伝説のモンスターを倒そう
なんか色々ある街サンセット。
そんな街にエリシアと呼ばれる魔術師が流れ着いた。
彼女は何かしらの儲け話を持ってきて協力者を募っている。
さて、彼女が得た情報によれば近くにメデューサと言う化け物が現れてまじでやばいらしい。
このメデューサを打ち倒せば街から報奨金が貰えるという。
だがメデューサは恐ろしい。冗談抜きでやばい。
なんか目から光線を出してそれに当たると全身が石になってしまうのだ。
だからいくら腕に覚えのある連中でもメデューサと戦うのは流石に危なすぎる。
これは街の騎士団的な奴らがなんとかしてくれるだろうと、冒険者達は静観を決め込んでいた。
そんな中——。
「メデューサ一緒に倒しに行きませんかああぁ!」
ある酒場の扉がいきなりバタンと開かれてエリシアが入ってきた。
「誰がお前と一緒に行くかボケ!」
エリシアのやり方はメチャクチャだ安全もクソもない。
以前に彼女と組んだ奴がスケルトンにめっちゃ腕噛まれて傷口が化膿して入院したらしい。
いくら自己責任とはいえ、大抵の場合エリシアと一緒にいるとなんかやばいことになる。
そんな話を聞いた野朗共は彼女の話に乗るわけがないのだ。
エリシアはブーブー野次飛ばす奴らをフル無視して、なんか手当たり次第にいっぱい声かけまくっている。
そんな中、手を組むことになったのはシーフと呼ばれる職業の男性だった。
彼はこの街に来たばかりで色んな事情を知らなかったのだろう。
とにかくメデューサ倒したらすげえ稼げるって話で二つ返事で了承した。
彼を選んだエリシアには勝算があった。
訓練されたシーフは動きが素早い。と言うことはメデューサの光線もなんかこう上手く躱せるに違いない。
「俺のナイフの切れ味は鋭い……」
「頼もしいですわ。メデューサの目を狙えばこっちのもんですよ」
二人は早くもメデューサ討伐作戦を話し合っている。
それを遠巻きで見ていた野朗共はあのシーフを見て、「あれは手練れのシーフだ、タダもんじゃねえ」と背筋を凍らしていた。
だがエリシア的には後二人くらい欲しいところだ。
なんせ相手はあのメデューサ。こちらの頭数はあった方がいい
——と言うわけでメンバー探しを続行。
「見ろ! この腕の傷を! 誰が行くかボケぇえ!」
一人目の男は強そうだったが、怪我をしているらしくダメ。
「……ワフっ」
二人目は全く興味なし。
やはり相手はメデューサだから皆んな怖気付いてしまうのだろう。メンバー探しは困難だった。
だが幸運にも残り二人のメンバーが見つかった!
「よろぴく〜!」
サンセットに来て職探ししていた金髪ねーちゃんのギャルが意気揚々とエリシアに挨拶した。
「女子供は帰らせるべきだ……」
シーフが腕組みしてエリシアに抗議する。
「アタシ結構強いんで」
ギャルが言うには今までに浮気した彼氏全員半殺しにしたらしく、喧嘩めっちゃ強いらしい。
そしてもう一人は灰色のガッチガチのボディに人を睨み殺さんばかりの眼光、鞭のようにしなる太い尻尾。
——そう、リザードだ。種類はよくわからない。
「えーなにこれぇ?」とか言いながらギャルがリザードの背ビレをツンツンしている。
「や、やめろ……やめろ……」
シーフが慌ててギャルをリザードから引き剥がした。
「その辺歩いてて、意気投合したんで連れてきました」
エリシアが何食わぬ顔で説明する。
ギャルには“イキトーゴー”と言う言葉が分からなかった。
「ギシャアァ」とリザードがなんか言いたそうに口を大きく開ける。尖った歯から涎が地面にいっぱい落ちた。
「これでパーティ結成ですわ!」
「で、パーティ名は?」
シーフが聞くとエリシアは考えていなかったらしくウーンと唸った。
「じゃあギシャーズで」
「さっきの鳴き声で決めただろ」
エリシアはシーフのツッコミを無視して準備に取り掛かった。
まず立ち寄ったのは装備の店。
