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2.7 是非一手のご指南を

 朝晩は冷え込むようになってきて草の上に朝露が降りています。日中は結構上がりますけどね。太陽が高くなるにつれてその草むらからゆらめく白いかげろうが立ち昇ってゆきます。畑には日の出から起き出したコビットや人間の農家たちが忙しく立ち働いています。牧場では馬や羊が草をモシャモシャ食べています。名前も知らない草虫が秋の声を上げています。

 ここは本当にのどかな田舎道です。ボクも今まで何度も往復していますけどゴブリンもオークも見たことがありません。護衛なんて本当に必要なのでしょうか。


 ……と思ってたら案の定何事もなくお昼になりました。道中のお茶屋さんで昼食がてら休憩します。御者のおっさんや荷運びの若者と一緒にテーブルを囲んでそばがきにトマトソースをかけたものを食べました。うーん、ニンニクと塩がキツイです。ボクは食べたフリして栗毛とノッポさんのお皿の中にコッソリ押し付けました。


「いつもこんな小さな依頼を受けているのですか?」

 食事しながら隊長に聞いてみました。もしこんな仕事しかないパーティーだったら早めに辞めさせてもらいます。

「もっと大きな仕事を受けることもあるぞ。他のフリーの冒険者と組んだりクランに呼ばれたりしてな」

 この黒山羊隊はたまにはゴブリン退治をすることもあるみたいですけど、大抵の仕事は護衛だそうです。


「クランと組んで隊商の護衛に混ぜてもらうことが多いな。そのうちスズナーンやメルオートに行くこともあるだろう。……そういうところに行くと別の依頼もあるぞ?俺みたいにカッコ良くキメてるとだな、富裕層のご婦人から直接指名されるんだ。女性グループの街歩きや野遊びの護衛のな」

「隊長、オレはああいうのはいけねぇよ」

 隊長がニヤリと笑うとノッポさんが面白くなさそうな声で言いました。すると隊長は呆れた顔でノッポさんの肩をゆすりました。

「お前なぁ……。もっと不真面目な性格だったらいくらでも面白おかしく暮らせるだろうにな。変なとこ真面目なんだよ」

「面白くねぇのは生まれつきっすよ。ほっといて欲しいっす」

「私もああいうの嫌い。威張ってて嫌な感じ」

「お前はまあ、その顔だからな。やっかまれてもしょうがない。すまんが我慢してくれ」

「ブーブー」

 ボクなんかどうなるのでしょうね?



 ごはんを食べ終わったところでノッポさんが「なあなあ、あんた強いんだろ? ちょっと相手してくれよ」とせがんできました。

「決闘ですか? だったら帰ってから受けてあげますよ」

「そういうのじゃなくて稽古だよ。練習試合な」

 それってギルドの規約的にどうなのでしょうね? 食後の一服をつけている隊長に「いいのですか?」と聞いてみました。

「もちろんオーケーだ。訓練なら普通にやるだろ」


 というわけでお店の横の原っぱに移動して食後の運動です。

「さすがにデカいのが強いだろ」

「いやエルフだね」

 のんびり観戦の構えの御者と荷役がどっちが勝つか賭けています。荷役の銀貨は残念ながら御者のものになりそうです。


 ノッポさんは馬車に積まれていた棒切れを手に取りました。装備品の長剣と同じくらいの長さです。うーん、ひどい構え方です。ボクは素手でノッポと向かい合いました。

「いくらなんでも素手の相手は……」

「能書き垂れてないでとっととかかってくるがいいです。こないならこっちから行きますよ!」

 言いながらわざと目にも留まる速さのダッシュで間合いを詰めると釣られたノッポはとっさに振りかぶった棒切れを何のひねりもなく振り下ろしてきました。動きが見え見えです。ボクは棒切れをかわしざますっと懐に潜り込んで腕を取って、振りの勢いそのままにクルッとひっくり返してやりました。

「グエッ」

 ノッポは打ち付けた背中に手を当てて呻いていましたけど、すぐに四つん這いになって起き上がって再び棒切れを構えました。

「も、もう一回!」


 再び対峙すると今度はノッポの方から動きました。

「キエエエッ!」

 気合も鋭くというか気合いだけは鋭く真っ直ぐ突き込んできましたけれども太刀筋はまったく鋭くありません。ボクは半身の入り身でかわして腕をつかんで引っ張りながら足を引っかけて転ばせました。

「オワッ」

 前のめりにつんのめったノッポは棒切れを投げ出して逆らわずに転びました。今度は受け身を取れてます。


「もう一回!」

 今度はさすがに警戒しています。ジリジリと距離を詰めたノッポは次第に棒の先を背中側に隠すように振りかぶり、間合いに入ると同時に力いっぱい振り払いました。

「セヤァッ!」

 いやバット振ってるのではないのですからもうちょっと意図を隠しましょうよ。ボクは横薙ぎの棒の動きに合わせて横をすり抜けて後ろに回って膝カックン、同時に襟首をつかんでコロンと寝かせました。

「ウオッ」


 観客たちが「おー……」と感嘆の声を上げて拍手してきましたので手を振ってこたえます。

「ご声援ありがとでーす」


「もう一回! もう一回頼む!」

 ノッポは食い下がってきましたけど残念ながら隊長が止めに入りました。

「その辺でやめておけ。まだ任務の途中なんだ。動けなくなると困る」

「チクショー……」

 ノッポはしぶしぶ引き下がりました。これだけの力の差を見せつけられてまだやる気とは根性だけはあります。腕がついてこないのが悲しいところですけど。

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