古代兵器と対決
流れ者が行き着く街、サンセット。
エリシアと呼ばれる割とヤバめの魔術師がここに流れ着いてしばらく経っただろうか。
彼女は街の酒場にひょっこり現れてはなんか怪しい儲け話をしてきて協力者を募ってくる。
野朗共はエリシアがガチでやべえ奴だって分かってるから彼女の話なんかまともに聞かない。というか彼女と組んだ奴らは大抵、碌でもない目に遭っているのだ。
ついこの間、彼女と組んで迷いの森とかいう場所に行った男がいるのだが、死にそうになって帰ってきた後、なんか食中毒で病院に通ってるらしい。
さて、そんなある日のこと。
朝から野朗共が酒を飲んでどんちゃん騒ぎしてるところにドアが乱暴に開かれた。
「古代兵器倒しに行く人いませんか〜?」
男たちは「はぁ?」と声を漏らした。
エリシアが掴んだ情報によれば、ある場所に朽ち果てたコロシアムがあって、そこに超やばい古代兵器が徘徊してるらしい。
その古代兵器は体が不思議な鉱物で出来ているらしく、その鉱物の破片とか売ったら多分あり得ねえくらい稼げるとか。
冒険者たちもそう言ったモンスターの話は知っていたが、都市伝説くらいにしか思ってなかったし、そんな明らかにやべえ奴と戦うなんてとんでもない話だった。
「誰が行くかよボケェ!」
命あっての物種だ。いくら名声を求めたって死んだらおしまい。彼らが断るのも当たり前だ。
「はいはい、じゃあご機嫌麗しゅう」
エリシアはそんな野朗共のことは放っといてメンバー探しに励むのだった。
で、テキトーに声かけまくったら一人見つかった。
「おう、やってやろうじゃん!」
彼女はエリシアと同職種の魔法使い、つまりウィッチ。
なんかめっちゃ気強そうで好戦的な感じだったので勧誘したら意気投合した。
ウィッチは火の魔法を得意とするらしいので攻撃力が期待できる。
魔法使い特有の濃い魔力のオーラがその場にいる野郎共を震え上がらせた。きっとあれはタダもんじゃねえ。
「じゃあ早速行こうぜ!」とウィッチがやる気満々だがエリシアは「まだ人手がいる」と言った。
エリシア的には後二人くらい居たらイケそうな感じがするのでメンバー探しを続行することにした。
だがなかなか見つからない。
「ぎしゃぁ……」
一人目はなんか排水溝のドブネズミを食べるのに夢中になっていてダメ。
「すまん、トリュフを売るのに忙しいからまたな」
二人目は自分の商売で忙しくてダメらしい。
それからしばらくしてやっと残りのメンバーが決まった。
「めっちゃ稼げんの? やるやる!」
稼げる話を聞いてすぐに飛びついたのが船乗りの男だ。
「可愛い坊やじゃん」とウィッチが馬鹿にしたように言う。
「俺鍛えてるで!」
船乗りは自慢の上腕二頭筋を見せつけた。彼が言うには毎日重たい網を引き揚げているため、体力がすげえらしい。
そしてもう一人は緑色の粘液が太陽に照らされてキラリと光るジェリーと呼ばれるモンスター。
「うわモンスターだあああ!」
ジェリーを見るなり慌てふためく船乗り。ウィッチが手から火の玉出して臨戦態勢になってる!