エリシアが言うにはメデューサの光線を防ぐには盾が必要だそうだ。予備を入れて一人二個ずつ盾を買おう。
でもリザードはなんか背中とか天然の盾っぽいからいらないだろうとギャルが言った。
「じゃあ盾六個でいいな」とシーフが注文しようとした時、エリシアが八個だと言った。
なんかいざとなればリザードの背中に盾を二つくらい括り付けたらいいんじゃないかと言うエリシア。
「それもそうか」と合計八個注文。かなりの金額だ。
それから投げるためのナイフを一番安い奴で店にある在庫全部買った。かなりの金額だ。
赤字にならないか心配するシーフ。だがエリシアは「大丈夫大丈夫」とご機嫌な顔。
以前にメデューサの手配書を見たときに賞金が書かれていて、物凄い金額だったらしい。
その日はもう遅くなったので明日の朝集合ということにして一旦解散となった。
シーフはなんか「俺の道具も用意しとく」とか言っていた。
ギャルは「友達の家に泊まる」みたいなこと言ってどっか行った。
エリシアはとりあえずリザードに首輪を付けて、その辺の安いホテルに泊まることにした。
そしたらフロントで「うわああモンスターだあああ」とか大騒ぎになって、結局リザードは馬小屋で寝ることに。
翌日、馬車をチャーターしてメデューサが潜む現場へ出発。今日は曇り。おそらく雨は降らないだろう。
そういえばまだお互いのことをよく知らない、とエリシアが世間話をする。
「——と言うわけで俺はこの街に流れ着いたんだ」
シーフの経歴はなんか大っぴらに言ってはいけない事ばかりだった。
過去にはマフィアのスパイとかやっていたらしく、かなりの修羅場を潜っているようだ。
シーフが持ってきた鞄には名称の分からない道具ばかり入っている。
「——とりあえず〜、まとまったお金欲しいんだよね」
ギャルはこの街に来てからずっと友達の家に泊まっているらしく、そろそろ部屋借りたいからその頭金が欲しいらしい。
彼女はそう話しながら、手鏡を見て枝毛を気にしている。
そしてリザードは、リザードだ。
先祖はドラゴンだろうか、誰にも分からない。だがそのシャキーンとした背ビレを見ればコイツがやべえ奴だって言うのは分かる。
背ビレだけ切り取ったら武器にできないだろうか、とシーフが変な想像している。
さて現場に着くまでに作戦会議だ。
「まず目を狙いましょう」
作戦はこうだ。
エリシアとギャルがメデューサの注意を引きつけているうちにシーフがめっちゃナイフ投げまくって目をつぶす。
で、メデューサが怯んだらみんなで近づいてボッコボコにする。
「——で、コイツは?」
シーフがリザードを指差した。彼は馬車の積荷の干し肉を勝手に貪っている。しかも骨ごと。
「あーなんかー、アドリブ強そうじゃん。大丈夫じゃね?」
ギャルがすごいテキトーに答える。エリシアもその意見には賛成のようだ。
きっと彼は多分、後ろから忍び寄ってメデューサの首筋に噛み付くに違いない。そうでなかったとしても、鋭い牙は心強い。
作戦会議が終わり、しばらくすると馬車が現場に着いた。
従者に「帰りは?」と聞かれたエリシアは「後で迎えに来てください」と言った。
着いたのは森を抜けた先にある大きな崖の下だった。その崖にポカーンと横穴が空いており、あそこがメデューサの住居だという。
リザードの目がギョロリと横穴を睨む。やはり野生の間は鋭いのだろうか。
「じゃあ武器を」とエリシアが言うとそれぞれが武器を構えた。
シーフはなんか革製の専用ホルダーにめっちゃナイフ挿しまくっている。
ギャルは金属の棒みたいなやつを肩に担いだ。先端がすごい赤い。血?
洞窟は結構広い。子供たちが運動会とか出来そうだ。だがこれからは大人の運動会だ。
「そういえば、お前武器は?」
シーフがエリシアに疑問をぶつけると、彼女は「拳法家なんで」と答えた。
ギャルには“ケンポー”がよく分からなかった。多分魔法かな?
