1/1
私立柏高校 全国高校駅伝を目指す
紺色のユニフォームに黄色の襷。チームメイトの姿を認め、歩道から車道に出る。
アスファルトに何重にも張られたビニールテープ上に立ち、大声で名前を呼ぶ。
「ゆうりー!」
興奮する瞬間だ。分かりやすいようその場で軽くジャンプをしながら両手を思いっきり振ってやった。顎が上がっており、チームメイトを探す余裕は残ってなさそうだ。こちらから気付かせてやらないといけない。
目が合った。俺を捉えたようだ。瞳に最後の力が宿った事が分かる。
「腕ふれ!」
その場で大きく腕振りのジェスチャーをしながら声をかけた。足に力が残っていない時は、腕振りを推進力とする事が有効だ。
残り5m。腕ふりを止め、襷を差し出してきた。俺も右手を伸ばす。
一瞬視線を襷に移して受け取り、チームメイトの顔に戻す。再び視線が合う。
「ナイランッ」
「頼むっ」
残りの気力を振り絞って声をかけてきた。エネルギーとなる。
再び視線を外し、今度は走路に向けた。腕時計のストップウォッチをスタートさせる。
高校最後の駅伝。長い長い8㎞がスタートした。