2.1 お仕事ください
「お久しぶりでーす! お前たちのボクが帰ってきましたよー!」
久々に冒険者ギルドに顔を出しました。でも受付のオッサンは「そう、関係ないね」という顔してましたしクランリーダーには「冒険者は辞めたかと思ったよ」などと嫌味を言われてしまいました。
「まあそう言わないでください。自分でもちょーっと脱線したかなーって思ってます」
大体50話(+35話)分くらい寄り道してしまいました。この町に来てからというもの商売をしていた期間の方がずいぶんと長いのです。それにボコスカウォーズだかケルナグールだか知りませんけどなんだか遠回りした感じがしますし。でもこれからは本道に立ち返って、冒険者としての働きをまっとうしますよ!
「さあさあお仕事をよこすがいいです! ドラゴンでも魔王でもぶっ殺してやりますよ!」
「この辺にそんなのいたら人が住んでないよ」
「チッ、しけた田舎です」
「いや田舎だからゴブリンなんかもいるんであって都会にはそんなのいないからな?」
まあそれはそうなのでしょうけど……。もしかして冒険しても面白いことないのでしょうかこの世界。
「大体ずっと休んでたのに連絡なしに来られてもすぐに組める相手がいるわけないだろうが。報連相は大切にしろよな」
ブツブツ言いながら依頼を漁ってくれてます。
「隊商の護衛は出発してしまったし……警備なあ……こいつにできると思えんし……」
「そんなのやってみないとわからないでしょう」
勝手にダメ出しされてるのが聞こえたもので思わず物言いをつけてしまいました。エルフは耳がいいのです。するとクランリーダーはため息をついて書類を投げ出しました。
「……例えばハテノの警備の仕事があるが、お前にできるのか?」
「何ですかそれ。あそこなら何度も行きましたけど、いつ行っても門番なんて見たことがありませんよ」
「砦の見張り台からずっと森を見張ってるんだよ。冒険者が常駐してな。あそこは塩を求めてゴブリンやらオークやらがちょくちょく来るからな。お前にできるか?」
「フッ、見くびらないでください。ゴブリンごときこっちから出向いて殲滅してみせます。攻め込まれるのを待つのはボクの流儀じゃありません」
「だから! そういうのは別の依頼なんだ! 警備と言われたら砦にこもってずっと見張ってるものなんだ! お前にそれができるのか!?」
「フッ、買いかぶらないでください。ボクが一か所にじっとしていられるはずがないじゃないですか」
「ほら見ろ、やっぱりできないんじゃないか。今ある依頼はそういうのがほとんどだ。街道整備の工事現場の警備兼交通整理とかな」
「えー、もうちょっと派手なのないのですか? ゴブリン退治とか」
「そういうのはベテラン勢が朝イチで取っていっちまったよ。こんな時間に来たって残ってるはずないだろうが」
「ではまた明日来ます。それでは今日はさようなら」
「いや帰るなよ。新人の頃から仕事をえり好みするなよな。……そうだな、これなんかどうだ? 農家の住み込みの仕事だ。農作業を手伝いながら畑や家畜を襲う動物から警備するんだ。人気の仕事だぞ」
「ミラは農家が嫌で飛び出してきたって言ってましたけど本当に人気なのですか?」
「そういうクチは嫌がるな。しかし食事も寝床も提供してもらえるからな。食いっぱぐれがないのはデカイぞ。そのまま婿入り嫁入りも珍しくないしな。手軽に市民権がもらえて冒険者もめでたく上がりってわけだ。……おっ、ちょうど女性冒険者限定の依頼があるぞ。露骨に嫁探しだな。どうだ? お前なら一発だと思うぞ」
「嫌ですよ!」
ボクは男ですしエルフは結婚なんてしないのです!
「うーん……」
腕組みして考え込んでしまったクランリーダーでしたけど唐突に何やら思いついたようで「そうだ、あれがあった」と目の前で手を叩きました。
「あれとは?」
「近々秋の収穫祭があるんだ。その時は目の前の屋台も大にぎわいでな、実は冒険者ギルドも出し物をやることになってる。ギルドを代表して毎年うちのクランが請け負ってるんだが、今年はお前やれ」
「警備のお仕事じゃないのですか?」
「お前に警備が出来るとは思えん。お前評判のいい屋台やってただろ? 何か食べ物の出店でも出してくれ」
──と言われても食べ物は当然屋台で出すでしょうし、あっちの商売の邪魔をするのもどうかと思うのですよねぇ……。
参考にするために例年は何をやっているのかミラに聞いてみることにしました。
「毎年違うよ。去年はパンチオンリーの拳闘トーナメントだったし。おととしは身の軽い冒険者たちで曲芸やったし。その時は私も出たよー。その前はいなかったからよく知らないけど、ナイフ投げの的当てゲームだったらしいよ」
「へー」
「ちなみに森の妖精亭はジャガイモの屋台を出すつもりだよ! 夏のジャガイモ祭は乗り損ねたしね。というわけで何かいい料理ない? 簡単にできて目新しいやつ」
「えー……」
聞きに来たのに聞かれてしまいました。
「しょうがないですねえ……フライドポテトなんかどうでしょうか? お祭りで食べ歩くのにちょうどいいと思います」
「なにそれ」
「そのままですよ。ジャガイモを揚げる料理です」
というわけで実際に作って見せたらビビリのミラは腰が引けてました。
「え、こんなに油使うの? もったいなくない?」
「お祭りですしたまにはいいでしょう」
祝・100話!!!