ちなみにリザードの武器は自慢の牙と背ビレとぶっとい尻尾だ。
リザードはその辺を飛んでた蝿を一瞬で舌に絡めるとそのまま飲み込んだ。おやつにもならない。
「ぎしゃあ!」
「それしか言う事ないのか?」とシーフは言い掛けたが、言葉が通じないことを思い出して言うのをやめた。
広い洞窟にコツコツと足音が響き渡る。
ギャルは「めっちゃ広いウケる」とか言って一人で勝手に笑っている。
シーフは周りを見渡して何かないか確認しているようだ。
エリシアは持ってきた水筒の水をリザードに掛けた。
なんかトカゲだし水掛けたら良いんじゃね、みたいな感じのノリでやったのだろう。
実際にリザードについて何か調べたわけでもなんでもない。
それにしても凄く広い洞窟だ。
「歩き疲れた〜」とギャルが地面に座り込んだ。
「足手まといになるなら帰れ」とシーフが冷たく突き放す。
ギャルはおもむろに袋から盾を取り出すと、リザードの背中に括り付けた。
「何をやっている?」とシーフが不思議そうに見つめる。
ギャルはなんとリザードの背中に飛び乗った。
「あ〜そう言うことね」とエリシアが一人で納得している。
リザードの背中に乗ったら背ビレでお尻が痛いから盾を括り付けて椅子みたいにしたのだった。これは名案。
だが体重が掛かっているため、なんかリザードの背ビレが横に折れ曲がっている。
まあリザードだし頑丈だから大丈夫だろう、と探索を続行。
「というかよく暴れないな……」
シーフが独り言を言った。きっとそう言う生き物なんだろう。
リザードは地上最強の生物。人間が上に乗っても、「なんか今日背中重い気がするな〜」くらいにしか思ってないのだろう。
先頭を歩いていたエリシアが立ち止まった。
「……構えて!」
エリシアの号令でギャルはリザードから飛び降りて盾と棒を構えた。
シーフは指と指の間に器用にナイフを挟んで臨戦態勢になっている。
あれがメデューサだ。
前方に見える複数の人型の石像。犠牲者に違いない。メデューサはその中心で何か動物の死骸みたいなのを噛み砕いていた。
メデューサの下半身はヘビみたいになっている。時折尻尾の先端がシャラララっと振動する。
一行は近くの大きな岩に身を潜めた。
「まだ気づいていませんわ」
「……とりあえず俺が行く」
シーフが盾を構えて外に飛び出す。開戦だ。
シーフが走り出すとメデューサが気づいた。
「ヴおああああゔぉゔぉゔぉ」
身の毛もよだつメデューサの雄叫びが洞窟に響き渡る。
先手、シーフ。ナイフを一本投げる。
メデューサの尻尾がナイフを払い落とした。
メデューサの目が光り出す!
「——ッシイッ!」
シーフは横に大きく跳躍する。遅れて赤い光線が地面を削った。
ギャルが思わず岩場から飛び出そうとする。
「まだです!」とエリシアが制した。
シーフが走りながら連続投げナイフ!
全てが頭部を狙った攻撃。メデューサは手で顔を覆いながら素早く横移動。
下半身がヘビのため、予備動作なしでニョロニョロ動く様はまさに怪異!
ナイフの一本がメデューサの腕に刺さる。だが目は外した!
メデューサの動きが止まった。
「え、まじ?」とギャルが声を出す。まさか急所に当たったのだろうか。
少し離れて様子を見るシーフ。そして大声を出した。
「ナイフに毒を塗った! 今だあああ!」
「麻痺毒!」エリシアが思わず呟いて岩場から出る。
遅れてギャルもなんかぶっ叩く気満々で飛び出した。
リザードは近くにあった水溜りで、なんか水飲んでる!
それは置いといて、メデューサをボコボコにしようとギャルが棒を振り上げたその時——。
「……ッしまっ」
シーフが声を上げる暇もなくメデューサが一瞬で跳躍し、一気に距離を詰めてきた。
そう、メデューサが動きを止めたのは毒ではなく、跳躍するために尻尾に力をこめていたのだ。
そのまま長い尻尾で捉えられるシーフ。絶体絶命!
「待て! お前ら下がれ!」
流石に女子供に死なれては寝覚めが悪い。一旦、二人に退くようにシーフが叫ぶ。
「ウヴァあああ……」
シーフの顔にメデューサの湿った吐息が掛かる。動く手でその顔面にナイフを突き立てようとするが、メデューサの尻尾で弾き飛ばされた。
そして目が赤く光り出す。
「シーフ!」とギャルが呼び捨てで叫ぶ。
エリシアが駆け寄ろうとするギャルを押さえつけた。
「巻き添え食らいますわよ!」
空中高くに弾き飛ばされたナイフがたまたまリザードの背中に当たった。
それでなんか嫌がらせ的なことされたと勘違いしたのか、リザードが唸り出した。
「グルル……、ぐあああああああ!」
エリシアは取り乱すギャルを抑えている。
シーフはなんとか服の下に隠していた盾を顔の前に構えた。
バチイインとすごい音がして赤い閃光が炸裂する。
シーフが目を開けると手元には焼け焦げて崩壊した盾の破片が握られていた。
「ぐあああああ!」
リザードが唸り声を上げてものすごい速さで前転する。
これは鋭い背ビレで相手を斬るための奥義なのだろうか。
背ビレアタックがメデューサの背中に命中!
なんかキッショいうめき声をあげてメデューサが壁に叩きつけられる。
それを好機と見たエリシアは空中高くに飛び上がり、拳を突き出してメデューサへ跳躍する!
「シーフ! 離れて!」
「う、うお!」
シーフが反射的に岩の影に転がっていく。
心臓が止まるような轟音! 巻き上がる砂塵!
ギャルはどうしていいか分からず、なんかしてる!
そして砂塵が消えた時、シーフは目を見開いた。
なんとあのエリシアの一撃を食らってメデューサはまだ生きている!
