屍者の軍勢
この度、当サイトで投稿を始めることに致しました。飯島と申します。
今作は、同時並行で書き進めている作品の試し書き、いわゆるパイロット版として書いたものです。
完成版を作るにあたり、良点や改善点を洗い出す目的もありますので、感想を頂ければ幸いです。
ご一読のほど、よろしくお願いします。
とある異世界の大陸、ティマオス大陸。
四つの王国に分かれたこの大陸には、魔法が溢れ、そして人語を解する魔物『聖獣』が、人々と共に暮らしていた。
しかし、平穏なティマオスを突如として脅かす脅威が現れる。
魔王軍と名乗るその勢力は徐々に侵攻し、ティマオスを混沌の時代へとたたき落とした。
人々は祈った。奪われた平穏が取り返されることを。
人々は願った。この危機を救う勇者の出現を。
そしてある日、魔法の国リュコスは勇者の召喚に成功する。
これは、異世界に召喚された5人の勇者達の物語である。
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空気を切り裂くような悲鳴が、村中に溢れていた。
あちこちから上がる黒煙。逃げ惑う村人たち。
子供は泣き叫び、兵士たちは武器を手に取り怒号と共に走り出す。
振り下ろされる剣、風を貫き飛ぶ矢。
しかし、兵士達の懸命な攻撃をものともせず、命なき者達は剣を振り下ろした。
「や、やめろっ!やめ……来るなぁぁぁっ!」
村を守る兵士たちですら悲鳴を上げ、一人、また一人と死んでいく。
その光景はまさに、阿鼻叫喚の地獄絵図であった。
大挙して村に押し寄せているのは、生ける屍の軍勢。
腐乱した肉体で動き回るゾンビや、骨だけの身体となったスケルトン。五体のいずれかが欠損した死者の兵士らが、生者を貪ろうと歩き回っている。
「た、太陽がまだ落ちてもいないのに……」
「魔王軍のゾンビどもには、昼も夜も変わらねぇのかよ!」
「クソっ!死霊払いの武器が役に立たないぞ!」
「鎧だ!あの鎧に弾かれるんだ!」
「あんな鎧を纏ったゾンビやスケルトンなんて、聞いたことがないぞ!」
家屋だけではない。既存の常識すら破壊しながら迫る脅威に、人々はただ怯えるしかない。
「誰か!誰か、うちの坊やを見ませんでしたか!」
「お父さん!お父さん!誰か、お父さんを助けて!!」
「村長が森を焼かなければ、こんな事にはならなかったんだ!」
息子とはぐれ、街をさまよう母親。
崩れた家屋の下敷きになった父親を前に、助けを求める少女。
この惨状を引き起こした原因へと、怒りを募らせる者。
人々の心を絶望が覆いつくそうとした、まさにその時だった。
「クリムゾン・フレアーッ!」
空の彼方から生ける屍の軍勢へと、紅蓮の炎が降り注いだ。
屍たちは肉片も、その骨の一欠片さえも残さず焼き尽くされ、塵に還る。
「な、なんだ!?」
「今のはいったい……!?」
突然の出来事に、人々は思わず空を見上げる。
すると、太陽を背に大きな影が舞い降りた。
真っ赤なドラゴンが、村の門の前へと舞い降りる。
村で一番大きな穀倉や、教会の聖堂よりも更に大きな体躯は、翼を大きく羽ばたかせながら村の前に着陸した。
しかし、それだけではなかった。
人々を更に驚かせたのは、ドラゴンの隣に4体の巨獣が降り立った事だった。
緑色の不死鳥。青いユニコーン。白い海蛇。黄色い猛牛。
そしてそれらが一瞬にして光の中に消えると、6つの人影が並び立っているのが見えた。
「そこまでだ、魔王軍!!」
雄々しい叫びが響き渡った。
弓を構えたスケルトンも、槍を突き出そうとしていたゾンビも、その場にいる全てが彼らに目を向けた。
「「「「「天声転身!!」」」」」
五人の腕から、五色の光が迸る。
眩い光に包まれ、影は形を変えていく。
やがて光が収まると、そこにはそれぞれ五色の鎧に身を包んだ、五人の戦士が立っていた。
「赤の勇者!ドランレッド!」
「緑の勇者!フェニッグリーン」
「青の勇者!ユニブルー!」
「白の勇者!リヴァイホワイト!」
「黄の勇者!タウラスイエロー!」
中心に立つ赤い鎧の青年に続くように、五色の勇者らはそれぞれ名乗りを上げる。
そして最後の一人が名乗り終えると、レッドは掌を突き出した。
「世界を照らす5つの光!」
『勇者戦隊!テンセイジャー!』
突然現れたカラフルな五人組に、生ける屍は困惑しているのか、首を傾げている。
「今よ!さっさと倒しなさい!」
「っしゃあ、行くぜ!」
と、1人だけ鎧を身につけていない6人目の少女が叫んだ直後、五人はそれぞれ走り出した。
そこでようやく、彼らが敵だと認識した屍たちは、それぞれの武器を構え直す。
しかし、呆気に取られていた間の一拍は、勇者たちに大きなアドバンテージを与えていた。
「どりゃあッ!」
竜を模した赤い鎧の勇者が、勢いよく炎拳を突き出す。
