!」

「ア」「ワ」「ビュ」

 スポポポポポーン!ゴブリンの首が次から次へと跳ね飛んでいきます。


 キキーッとブレーキをかけて回転を止めます。ゴブリンたちの足も止まっています。洞窟の中で感じた得体の知れない恐怖と目の前のボクへの恐怖とのはざまで揺れ動いています。


「ホアアアアアアッ!」

 先頭に立ったホブゴブリンが威嚇の咆哮を挙げました。野生動物が大声で威嚇するのは実際には戦いたくないからです。肉食獣が草食動物を襲うときには声なんて上げません。ビビッてるのが見え見えです。

 近づいてこないので猶予を与えてあげましょう。ボクはブーツを脱ぎ捨て裸足で大地を踏みしめました。


「わかりますか? ボクサーがグローブを外したのですよ」


 ボクは剣を逆手に構え直して地面に突き立て、切っ先を右足の指の股で挟みました。およそ一切の流派に聞いたことも見たこともない奇怪な構えで当方に迎撃の用意ありです!

「ホアッ!」

「ホアアアアッ!!」

 ……あれ? せっかく待ってあげてるのにホブゴブリンは大声を上げるだけで近づいてきません。やれやれ、そっちがこないならこっちから行ってあげましょうか。

 剣を足の指で挟んだままぴょーんぴょーんと片足で跳ねます。ケンケンしながら接敵します。ごらんくださいこの動き、まるでサーカスです。腕が鳴ります牡蠣殻と、ゆあーんむみょーん逆流れ!

 シパッ! 神速で跳ね上がった剣先がホブゴブリンを真っ二つに──


 ゴキンッ!


 手のひらに衝撃が走りました。ゴブリンの開きにしてやろうと思ったのに切れ味が悪すぎて切れねーのです。剣先はホブゴブリンの竿と玉とを叩き潰して恥骨にめり込んで止まっていました。顔面を真っ白にして股間を押さえてヘナヘナッと崩れ落ちたホブゴブリンはほとんど土下座みたいな姿勢でうずくまってしまいました。首筋が丸見えだったので剣先を押し込んでやります。

 ズブブブ……。

「グッ……」

 脊髄を切裁されてホブゴブリンは息の根が止まりました。うーん、予定とは違いましたけど結果オーライということで。


 うん、やっぱりダメですこれ。

「コラダメッピ! こんなゴミを使ってはいけません!」

 ボクは鉄の棒をアイテムボックスに放り込みました。


「闇魔法【クラクラ】!」


 ──掌の中で光が押しのけられて、凝り固まった闇が剣の形となりました。光魔法キラキラと対をなす無明の刀身──その正体は超重力の井戸の底です。こいつが通り抜けたところは事象の地平面のかなたに吹っ飛ばされちゃうのです。この世に斬れぬものなどあんまりありません。


 虚空目がけて振り回すと触れたところの音も光も消えてゆきます。


 ボクはゴブリンたち目がけて宣言しました。

「エルフの剣術、この世の見納めとして目に焼き付けてゆくがいいです」

 術なんてものはボクにはないのですけどね。魔法力にものを言わせた脳筋ゴリ押しスタイルこそがエルフの本領です。まあこれ出しちゃった時点で後は消化試合なのですけど。


「しゃいっ!」

 ホブゴブリンを脳天から唐竹に割って、返す刀で次のホブゴブリンを逆袈裟に切り上げて、剣を伸ばして雑魚ゴブリンをまとめてなで斬りにして、ものの数秒で100匹のゴブリンが地獄に召されています。


「っしゃいしゃーいっ☆」


 ……血生臭さが風に乗ってまき散らされてゆきます。ゴブリンたちの屍山血河を踏破して命の荒野に立ち尽くすボクの前に、洞窟の奥からゆらりと立ち上がる影ひとつ──


「ガアアアアアアアアアッ!!!」


 大気をビリビリ引き裂いて叫び声が響き渡りました。

 ようやくゴブリンキングのお出ましです。

 遅いですよ暗君。お前がマゴマゴしてる間にお前の群れは全滅です。


 ゴブリンキングは怒りを瞳に煮えたぎらせてボクを憎々しげに睨みつけてきます。人間から奪ったのでしょうか? ゴブリンキングはその両手に粗雑な両刃剣を一本ずつ構えています。

 そちらが二刀流ならこちらも二刀で対抗です!


「光魔法キラキラ!」

 右手に光魔法キラキラを。左手に闇魔法クラクラを。光と闇の両属性の剣を構えます。ボクは太陽神エールと暗黒神カーラの強い加護を受けてますからね。光と闇が両方そなわり遊戯王に見えます。

 ゴブリンキングを剣の先でビシッと指して決め台詞です!

「お前たちは豚や牛の命乞いに耳を貸したことがあるのですか?」

 王。


 さあ王対王の最終決戦です。

「ダメッピ! よーく見とくのですよ!」

 うちのダメな子に魔法剣の奥義を見せてあげることにしました。レベルが違いすぎて参考にはならないでしょうけど。


 ではいきますよ! ボクは【分身】で二人に増えた上で【幻影】で100人くらいに見た目を増やして幻影で増やした無数の無刀斬で牽制して【瞬足】で飛び出して【縮地】で間合いを詰めて左右を超高速ですり抜けながら光の剣と闇の剣でゴブリンキングの両手両足を切断しました。


「!?」


 この間わずか0.1秒……ゴブリンキングが無様に倒れ伏すより早くボクは両手の剣を神に還しています。こぼれ落ちたバスタードソードが二本、カラカラ音を立てました。


 見えましたか? 見えなかったでしょうねぇ。まあ見えたところで犬猫よりも低能なゴブリン風情にエルフの魔法の精妙が理解できるとも思いませんけれども。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