「違いますよ! その辺にいたから声かけたら意気投合したんですの」
エリシアがボール状になったジェリーを拾って肩に乗せる。
何か言いたそうな二人だが、そんなエリシアの様子を見てなんか言うのはやめた。
「パーティ結成ですわ!」
「パーティ名どうすんのさ」
ウィッチがぶっきらぼうに問いかけた。
エリシアは「うーん」と眉間に皺を寄せている。どうやら考えていなかったらしい。
ジェリーはエリシアの首にベチャッと張り付いてる。
「じゃあネバネバーズで」
「ぜってえそれ見て決めたよな」
船乗りがツッコミを入れているがエリシアには聞こえていなかった。
さて、作戦会議だ。
古代兵器は四足歩行で、槍のように尖った脚で攻撃してくるらしい。硬くて重量もあって威力がマジでえげつないらしい。
なのでとりあえず四つの脚をいい感じで封じれば、後は四人でボッコボコにタコ殴りすれば勝てるかもしれない。
「俺、ロープ結ぶのめっちゃ得意やぞ!」
その話を聞いた船乗りが手を挙げた。ウィッチもなんか「ええやん」みたいな感じで言ってる。
一行は道具屋に行ってめっちゃ長いロープを何本か買っておいた。
で、それから戦い方を話し合った結果、三人で古代兵器を引きつけてる間に船乗りがロープ回してきて脚を柱とかに縛り付ける感じでやることになった。
ジェリーもなんかやる気ある感じでプルプル震えてる。いい感じだ。
そうと決まれば作戦決行。その日はもう遅かったので翌日の朝集合とした。
ちなみにエリシアは寝る時、ジェリーがひんやりしてて寝心地マジで良かったらしい。
翌日、馬車を手配してコロシアムに近いところまで移動することに。
ところでお互いのことを話してなかったことに気づいたエリシアは雑談を始めた。
「——てなわけであの街にいるのさ」
ウィッチが語った経歴は凄まじいものだった。なんか魔術師同士の決闘に明け暮れたりとかしてて生きるか死ぬかの世界を渡り歩いてるらしい。
「——独立してえんだ!」
船乗りは今は雇われらしいが、将来独立して自分の船を持ちたいらしい。その船の購入資金を稼ぎたくて話に乗ったようだ。
そしてジェリーはジェリーだ。今もこれからもずっとプルプルしてることだろう。今はなんか積荷の干し肉を体内で溶かしてる。
ウィッチは肩とかゴリゴリ言わせて気迫がやばい。
馬車が止まった。着いたらしい。
従者が「帰りは?」と聞いてきたのでエリシアは「テキトーに迎えにきて」と答えた。
もう分からないくらい昔に建てられたコロシアムだ。
そこらじゅう瓦礫とか落ちててすげえ歩きづらい。
なんか蔦とかがそこらじゅうにいっぱい這ってて、廃墟マニアとか喜びそう。
船乗りがすげえ珍しそうにキョロキョロしてる。
「足元見ないと危ないですわよ〜」
エリシアが静かに忠告した。
なんか道中で「その辺の石像とか売れるんじゃね?」みたいなこと船乗りが言ってたが、ウィッチが「どうやって運ぶんだよ」みたいな感じで言い返してた。
ジェリーは落ち葉とか虫とか身体に入れてる。雑食?
一行はとりあえず三階に登って、上から広場を見渡すことにした。
「——あれか」
ウィッチが呟いた。広場の中央に真っ黒な金属か何かの塊が落ちてる。
「うおお……」と船乗りが震えた。
あれが古代兵器だ。広場の中央で所在なさげにガシャーンガシャーンとうるさく蠢き回ってなんかやってる。
古代兵器が歩くたびに土の地面が抉れてボコボコになってる。
一行はとりあえず下に降りて物陰から様子を伺うことにした。
ジェリーはウィッチの三角帽に入ろうとして、地面に投げつけられた。ベチャアみたいな感じになってるがまるで効いてない。
「船乗りさん、ロープの準備を」
袋から出したロープを肩に担ぐ船乗り。
「船停めるのにめっちゃ練習したからいけるはず」
船乗りは一人で意気込んでいる。
ウィッチはいい感じで精神統一が仕上がってる。魔力の影響か、周囲がやたらと熱い。
ジェリーはなんか足元のネズミを絡め取ろうとしてる。
古代兵器はなんか動きを止めてて不気味だ。
「私とウィッチさんで良い感じに攻めますわよ」
「ああ」
二人が身構える。
「こいつは?」と船乗りがジェリーを指差した。
「なんかフォローしてくれると思います」
エリシアがすっげえテキトーに返事する。怪訝な顔をするウィッチだが、まあ気にしてもしょうがない。
とりあえず船乗りは回廊をぐるっと回って広場の反対側で待機することにした。タイミングを伺うつもりだ。
そしてエリシアの合図と共にウィッチと二人で広場に飛び出る!
初手はウィッチ。飛び上がるエリシアの後ろから圧縮火炎を放つ!
着弾と同時に目が眩むような閃光! そして頬を焦がすかのような熱気が!
煙幕が巻き上がる中、エリシアの飛び蹴りが古代兵器のボディを叩く。
めっちゃ硬い音がして効いてるかどうかいまいち分からない。
着地したエリシアは素早く後退し、古代兵器が繰り出す横薙ぎを回避した。
「来ますわよ!」
「わかってるって」
これからヤバいくらい猛反撃が来るに違いない。とりあえず二人は古代兵器に背をむけて走り出した。
案の定、古代兵器がめっちゃガシャガシャ言わせながら追いかけてくる。
ジェリーはもうどこにいるか分からん!
