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2.18 ゴブリンの棲み家へ遊びに行こう

 こいつらはほっといてサクッと行きましょう。手加減しつつ自重しない方向で。

 まずは周辺情報を取得してゴブリンの巣を探します。ボクは椅子に腰かけたまま【走査】の範囲を広げました。半径10kmほど。


「ひゃああぁぁあ!」

 栗毛が自分の体を抱きしめながら変な声を上げました。何ですか、うるさいですね。

「見られた! 今しっかり見られた!」

「見えましたけど見てませんよお前なんか。自意識過剰もいい加減にするといいです」

 他の4人はポカンとしてます。


 さてさて、これでこの村の周囲のことはだいたい把握しました。山に生えてる木の数までバッチリです。

 ゴブリンの群れは半径10km以内に18あります。そのうち14は家族単位の小さな群れで、50匹未満の中規模の群れが3つ。残りのひとつが大きな群れです。山をふたつ越えた向こう側に鍾乳洞があってそこを巣にしています。今巣に残っているゴブリンだけで100匹を超えています。全体では300に迫る数でしょう。ゴブリンキングもここにいます。


 ここから遠隔攻撃で皆殺しにするのは簡単です。でもそれではこいつらにボクのスゴさが伝わらないでしょう。たとえばこうです。

『よし、ゴブリンを全部退治しましたよ!』

『何言ってだこいつ』『フカシやがって』『あんたホラ吹くのもいい加減にしないと人が話を聞いてくれなくなるよ?』『まーたリンスさんが適当なこと言ってます』……


 最後のは実際に言いそうです。ムカついたので栗毛の頭をグリグリしてやりました。

「いだだだっ! 何ですかぁっ!?」

「見つけました。向かいましょう」


 さて今巣に向かったところでゴブリンの大半は狩りやら何やらで出払ってしまっています。ボクたちは夜になるのを待ちました。その間手持ち無沙汰でしたので栗毛の案内で村を見て回りました。


 村は山々に囲まれた盆地の中にあります。全体がなだらかな斜面で、村の一番高いところから湧き出した泉は白い石で囲まれて、蛇口が清らかな水を吐き出しています。ここから導水設備で各家庭へと水を運んでいるようです。残った水は村の真ん中を用水路となって流れています。


「ここでワインを作っています」

 村で一番大きな建物はワインの醸造所でした。自分たちで飲むほかイーデーズからも引き合いがあるそうです。

「どうぞお試しください」

 ワイナリーの責任者が樽を開けたので試飲しました。ん、人間が作ったものにしてはなかなかイケますね。

「これ、売ってます?」

「ええ。イーデーズ辺りでは結構人気があるんですよ」

 高級ワインの扱いで庶民層には流通していないのだとか。というかこれ、例のホテルのレストランで出してるやつですよ。道理で味に覚えがあるはずです。ここから仕入れてたのですね。

「では買います」

 ボクはワインを10樽即金で買いました。どうせこの後報酬として戻ってきますしね。


 薄暗い小屋に集まって女たちがなにやら手仕事をしています。細い毛を束ねたものを目の前に寄せて眉根を寄せて睨みつけて、まとめた毛の中から質の悪いのをチマチマチマチマ手作業で抜いてます。やりたくないですね。

「何をしているのです?」

「あらエルフ様、筆を作ってるんですよ。急に筆の需要が増えて大忙しなんです」

 女の一人が顔を上げて答えました。あー、化粧筆じゃないですか。シーラのお店って流行ってますからね。

「この際ナナの手でも借りたいくらい! でも、この子にこういう繊細な作業はねぇ……」

「あれ? 私の評価、低くない?」


 夕食は村長の家で歓待されました。山の鳥を焼いたのとかチーズフォンデュとかジャガイモのふかしたのとかワインとか、テーブルの上いっぱいにところ狭しと並ぶ料理は素朴ですけれども正直町の酒場よりも気の利いたエルフ味でした。



