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2.3 魔境のリンス

 翌日のことです。呼び出されてギルドに行くとロビーにクランリーダーと知らない男がいました。

 多分冒険者なのでしょうけど見たことのない顔です。年の頃は三十歳ちょっと手前くらいでしょうか。この世界の人間にしては長身でボクよりも背が高いです。髪の色も人間には珍しいグレーで瞳も澄んだグレー、そのグレーの髪を綺麗に撫でつけています。整髪料なんてあったのですね。おまけに髭もカッコよくカットしています。また襟元から覗く真っ白なシャツと、その真ん中で自己主張するアスコットタイみたいなスカーフが目を引きます。深いネイビーの戦闘服はシュッと引き締まった体形に添っています。折り目がキッチリしてて、ボタンの数が多くて、パリッと糊のきいたオシャレ戦闘服です。ギルドに入った日にもらったお仕着せの戦闘服と違って明らかに仕立てたものです。乗馬靴みたいな縫い目のない黒いブーツにその戦闘服のパンツの裾を綺麗に突っ込んでいます。冒険者ではちょっと見たことがないタイプですね。


「リンス、来たか」

 その男の目線でクランリーダーはボクに気づいて振り返りました。

「グラッド、こいつがエルフのリンスだ。リンス、こちらは独立パーティー『黒山羊の盾』──通称黒山羊隊のリーダー、グラッドだ。実はお前に新天地を紹介してやろうと思ってな」


 ……あっ、これ『追放イベント』です。いきなりすぎてビックリしました。そういうのはあらかじめ匂わせといてほしいですね!


「『お前はクビだ!』……ってコトですか?」

「いやそういうわけじゃなくてな。うん、お前にはうちのクランは小さすぎる」

 リーダーは一人でうんうんうなずいてますけど、どう考えても追い出そうとしてますよね。昨日のゲームのせいでしょうか? 人類には貴種の遊びは難しかったみたいです。


「また新人か?」

 そのイケオジは肩をすくめて言いました。

「勘弁してくれよ、うちは託児所じゃないんだ」

「そう言わずに頼むよ。うちじゃもう手に負えないんだ」

 本人を目の前にいい度胸ですねこいつら。

「それに新人って言っても強さは折紙付きだ。イーデーズじゃ間違いなく最強だろうさ。頼む、この通りだ! 前から欲しがってた回復役も一緒につけるからさ」

「……そうまで言われたんじゃ仕方ないな。わかった、引き受けるよ」

「ありがとう、助かる」

「ボクはまだいいとも悪いとも言ってませんけど」

「そう言わずに頼むよ。うちじゃもう手に負えないんだ」

「そんな拝まれても」

「俺はお前の強さだけは認めてるんだ。でもどう考えてもクランの中で発揮できる力じゃない。はっきり言えば組織の中では持て余してしまう。頼む、この通りだ! お前の知ってるやつも一緒につけるからさ」

「それって誰のことです?」

「それはな──」


「すいませーん、遅れましたー」


 入り口から声を上げてパタパタと小走りでやってきたのは栗毛でした。

「──あれだ。おう、ようやく来たな」

 リーダーは今度は栗毛を紹介しました。

「こいつがヒーラーだ。名前はナナ」

「あっはい、"白衣のナナ"です。よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げた栗毛をイケオジはジロジロ見て、何やら納得した様子でうなずきました。

「大体わかった。ここ半年ほど妙に怪我人が多かったのはこいつのせいか」

「そういうことだ。すまんが頼む」

「わかった。うちで引き受けるよ」


 そしてリーダーは何故か諭すような調子で言いました。

「──と言うわけなんだ、リンス。わかってくれるな?」

「……何一つわかりませんけどいいでしょう。ひとつ貸しにしておきますよ」

「恩に着る」

 フン、ボクみたいな有能エルフを追放して後がどうなっても知りませんよ? 困ってももう助けてあげませんからね!

 いえ追放されるというのは性に合いません、こちらがあちらを追放するのです。『人工芝だし物販もできないので移転します。今更戻ってこいと言われてももう遅い!』です。バイバイクラン、せいぜい黒字予想でも立ててるといいです!


 まあこれ以上このクランにいてもたいした仕事はもらえそうにないですし。少人数パーティーの方がいろんなところに行けて面白いかもしれません。なんとなく住み着いちゃってますけど他の町も見てみたいですしね。




 リーダーはほっとした顔で立ち去りました。そしてそのイケオジは改めて名乗りました。

「俺は黒山羊隊の"隊長グラッド"だ。よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

「ボクはリンスです。よろしくでーす」

「ああ知ってるぞ。有名人だからな。ところでお前、通称は?」

「リンスですけど」

「名前は知ってる。そうじゃなくて二つ名の方だ。ないのか?」

 あだ名ですか……そういえばみんな名前の頭に装飾がついてましたね。鬼出勤とか赤毛とか。何故でしょう?

「それはだな──」


 隊長が説明することにはなんでも人間は人口に比べて名前のバリエーションが少なくてしょっちゅうかぶるそうなのです。例えばナナとノンナは発音がちょっと違うだけの同じ名前なのだとか。なので『栗毛のナナ』『犬耳のノンナ』みたいに修飾をつけて区別するのだそうです。「ナナ? ノンナ? どっち?」「犬耳の方」という感じで。


「ここだとエルフのリンスで通ってますしそれでいいような気がしますけど」

「たまたま今この辺りにいるエルフがお前だけなのであって、他の町に移動したらエルフは普通に住んでるぞ」

 そこで栗毛が横から「ラーナさんたちは"畜生エルフ"って呼んでました」などと言ってきましたので拳の硬いところで頭を挟み込んでぐりぐりしました。

「あいつら後でおしおきですね」

「痛いぃ! なんで私までぇぇ!?」

 まったく、弱っちい人間たちが壊れてしまわないようにこんなにも気を遣って優しく取り扱っているというのに、畜生呼ばわりされるのは腑に落ちません。


 ちょっと考えてストレートなところに決めました。ひねりはないですけどピッタリだと思います。

「それでは"オーマ"と」

 ボクにとってはただの出身地ですけれども人間の耳にはきっと違う意味を持って響くことでしょう。

「"魔境のリンス"と名乗ることにします」

隊長「ところでこの話の略称の方はどうなってるんだ?」

アホ「そんなの決まってます。『チートカワイイエルフの異世界ナントカ』略してちーかわです」

隊長「おいやめろ馬鹿」

栗毛「この話題は早くも終了ですね!」

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