「船乗りさん! そっち誘導しますわよ!」
エリシアが逃げながら叫ぶ。
二人は広場を回り込むように逃げて、反対側に古代兵器を誘導することにした。
それで通過するタイミングで船乗りが上手くロープを引っ掛けることを期待する。
逃げながら攻撃はしない。なぜなら砂塵が舞い上がると敵が見えなくなって船乗りが狙えないからだ。
船乗りはとりあえずロープを構えた。
なんかあの二人、戦闘のプロみたいな感じだし、外したらもう一周してもらおう、みたいな感じで考える。
古代兵器がめっちゃ二人を追いかけ回してる中、船乗りは集中する。
——集中してるけど、なんか動き速すぎだろ。
「あかん、動きが見えん」と船乗りがめっちゃ焦ってる!
なんか古代兵器の脚めっちゃ速い! もうすんげえガションガションしててやばい!
こんなん、狙うとかいうレベルじゃねえ!
「おい! 投げろ!」
ウィッチがめっちゃ叫んでる! もう今投げないと通過してしまう。
船乗りがもうテキトーにロープ投げる。で、当然のように外れた!
「うおお」みたいな感じでなんかうめき声あげる船乗り。
「てんめええ!」
ウィッチがマジで怒ってる!
「ごめんもう一回」みたいな感じで船乗りが謝った。
ジェリーはなんかその辺の壁にへばり付いてる!
古代兵器がとんがった脚でエリシアを踏み潰そうとするが、なんとか横に躱す。その隙にウィッチが火炎放射を浴びせた。
目の前でガヤガヤやってる間にもう一回ロープを手繰り寄せる船乗り。
だがウィッチの火炎放射はまるで効いてない!
「マジかよ!」
火炎の中から古代兵器の脚がウィッチの腹を突き刺そうとする。
「させるもんですか!」
エリシアがなんか“気合い”的なやつをぶつけてウィッチを吹き飛ばす。ウィッチが立っていた場所を古代兵器の脚が「ぶおん」と通過した。
「そこだ!」と船乗りがその脚に向かってロープを投げた!
吹き飛ばされたウィッチが地面を転がる。
ジェリーがなんかウネウネしてる!
振り上げた古代兵器の脚にロープが上手く絡まった!
「今だあああ」
船乗りがなんか叫びながらロープの反対側を瞬時に柱に結びつけた。
「いいぞ!」ウィッチが歓声を上げる。
二人は一旦後退し、古代兵器の様子を伺った。
ロープが掛かったのは後ろ足だろうか。だが前足の二本が今めっちゃヤバいくらい暴れ回ってて近づけない!
なんか無理やり前進しようとしてロープがギチギチ音立ててる。
船乗りが「なんかヤバそうだからもう一本投げるわ!」と叫んだ。
とりあえずもう片方の後ろ足を狙う!
だが何回投げてもロープが掛からない。
「くそっ!」と船乗りがイラつく。
一本目のロープがなんか伸びてる気がする。
そう思ったウィッチが焦り出す。
ジェリーはいつの間にかエリシアの肩に張り付いてた。
「やべえぞロープが! ああもう!」
痺れを切らしたウィッチがなんかめっちゃ火の玉投げ始めた!
火の玉が爆発した振動がやばい! 壁とか瓦礫がパラパラ落ちてくる!
「うお! っぶねぇ……」と船乗りが瓦礫から頭を庇った。
エリシアは地面に落ちたロープを素早く拾って直接古代兵器の脚に引っ掛けるつもりだ。
バッと駆け抜けてロープを取り、そのままジャンプして後ろ足に接近!
暴れ狂う古代兵器の攻撃を掻い潜ってやっとロープを後ろ足に引っ掛けた!
「今ですわ!」
エリシアが合図すると船乗りは急いで二本目のロープを柱に結ぼうとする。
「おら! オラあ!」
ウィッチの連続火の玉が炸裂する!
爆発の衝撃によって古代兵器がのけぞっている。
後ろ足二本さえ縛ってしまえばこっちのもんだ!
だがその時、火の玉の爆発によって一本目のロープが焦げついていた。
誰も気づいてない!
——バチン!
ヤバそうな音がしてロープが千切れ飛んだ!