 とっぷり日も暮れました。そろそろゴブリンたちも巣に戻っている頃でしょう。村はずれで召喚した5体の影狼に分乗して山の中をたったかたったか移動します。こいつらを引き連れて歩いて行ったら夜が明けちゃいますからね。


「ここです」

 10分後にはボクたちはゴブリンの棲み家となる洞窟を目にしていました。山の斜面の途中から見下ろす形です。洞窟の前の広く平らな草地が月明りに皓々と照らし出されています。ゴブリンたちの生活の場なのでしょう。煮炊きしたたき火の跡が点在していて、隅の方には動物の骨がうず高く積まれています。

 ちょうどゴブリンの姿は見えません。とはいえ気づかれないように少し離れたところで止まります。


「本当にあった……」

 影狼から降りたダメッピが呆然と呟きました。

「あそこにゴブリンがいるのか?」

 隊長はまだ疑ってるみたいです。

「……うぷっ」

 赤毛はグッタリしてます。影狼での移動が辛かったみたいです。あと栗毛は何故か目を見開いたり細めたり指で丸を作って覗いたりしています。村を出てからずっとです。奇行の多いやつですね。

「あ、あー……本当にいます。数はちょっと……えー……ダメだ、見えない……」

 一生懸命洞窟を覗き込んでいた栗毛でしたけどすぐに「疲れた……」と手のひらで目玉をグリグリ揉み出しました。


「何をしているのですかお前は」

「いえリンスさんの真似してみようかと思って。でもあまりよく見えません」

「エルフじゃないのですからそんなにすぐできませんよ。お前なら【生命反応感知】を使った方が確実ではないですか」

「うーん、そういうのではなくて。もっとこう、全体を見たいんです」

「それなら身体感覚を頑張って鍛えて拡張することです。まあ、今の感じならもう少し練習すればできるようになりますよ。多分」

「はあ、なるほど。がんばります」


 ボクはパーティーメンバーを残して一人で洞窟に向かうことにしました。

「では今からちょっとゴブリンを駆除してきます。お前たちはここで見てるといいです」

「本当に一人で大丈夫か?」

 隊長が声を掛けます。結構心配性ですよね。まあ面倒見が良くなければ更生施設のリーダーなんてやってませんか。ボクは隊長に心配するなと声を返しました。

「ゴブリンの100匹や1000匹、なんてことありませんよ」

「本当か? お前は強いとは聞いてるが、実際に戦ってるところは見たことないしな」

 するとダメッピが「いやオレとやったじゃないすか」と抗議しました。

「あんなの戦ったうちに入るか」

「ひでえっすよ……」


「あの変な手袋を使うんですか?」

 今度は栗毛が聞いてきました。こいつはもう少し言葉を選んだ方がいいです。

「変とは何ですか変とは。うーん……あれを使っちゃうと群れごと秒殺ですし。何をやってるかお前たちにわからないでしょう」

 人間相手に手加減しつつ無双するにはちょうどいい武器なのですけどね。

「魔法を使っても同じですし、ここは素手か剣か……よし、剣で行きましょう、剣で」

 せっかくですからダメッピにお手本を見せてあげます。


 と言っても森から持ってきた剣はギルドに預けっぱなしです。引き取るのをすっかり忘れてました。まあどうせ使いませんし、持ち出しても町に入るたびに預けないといけませんし、面倒くさいですよね。

「えーっと、何かありましたっけ……」

 アイテムボックスの中を探って……ボクは一本の剣にピタリと目を止めました。そういえばありましたね、適当なのが。手持ちで一番弱いのが。ボクはダメッピの鉄の棒を取り出しました。

「あいにくこれ以下の刃物は持ち合わせていないのです」

「そんなに駄目か、俺の剣……」

「ダメダメです。使いこなせないとナマクラ刀より弱いただの鉄クズみたいなものですよこんなの」

「チクショー……」

 ダメッピはガックリうなだれました。

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