【連載版スタート!】【世間知らず令嬢は無自覚に無双しますわ】「卑しいから追放!」と言われた『モンスターを食べるほど強くなる』スキルは、1食で1レベルアップする前代未聞の最強スキルでした。
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「ワタクシ、追放されてしまいましたわー!」
ワタクシの名前はシャーロット・メイビー。15歳。
この世界では、15歳になると”ギフト”という不思議な力を授かるのですわ。
庶民や騎士の家系の貴族では、ギフトがハズレでも追放されることはよくある話。しかしワタクシは戦いとは無縁の侯爵家。どんなギフトを授かっても、困ることはありませんわ。
と、思っていたのですが――。
「シャーロット様のギフトの鑑定結果は”モンスターイーター”。『倒したモンスターを美味しく食べられるようになる。モンスターを食べるほど強くなる』という効果でございます」
「なにぃ!? モンスターを喰うギフトだと!? ふざけるな、そんなギフトなら無いほうが遥かにマシだ、一族の面汚しめ、貴様は追放だ!」
激怒したお父様はワタクシに侯爵家追放を言い渡したのです。
「困りましたわね……」
持ち出せたのは、旅行用のケースに詰め込めるだけのお洋服とお小遣いだけ。ご飯を用意するための道具などは1つも持っていませんの。お腹がすいたらどうしましょう……。
しかも悪いことに、屋敷はお父様の意向で森の中に建てられています。近くにレストランなどはとてもありませんわ。
「確か、街は北の方にあったはずですわ。街に行けばレストランがあるはずよ。ええと、いつも太陽が昇ってくるのはあちらの方角だから……」
というわけで、私は街を目指して歩き始めましたわ。途中でモンスターなどに出くわさなければ良いのだけど……。
――――
「モンスターが出ましたわー!?」
街を目指して森の中を歩き始めてすぐのこと。
樹の上から、小さなモンスターが襲い掛かってきましたの!
”ぷよんっ”
いくらモンスターだとか物騒なものに疎いワタクシでもこれくらいは知っていますわ。
スライム。半透明の粘液の塊のような小型モンスターですわ。
「きゃああああぁ! 食べられてしまいますわ! 早く逃げ――きゃん!」
慌てて足がもつれて転んでしまいましたわ。動けないワタクシに、ぷよん、ぷよんとスライムさんが近づいてきますの。
「ワタクシ、大ピンチですわー!?」
そんな時、ふと家庭教師の先生に教わったことを思い出しましたわ。
『どうしても自分の身を自分で守らなくてはならなくなったとき。この魔法を使いなさい』
「ええと、なんでしたっけ……かわいらしい名前の魔法ですわ。プチ……プチ……そう、”プチファイア”ですわ!」
ワタクシの手のひらから小さな火の塊から飛び出して、ふらふらしながらスライムさんに当たりますわ。
”ぷきゅう!”
可愛らしい声を上げて、スライムさんが弾けて消えます。
「ワタクシ、スライムさんに勝てましたの……?」
私はハンカチで額の汗を拭います。
「怖かったですわ。もう二度とモンスターなんかと戦いたくないですわ! ……あら?」
スライムさんがいた場所に、何かが落ちていますわ。これは――
「シャーベットですわー!?」
何故かスライムさんがいた場所に、小さなお皿の上に乗ったシャーベットがありましたわ。しかもスプーン付き。
「もしかして、ワタクシのギフトの『倒したモンスターを美味しく食べられるようになる』ってこういうことでしたの!?」
これは予想外ですわー!
「しかしいくら調理済シャーベットになったとはいえ、モンスターを食べるなんてはしたないこと……」
”ぐううううぅ~”
お腹がすきましたわ。
それにしてもこのシャーベット、なんて美味しそうなんでしょう。
なんて、なんて美味しそうなんでしょう……!
……。
…………。
ぱくり。
誘惑に勝てず、ワタクシはシャーベットを口に運んでしまいましたわ。
その瞬間。
「美味しいですわー!?」
思わず叫んでしまうほどの美味しさが、体中を駆け抜けていきましたの。
ぱくぱくですわ。
あっという間に、皿は空になりますわ。
こんなにせかせかと食事を口に運んだのは初めてですわ。きっと、お父様が見ていたらはしたないと怒られたことでしょう。
でも、美味しかったのだから仕方ないのですわ~!
『モンスターを食べたことによりレベルが上がりました』
『スライム捕食ボーナス。防御力が5上昇しました』
何かしら。へんな耳鳴りがするわ。シャーベットが美味しすぎて頭がへんになったのかしら?