いきなり解放された古代兵器の脚がエリシアの脇腹に当たる!
「ぐえ」とか言いながら吹っ飛ぶエリシア。
肩に張り付いてたジェリーが転がって砂まみれになってる!
古代兵器がエリシアに接近する!
めっちゃガシャンガシャン言ってる、やばい!
このままではエリシアの腹に風穴が開く。
船乗りはもう一度ロープを投げようとするが、もう位置が遠すぎる。
古代兵器の踏みつけ攻撃をエリシアは転がって躱す!
後ろからウィッチがヤバいくらい火の玉投げまくってる!
船乗りはどうしていいか分からない!
エリシア、めっちゃゴロゴロして躱してる!
古代兵器の殺意がマジでやばい。もう右脚から左脚からめっちゃ踏みつけてくる!
ていうかウィッチの火の玉あんまり効いてない!
「ちきしょう……」と呟き、一旦攻撃を止める。
今度は大きな火の玉を作り、圧縮。威力めっちゃ上がる!
パニクった船乗りがなんか石とか投げてる! 意味ない!
ジェリーはなんか船乗りの足元でニョローんってなってる!
エリシアはギリギリのところで古代兵器の脚先を掴んだ。力比べだ。だが古代兵器の重さがガチでエグい!
「おおおおお!」
エリシア耐える。そこにウィッチの圧縮弾が炸裂!
古代兵器が大きくのけぞって、エリシアが素早く後ろへ転がった!
これで状況は振り出しか。
パニクってる船乗りがなんか叫びながらまだ石投げてる。
「落ち着け!」とウィッチが言ってるけど聞こえてない。
しかも石と間違ってジェリー投げた!
エリシアが「ああ!」と思わず声を出す。
古代兵器のボディに張り付くジェリー。
なんか古代兵器がその場で暴れ始めた。ジェリーを振り払っているようだ。
「そうか」とエリシアが呟いた。
ウィッチがエリシアに視線を向ける。
「近づいてる物に過剰反応してるんですよきっと」
エリシアがそう言うと、ウィッチと二人で目を合わせた。
「全力でさっきのなんか強いやつ撃ってください!」
「今やってるよ!」
ウィッチは眉間に皺を寄せて特大の業火を作る。
「私が合図したタイミングで空中に!」
「なんでだよ……?」
ウィッチが唸りながら問いかける。もう額に汗かいて限界が近い!
船乗りはなんかボケーっと眺めてる!
古代兵器が暴れまくってジェリーが落ちそうだ、時間がない!
なんか脚がブンブン風切っててもうやばい感じだ。
そして特大の業火をやっと拳くらいの大きさに圧縮したウィッチ。
「今ですわ!」と叫ぶなりエリシアが跳躍!
そこに合わせて圧縮弾が飛来する。
エリシアはなんと空中で圧縮弾をキャッチし、そのまま自分の魔力と合体させて古代兵器に叩きつける!
コロシアム全体が大きく揺れて船乗りが尻餅をついた。
ウィッチも飛んでくる石の破片から顔を庇っている。
ジェリーは爆発の衝撃でどっか飛んでいった!
「ゲホゲホ」
すげえ粉塵が舞い上がって何も見えない。
やがて舞い上がった粉塵がなくなると、地面になんかキラキラした物が見えてきた。
そう、バラバラになった古代兵器の破片だ。
その破片の中心でエリシアが拳を振り抜いたまま残心している。
「よっしゃああ!」とウィッチが叫んだ。
勝利の余韻を味わうのも忘れて「集めますわよ!」とエリシアが言った。
船乗りが袋持ってきてめっちゃ拾ってる!
結局、三人で袋パンパンになるまで黒い鉱石みたいなやつ拾いまくった。
ジェリーはなんかコロシアムの外の木に引っ掛かってた!
めっちゃ重い袋抱えた一行は、死ぬ気で帰りの馬車に積み込む。
従者が「いけるかな……」みたいなこと言ってたが、なんだかんだで馬が頑張ったから街に到着。
それから速攻で黒い鉱石売りに行った。
鑑定士によれば、材質とか不明で見たことないから研究機関がめっちゃ欲しいみたいなこと言ってた。
結局、黒い鉱石はまあまあの金額で売れた。
金を山分けしてパーティは解散。
船乗りは「次の航海あるから」とか言って帰っていった。
ウィッチは「……ま、魔力が」みたいな感じで死にそうな顔でどっか行った。
ジェリーは分からん、どっか行った。