やはり伝説のモンスターは違うのだ、耐久力が。
エリシアとメデューサがお互いに手で押し合っている。
そしてメデューサの目が赤く光り出す。
「おい盾は!」
シーフが叫ぶも、エリシアは盾なんか持っていない。自分で「盾がいる」とか言っといてコレだ。
なんか展開が分からないからとりあえずメデューサぶっ叩きに行こうとするギャル。
「っおらああ!」
シーフが制止しようと腕を出すも、すり抜けていくギャル。
だがこれでは巻き添えが!
そうださっきの爬虫類アタックを、と足下に居たリザードをなんか持ち上げようとするシーフ。
しかし重い、重すぎる!
今ナイフを投げたら二人に当たってしまう!
近づいたら全員巻き添えで石にされる!
犠牲にできるのはコイツしか居ない!
シーフは渾身の力でリザードを肩に担ぐ。
リザードがなんか「ぎゃおぎゃお」文句言ってる。
エリシアは向かってくるギャルに向かって手を突き出した。
「おあっ!」
見えない力で吹っ飛ばされるギャル。
「隠れて!」とエリシアが叫ぶ。
シーフはなんかすげえ叫びながら今まさにリザードを投げようとしている。
そして炸裂する閃光!
二人が目を開けると、そこにはエリシアの石像が。
「あ、あぁ……」
あの爆発的な攻撃力のエリシアがやられてはもう終わりだ、とシーフがギャルの手を引いて逃げようとする。
「失敗だ!」
「で、でも!」
ギャルがエリシア像を指差す。
「もう戻らん! 終わりだ!」
シーフが逃げようとするも、なぜか足下にいたリザードに躓いて盛大に転ぶ。
メデューサの目が赤く光った!
「やば! 盾が! あああ!」
さっきまでギャルが持っていた盾はエリシアに吹っ飛ばされた時に手放してしまったのだ。
終わった。このまま二人も石にされて物語は終わり。
ご愛読ありがとうございました。
——とはならなかった。
恐れていた衝撃が来ない。意識がまだある。
「はっ!」
シーフが目を開けるとそこには関係ない方向を向いているメデューサの姿があった。
よく見るとメデューサの首になんか絡みついている。腕?
「まじいい?」とギャルが指差した。
そこには石にされてもなおメデューサに掴み掛かっているエリシア像の姿が!
「うゔぉゔぉ!?」
これにはメデューサもびっくり。
リザードもなんかカサカサとめっちゃ素早く岩場に隠れた。
なぜかは分からないが石像のままメデューサと取っ組み合いを始めるエリシア像。
メデューサもどうしていいか分からず、なんか連続で光線を放っている。でも全然効いてない。だってすでに石だから。
そこに繰り出されるストーンパンチ!
この重量級の拳がメデューサの首をへし折る。
ゴイイイィンみたいな感じですげえ音が洞窟内に響き渡った。
そのままメデューサの髪の毛を掴んだ状態で顔面膝蹴りが炸裂!
ぐちゃぁとか割とキッショい音と共に真っ赤な血飛沫が壁を染めた。
メデューサの死体が血溜まりに沈んだ。
「ひいい……」
岩場に隠れていたギャルが悲鳴をあげる。
シーフはエリシア像が何をしてきてもいいように構えていた。
リザードは仰向けにひっくり返ってもがいている。
エリシア像はゆっくり歩き、シーフの前に立った。
よく見ると足元がなんか元に戻ってるっぽい。
なんか生々しい音を立ててエリシアの姿が少しずつ元に戻っていった。
「勝ちましたよ!」
エリシアがサムズアップ。
ギャルはなんかひっくり返ったリザードをどうにかしようとしている。
シーフも手伝っているようだ。
「い、一体なぜ!」とシーフが疑問を投げかける。
エリシアは「魔術師なんで呪い効かないんですよ」と答えた。
その後、とりあえずメデューサの首を証拠として持ち帰るためにリザードの背中に括り付けた。
帰り道、「別にお前一人でよかったんちゃうんかと」みたいな感じでシーフがすごいエリシアに文句言ってた。
でもなんかエリシア的に美学っぽいやつがあるらしく、理解不能だった。
それから馬車で街まで帰って、役場に行って勝利宣言をした。一大ニュースだ!
しかしエリシアは賞金を受け取って山分けした後、表彰式みたいなやつには出席しないでどっかへ消えた。
去り際、ギャルが「なんで出ーへんの?」て聞いたらエリシアは「色々やらかしてて名前が出るとやばい」みたいなこと言っていた。
結局、街の記録にはメデューサを打ち滅ぼした伝説のシーフと伝説のギャル、それからすごいやばい魔獣リザードの名が刻まれることとなった。