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古びた博物館とアーミラリ天球儀(中)

アーミラリ天球儀は、星たちの動きを見ることで今生きている世界線とは別のパラレル世界を調べられる。


世界線、少年にはそれが何だかよく分からなかったが、パラレル世界というのはなんとなく分かった。


パラレルワールド。


並行世界。


可能性が分岐した先。


あったかもしれない可能性。


あり得たかもしれない未来。


それは、少年の心を惹きつける響きがあった。




少年は立て付けの悪い窓を開けた。


ギイギイと耳障りな音がしたが、これまでにも何度も開け閉めしたからか最初に比べてだいぶマシになった。


窓の外は黄昏時も近付き、段々と夜の気配も感じられる。


よく探せば、うっすらと一番星が輝き始めていた。


少年は辺りを見渡して、窓の外にこちらを見ている人がいないかを確認する。


この博物館は閑静な住宅地からさらに進んだ先にある。


だから滅多なことでは誰も来ない。


それでも、念の為といった様子。


窓の外には雑草だらけの敷地と、林と、色の変わり始めた空しかない。


さらに後ろを振り返って、老人が近くにいないかも確認した。


大丈夫、そう小さく呟いて、少年は展示ケースのガラスをずらして、アーミラリ天球儀をそっと取り出す。


その手口は慣れたもので、これまでにも何度も繰り返してきたことが窺えた。


まるで宝物を取り扱うように丁寧に、壊さないように傷付けないように優しく。


少年は開け放ったままの窓辺に天球儀を丁寧に置くと、そのまま静かに見守った。


その顔にはワクワクが抑えきれないといった表情が浮かんでおり、これから起こる事への期待があった。


待つ事数分。


一番星の輝きがはっきりとし、他の小さな星々もうっすらと顔をのぞかせ始めた。


すると…


ただ光を反射するだけだったアーミラリ天球儀が、まるで空の星々のように優しく輝き始めた。


そして何も手を加えていないにも関わらず、天球儀が勝手に動き出し、少年の目の前の空間にうっすらと像を映し出す。


像は段々とはっきりしたものとなり、それはまるで立体映像のように、人や物を映し始める。




映像は数秒から数分ほど流れては、別の映像へと切り替わる。


映し出される映像には、必ず少年がいた。


映像の中の少年は、色んな人と一緒にいて、様々な表情を浮かべていた。


どこか見知らぬ場所で、見知らぬ男の人に怒られて泣く少年がいた。


見覚えのない建物の中で、見知らぬ女の人に抱きしめられて照れた様子を見せる少年がいた。


老婆に頭を撫でられて嬉しそうに笑う少年がいた。


自身よりも小さな女の子と手を繋いで歩いている少年がいた。


小さな男の子をおんぶしている少年がいた。


あり得たかもしれない未来で、少年はいつも誰かと一緒にいた。

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