炎拳はスケルトンの頭骨を一撃で粉砕し、スケルトンは崩れ落ちた。
続けて繰り出す拳でもう一体の頭骨を砕き、背後から襲いかかる三体目の攻撃を躱すと、燃える脚で回し蹴りを叩き込む。
「おっ、ちょうど良さそうな剣見っけ!」
ちょうど足元に、スケルトンが落とした剣を見つけると、レッドは前転しながらそれを掴み、正面に構えた。
「グレン、この剣使えるか?」
『そこらの安物よりは、使えそうだ。10体は斬れるだろう』
左腕に輝く赤い宝玉が嵌められたバングルに、レッドは語りかける。
宝玉は点滅しながら、老成した印象を受ける男の声を返していた。
「10体か~。まあいっか、まずは10体!」
そう言うとレッドは、剣に力を流し込む。
すると装飾一つない無骨な剣は、竜の頭部を象った赤い両刃剣へと形を変える。
「猛れ!竜聖剣!」
剣の銘を叫ぶと、レッドは向かってきていたゾンビへと斬り掛かる。
一振りでゾンビの肉体は真っ二つに切り裂かれ、切り口から吹き上がった炎に焼き尽くされた。
「フッ!ハッ!」
一方、同じ頃の村の中。
ユニコーンを模した青き勇者の華麗な蹴りが、ゾンビの肉体を貫いていた。
踊るように華麗な動きでゾンビの攻撃を躱しながら、的確に足技を叩き込んでいく。
彼の足がゾンビに命中する瞬間、その踵から発生した氷柱が、腐肉を貫き砕いていた。
「もう大丈夫だよ、お嬢さん」
「あ、ありがとうございます!」
周辺にいたゾンビを片付けると、ブルーはキザったらしい態度で女性に手を差し伸べる。
「ここは危険だ。早く逃げるといい」
「で、でもうちの子がまだ……」
「あ!お母さん!」
「え?あ、居た!」
と、そこへ一人の男の子を連れた人物がやってくる。
その人物もまた、猛牛を模した黄色い鎧に身を包む、勇者の一人であった。
「お母さん!」
「ああ、無事だったのね!勇者様、ありがとうございます!」
「いえ、俺は何も……」
「チッ……先越されたか」
母親は息子を抱き上げると、黄の勇者に頭を下げる。
その様子を、青の勇者は不服そうに見つめていた。
しかし、村の大通りを埋めつくしていた生ける屍は、まだまだ勢いを衰えさせることなく迫ってきていた。
「早く逃げるんだ!」
「勇者様!この村を、お願いします!」
息子と共に逃げ去っていく母親を背に、ブルーとイエローは並び立った。
「あーあ、野郎と並んで戦うとか、マジダッルぅ~。気分下がるわ~」
「そ、そんな事言わないでくださいよぉ……」
気弱そうな声で返すイエローを一瞥すると、ブルーは先程倒したゾンビが持っていた槍を拾い上げる。
「この鬱憤、お前らで発散してやんよッ!」
『ソウマ、怒りで我を忘れたりするなよ?』
「分ぁってるって。お前こそ、力加減間違えんなよッ!」
左腕に輝く青い宝玉が煌めき、握った槍が形を変える。
ユニコーンの頭と角を模した長槍を構え、ブルーは生ける屍の軍勢に突進した。
一方、イエローは出遅れてあたふたしていた。
『ヨシヒコぉ!俺達も負けていられないぞ!』
「で、でも……ゾンビもガイコツも、やっぱりちょっと怖い……」
『怖がらないで踏み出せば、あいつらくらい屁でもないぞ!ほら、頑張れ!』
「俺、そういうのは苦手なんだってぇ……」
左腕の黄色い宝玉に励まされながらも、どこかオドオドしているイエロー。
そんな彼の背後に、ゾンビがゆっくりと迫ってきていた。
『ヨシヒコ!後ろ後ろ!』
「へ?」
イエローが振り返ると、そこには……。
何体ものゾンビが、イエローに噛み付こうと口を開けていた。
「わああああああああっ!?」
思わず絶叫するイエロー。
反射的に、近くにあった木樽を投げつける。
強化された膂力で放り投げられたそれは、もはや立派な武器である。命中と同時に、ゾンビの身体を軽々と粉砕した。
「……あれ、倒せる?」
『だからお前がビビる必要ないんだって。な?』
「よ、よし!倒せるなら……倒せるゾンビなら、怖くなぁぁぁぁいッ!!」
倒せると気づいて吹っ切れたのか、イエローはそのままゾンビたちに向かって突進していく。
「うぉりゃあああああッ!」
イエローは力任せにぶつかっていき、多くの生ける屍を吹き飛ばしていった。
テンセイジャーと名乗った勇者達はそれぞれ散開し、次々と屍を打ち倒していった。
先程まで自分たちがあれだけ苦労していた死者の軍勢を、颯爽と現れて退治していく。
村人達はその姿に、驚いていた。
「あいつらは、いったい……」
「もしかして、伝説の勇者様なのか!?」
「一応、そういう事になっていますわ」
突然声をかけられた弓兵は、驚いて振り返る。
そこには、緑色の鎧に身を包んだ女性が佇んでいた。
「その弓、貸していただけますでしょうか?」
「え?あっ、はい」
「ありがとうございます」
いつの間に、この櫓に上がってきたのだろう?
