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2.10 反省会

 その後は新たにゴブリンの襲撃を受けるということもなく無事イーデーズに到着しました。日が暮れるのも早くなってきていて辺りはもう薄暗く、依頼完了の手続きの書類を作るのに魔法の明かりが必要でした。

 ところでこの国では武器を持って町に入ることができません。この西門からだと町の南側をぐるっと迂回して東側のギルドまで戻らなければならないのです。面倒くさいですね。



 ギルドで報酬をもらって武器を預けて酒場に移動しました。ちなみにボク以外の四人は酒場に来る前に銭湯で汗を流しています。

 今日は女冒険者たちと飲んでいた酒場です。今はウェイトレスに転身したラーナとノンナが目ざとくやってきて隊長に「コレと一緒なの? 大変でしょ」などというのでシッシッと追い払いました。コレとは何ですか失礼な。

「なによぅ」

「ケチー」

 二人はブーたれながら離れていきました。うるさいですね……。


「それじゃあ打ち上げと言う名の反省会を始めるぞ」

 お酒が行き渡ったところで隊長が乾杯の代わりにそう言いました。

「リンス、お前何か言いたそうだったよな。言ってみろ」

 ご指名をいただきましたので言わせてもらいます。


「それではまずノッポ、お前です」

「オレか? なんかマズかったか?」

「一から十まで全部ダメです。お前は弱い上に状況判断も悪いです。それから赤毛」

「え、私?」

「お前も自分勝手に魔法を撃ってるだけでしたね。後衛は全体を見ないとダメでしょうに」

 栗毛は問題外です。本当に見てただけでした。

「栗毛、お前クランにいたときはどうしていたのですか? 最初の頃は戦闘に参加していたのでしょう?」

「え? えーっと、戦闘中は隠れてて、終わってから怪我を治したりしてました。回復役は貴重だから怪我しちゃいけないって」

 要するに下心満載の男たちに甘やかされて姫プレイにいそしんでいたというわけです。


「お前たち全員技術もダメなら周りも全然見ていないのです。今日の戦闘の場合、まともなパーティーなら例えばこうです」

 ボクはアイテムボックスから紙を取り出して簡単な絵を描きました。


「ノッポ、お前は防御力が紙なのですから先頭に立つべきではないでしょう。何で真っ先に突っ走ったのですか? あそこは隊長を前に立てて、お前は盾に隠れるように左後ろに位置すべきでした」

「いや敵を前にして逃げるわけにはいかねえだろ」

「逃げろとは言っていません。タイミングを合わせろと言っているのです」

 言いながら紙の上にデフォルメした隊長とノッポの絵を描いて矢印で進路を示しました。


「それから赤毛。お前もまたタイミングを計ってノッポとは逆に右側に走って、接敵直前に魔法を撃って牽制するのです。そうして敵の注意が右側のお前に引き付けられた瞬間に左側からノッポが出て切りかかるわけです。それがチームワークってものでしょう」

 紙の上で今度は赤毛を右に走らせてゴブリンに向かって射線を引くと赤毛はきまり悪そうに指先をもてあそびました。

「う……。考えたこともなかった」

「いや俺は毎回同じこと言ってたよな?」

「そうだっけ。隊長って毎回女の子買ってるところしか覚えてなかった」

「そこは否定しづらいが覚えといてくれよ……」

「こんな風に絵で描いてくれるとわかりやすいんだけど」

「そういう特殊技能を求められても困る」

「絵くらい誰でも描けるでしょう。それから栗毛」


 他人事みたいな顔をして聞いていた栗毛を指名するとものすごく意外そうな顔を作りました。

「え、私も何かするんですか? 私ヒーラーなんですけど……?」

「何ですかその生まれたときから特権にどっぷり浸った者特有の甘ったれた思考は!」

「痛たたたっ! よりによってリンスさんに言われる筋合いはありませんっ!」

「ふざけんなです!」

「ぎゃぼーっ!」

 ムカついたので頭をグリグリしたらさらにムカつくことを言われたので2倍増しで力を込めてやりました。

 栗毛は逃げ出してノッポの後ろにささっと隠れました。

「助けてヴァン君、いじわるエルフにいじめられてるの!」

「え? あ、あー、仲間同士で喧嘩はよくないと思うぞ?」

 ノッポがまたカチコチになりながら仲裁しようとしています。そんなにおっぱいがいいですかこのスケベノッポは。

「ケンカというのは同じレベルの者の間で発生するものです。ボクは上それは下、これはケンカではなく教育的指導、ファミリーの愛の平手打ちです!」

「そういうセリフは教育的に指導してから言ってください!」

「……味方にバフ掛けるとかやることはいろいろあるでしょう。それからお前、エーリーン以外にグヤの加護はないのですか?」

「えー……? 祝福ならいただいてますけど」

「だったらボサッと見てないでデバフ飛ばすなりノッポの剣に再生阻害の魔法を乗せるなり直接ドレイン攻撃するなりするがいいです」

「はあ……」

「こんなの一例にすぎませんからね。たった5人のパーティーでも取れる戦術はいくらでもあります」

「「「なるほどー」」」


 この程度で感心されても困るのですけど……。今後が思いやられます。ボクは隊長をいたわってポンポン肩を叩きました。

「いやー苦労してますね隊長」

「まあ、うちに来るのはこういうのばかりだからな」

 と肩をすくめます。

「この前までいた二人も最初は同レベルだったけどな。最後にはちゃんとできるようになってたから。お前たちもきっとできるから頑張ろうな!」

「「「隊長……」」」

 引率の先生を見つめる子供たちの目は輝いています。


「それでは明日は鐘一つにギルドに集合、各員の習熟度の見直しをして仕事は昼からにしよう。では今日はここまで。──君、今夜どう?」

 隊長がまたウェイトレスを捕まえています。これが嫌で前回の酒場を避けましたのに! ウェイトレスは「隊長さんなら10枚でいいよ」と言って、笑いながらノッポの肩に手をかけました。

「こっちの子ならタダでいいけど」

 肩を撫でられたノッポは硬直してしまっています。おっぱいがついてたら何でもいいのでしょうか。

「ヴァンよ、悪いけどちょーっとあっち行っててくれるか?」

 渋い顔の隊長に追い払われてノッポは慌てて酒場から逃げ出しました。こいつは剣術以外の経験値も稼いだ方が良さそうです。

「あら残念」

「よし、解散」

「「「……」」」

 ウェイトレスはやはり笑いながら隊長の手を引いて二階に行ってしまいました。ボクたちはまたも無言で撤退しました。

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