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2.2 ゴブリン祀り

 いつもにぎやかな屋台の並びが今日はことさらに騒がしく、人波は右に行っているのやら左に行っているのやら、今日のために特別にあつらえられた色とりどりの晴れ着が無秩序な流れを作ってうごめいています。

 ポン、ポンと頭の上で花火が開きます。いえこの世界って火薬が発明されてないので花火なんてないのですけど、ちょっと寂しかったので勝手に花火っぽい映像を魔法で作りました。音はサービスです。


 ボクはギルドの横手の広場で今日のために考えたゲームを開催していました。

 町の人たちが的に向かって投げ矢(要するに大きいダーツです)を投げています。

「えいっ」

「ヒギィッ!」

「当たれっ!」

「ギャアアアッ!」

 ダーツが当たるたびに的は激しくビートを刻みます。


「やった! 右の目ん玉いただき!」

「だったらこっちは左目だ!」

「アハハ、金玉に当たっちゃった!」

「ギエエエエエッ!」

 音の出所はボクが考えたゲーム『ゴブ・DE・ダーツ』です。ギルドの横手の広い所で、ギルド側の壁際に柱を立てて、五メートルほど離れたこちら側に白線を引いています。柱には森から捕まえて来たゴブリンが縛り付けてあって、白線の手前からダーツを投げつけるのです。投げ矢三本で銅貨十枚、仕留めたお客には記念品を贈呈しています。

 単なる的当てゲームというだけではなく、市民たちはひと時冒険者気分に浸ってにっくきゴブリンを退治できるというわけです。我ながらいい思い付きでした。町の人たちは初めて見るゲームに夢中で、列を作って待ちながら興奮した様子で語り合っています。


「くらえっ!」

 若い男がダーツを投げつけました。ヒュンと風を切って飛んだダーツはゴブリンの左の胸に命中しました。少し前のダーツで肺に穴が開いてカヒュー、カヒューと苦し気な息を漏らしていたゴブリンでしたが、心臓への直撃を受けてガクッとうなだれました。もうピクリとも動きません。

 死んじゃいました。

「おめでとうございまーす! こちらのトロフィーをプレゼントでーす!」

「ヒャッホー!」

 ガッツポーズでトロフィーを取りに来た男に万雷の拍手が降り注ぎます。


 ゴブリンは死んじゃいましたけど予備はいっぱいあるので心配ありません。死体をアイテムボックスに収納して、檻の中で震える次のゴブリンと交換します。

「こいつにするか」

「オラッ、出てこい!」

「ヤアッ! ヤアアアアッ!」

 助手の冒険者たちに檻から引きずり出されて激しく泣きわめくゴブリンを見て順番待ちのお客たちはゲラゲラ笑っています。ゴブリンを柱に縛り付けると次の番のお客たちが腕まくりをして狙いを定めました。

「じゃあ次は俺の番だ!」

「よーしパパおめめに当てちゃうぞー」

「頑張ってー!」

「ギャアアアアアッ!!」


 順調に盛り上がってますね。お祭りに花を添えることができたみたいでほっとしました。お、人ごみをかき分けてクランリーダーがやってきましたよ。お褒めの言葉をいただけるのでしょうか……と思いましたのに、リーダーは顔を真っ赤にゆがめてズカズカと足音も荒く近づいてきます。なんだか怒っているみたいです……?


「何をやってるんだお前は!」


 大声で怒鳴りつけられました。何故でしょう?

「『ゴブ・DE・ダーツ』です。喜んでもらえたみたいで良かったです」

「バカかお前は! 子供がゴブリンは危険なものではないと勘違いしたらどうする! それにだな──」

 そこでクランリーダーは耳に顔を寄せて小声で「人間で真似するバカが出たらどうする」なんて言うものですから正直ドン引きしました。

「え……同族相手にこんなことするのですか? 人間って野蛮ですね……」

「確かに野蛮だがお前に言われたくないわ! とにかくやめろ!」


 うーん、ゴブ・DE・ダーツはダメですか……。

「では『ゴブリン危機一髪』はどうでしょう」

 ボクはアイテムボックスから樽を取り出しました。樽は一メートルくらいの大きさで剣がちょうど入る幅の細長い穴をいくつも開けてあります。

「……どういう遊びだ?」

「樽の中に入れたゴブリンに順番に剣を刺して行って、殺してしまった人の負けというゲームです」

「同じだ馬鹿者!」


 しょうがないですねぇ……。

 ボクは少し離れて、闘技場の近くに魔法で直径二メートルほどのプールを作って中を謎の液体で満たしました。元の場所に戻って、檻から引き出した別のゴブリンの両手両足を縛りあげて薪を背負わせます。


「はい皆さん注もーく! このゴブリン君に『カチカチ山チャレンジ』、やってもらいまーす!」


 言いながら魔法でたきぎに着火します。

「ギョッ、ギョエエエエエッ!」

 背中で火が燃えだしたのを感じてゴブリンは激しく暴れ出しました。頃合いを見て足を縛り付けたロープを解くと水を求めたゴブリンは悲鳴を上げて走り出し、ドタドタとブサイクな足取りでプールへ飛び込みました──。


 残念! ガソリンでした!


 轟音と共に大爆発が起こりました。結構気化してたみたいで一瞬火柱が十メートルも高くまで燃え上がりました。「オワァ!」近くにいたオッサンがびっくりしてマヌケな悲鳴を上げてます。

 熱か衝撃か酸欠か、いずれが致命傷になったのかはわかりませんけど、ともかく倒れたゴブリンが揺らめく炎の中で焼け落ちてゆきます。

「ギャハハハハハ!」

「ヒーッヒッヒッヒ!」

「燃えてるよゴブリン!」

「マジ受けるんですけど!」

 町の人たちも冒険者たちも大爆笑で腹を抱えて転げまわってます。人間にはナフサなんて合成できないでしょうし、これなら真似できなくて安心ですね。


 クランリーダーがまた人波をかき分けやってきていきなりボクの胸倉をつかみ上げました。失礼なリーダーですね!

「何をやってるんだお前は!」

「キャンプファイヤーです。この手のイベントにはつきものでしょう?」

「あれの! どこが! キャンプファイヤーだ! これはキャンプじゃないし櫓も組んでないし中でゴブリンが燃えてるキャンプファイヤーがあるかぁ!」

「ではウィッカーマンですね」

「何が『では』だ何が! 案の定今考えた屁理屈なんじゃないか!」

「みんな喜んでたじゃないですか」

「受けたら何をやってもいいとでも思ってるのか! これ以上冒険者のイメージを悪くするなこのバカタレがぁっ!」

「バカって言った方がアホなんでーす」

「ふざけるなアアアッ!」


 この後何故かめちゃくちゃに怒られました。ゴブリンが爆死したって面白いだけで何の害もないじゃないですか。わけがわかりませんよもう……。

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