兵士は驚きながらも、グリーンに自分の弓矢を渡す。
グリーンはその弓を握ると、自身の身体を包む力を注ぎ込んだ。
その直後、ただの素朴な弓は、不死鳥の翼を模した緑色の大弓へと形を変えた。
『強化魔法を付与されているだけはある。5、6発撃っても壊れなさそうだねぇ』
「このゾンビとガイコツ全部倒すのに、矢は幾つ必要かしら?」
『しっかり狙えば、5発で十分さ!』
左腕のバングルから喋りかけてくる、荒くれた女性の声に応じ、グリーンは弓を引き絞る。
櫓から遠方を見て狙いを定めると、グリーンは矢を手放した。
直後、放たれた矢は無数に分裂し、村へと火矢を放ったスケルトンらへと突き刺さる。
その矢の全てが、屍の頭骨だけを正確に射抜いていた。
頭を破壊された屍は力なく崩れ落ち、塵に還っていく。
グリーンはふぅ、と一息つくと、再び弓に矢をつがえるのだった。
一方、襲われていた人々は、生ける屍らが勇者達に気を取られている間に、慌ててその場を離れていく。
その中に1人、家の前で呆然と座り込んでいる少女がいた。
「ねぇ君、大丈夫?」
「え……?」
少女に手を差し伸べたのは、白い鎧に身を包んだ勇者だった。
「君、立てる?」
「え、あ……」
「……分かった。お父さんは私に任せて」
少女を立たせたホワイトは、彼女が逃げない理由を察すると、そのまま崩れ落ちた家へと歩いていく。
「あなたは……?」
「おじさん、ちょっと待っててね~……せーのっ」
ホワイトは、父親を下敷きにしている天井を軽々と退かすと、父親を抱えて家を出る。
少女の前に父親を下ろすと、ホワイトは父親の足を凝視した。
父親の両足は、崩れ落ちた天井に挟まれた際に、骨が折れてしまったようだ。
「ミーナ、治せそう?」
『死んでなければ余裕で治せる。このくらいなら、すぐにでも』
「じゃあ、よろしく」
ホワイトは患部に触れると、自らに力を与える存在の魔力を流し込む。
すると、痛みを堪えるように悶えていた父親の表情から、見る間に苦痛が消えていくではないか。
「これでよし、と。もう大丈夫」
「あ、足が動く……」
「お父さん!」
驚いている父親に、娘が力いっぱい抱きつく。
父親は迷わず娘を抱き返し、その頭を優しく撫でた。
「歩けますよね?じゃあ、そのまま安全なところまで逃げてください」
「ありがとうございます!」
「お姉ちゃん、ありがとー!」
逃げていく父娘を見送ると、ホワイトは別の家屋へと足を向ける。
戦闘を他の四人に任せ、人命救助を優先する。それが彼女なのだ。
そして、もう一人……。
「ほら、教会はこっちよ!」
村の避難所である教会へと続く道には、逃げ延びてきた村人たちを誘導する巫女の姿があった。
「落ち着いて!先に来ている人を押さないように!」
的確に避難誘導を行いながら、巫女は村の方へと目を向ける。
「頼むわよ。この村も、この国も、アンタ達にかかってるんだから」
巫女はボソッと呟くと、再び避難誘導に戻っていく。
それから一時間もしない内に、村を襲った生ける屍は殲滅された。
民家が15軒ほど焼け落ちてしまったものの、村人に死者はなく、幸いにも被害は最小限に留まっていた。
パイロット版は2万文字超となっております。
分割で投稿致しますので、次回以降も読んでいただければ嬉しいです。