「ああ、もっと食べたかったですわ……」
用が済んだとばかりにお皿とスプーンも消えてしまいましたわ。
しょんぼりするワタクシの視界の隅で、何かが動きましたわ。
「スライムさんですわー!」
さっきまで怖くて仕方なかったスライムさんが、今は美味しそうに見えてしかたありませんわ。
しかも辺りを見渡すと、森のあちらこちらに、スライム、スライム、スライム。夢のような光景ですわ!
「お父様、ごめんなさい。ワタクシは、はしたない子になってしまいましたわ……!」
ワタクシは口から涎があふれそうになるのをこらえながら、ふらふらとスライムに近づいていきましたわ。
そして、狩りつくしましたわ。
『モンスターを食べたことによりレベルが上がりました』
『スライム捕食ボーナス。防御力が5上昇しました』
『モンスターを食べたことによりレベルが上がりました』
『スライム捕食ボーナス。防御力が5上昇しました』
『モンスターを食べたことによりレベルが上がりました』
『スライム捕食ボーナス。防御力が5上昇しました』
――――――――――
「もう食べられませんわー!」
20体程かしら。辺りにいたスライムさん達を食べつくして、ワタクシ大満足ですわ!
相変わらずスライムさんを食べるたびにへんな耳鳴りがしますけど。
「”レベル”や”防御力”って一体なんですの……?」
ワタクシが首をかしげていると、後ろからなにか唸り声が聞こえてきますわ。
「お、狼さん……?」
ワタクシよりもずっと大きな狼モンスターが、ヨダレを垂らしてこっちを見ていますわ。
「きゃあああああ!」
『ガルルルルゥ!』
狼さんが、ワタクシの腕に嚙みつきますわ。でも――
”ガキンッ!”
ワタクシのお肌には、何故か傷1つ付きませんわ。
「……もしかしてこの狼モンスターさん、じゃれているのかしら……?」
その時、ワタクシの頭の中に1つ悪い考えが浮かびましたの。
「狼モンスターって、食べたら美味しいのかしら……?」
無意識に、ワタクシの口の端から涎が垂れてしまいましたわ。
「プチファイアですわ!」
”ゴウッ!!”
ワタクシの手から出た炎が、狼モンスターさんを包み込みますわ。
「ワタクシのプチファイア、こんなに大きかったかしら……?」
ワタクシのそんなささやかの疑問は、炎の中から現れたお肉を目にした瞬間に消し飛びましたわ。
「Tボーンステーキですわー!」
ワタクシさっき、『もう食べられませんわ』と言ったかしら?
あれは嘘ですわ。
お肉の美味しそうな匂いを嗅いだら、食欲がとめどなくあふれてきますわ~!
「いただきますわ!」
お肉を急いで切り分けて口に運ぶと――。
「~~~~!!」
さっきのスライムさんが”思わず叫んでしまうほどおいしい”なら、今度は”声も出ないほどおいしい”ですわ!
『モンスターを食べたことによりレベルが上がりました』
『ドレッドウルフ捕食ボーナス。スキル”オートカウンター”を取得しました』
今度の耳鳴りは新しく”オートカウンター”という言葉が出てきましたわ。なんですのこれ~!?
”ワオオォン!”
”ワオオオオオォン!”
遠くの方で狼の遠吠えがしますわ。
……決めましたわ。
「ワタクシこれから、モンスターを狩って食べて暮らしていきますわ!!」
モンスターを狩れば、毎日このとっても美味しいお肉が食べられるなんて最高ですわ!
「ワタクシ、もうモンスターを食べることしか考えられませんわー!!」
ワタクシはさっそく、狼の遠吠えがした方へと駆けだしましたわ。
『モンスターを食べたことによりレベルが上がりました』
『ドレッドウルフ捕食ボーナス。スキル”オートカウンター”が”オートカウンター LV2”に進化しました』
『モンスターを食べたことによりレベルが上がりました』
『ドレッドウルフ捕食ボーナス。スキル”オートカウンターLV2”が”オートカウンター LV3”に進化しました』
『モンスターを食べたことによりレベルが上がりました』
『ドレッドウルフ捕食ボーナス。スキル”オートカウンターLV3”が”オートカウンター LV4”に進化しました』
――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――
――
それからワタクシは、しばらく街の方へ進みながら森で暮らしましたわ。
湖や川で洗濯と水浴びをして。
木のウロや洞穴で寝て。
そして、モンスターさんを食べて。
屋敷の外で暮らすのは初めてのことでしたけど、思っていたよりずっと快適でしたわ。
そして……。
「街ですわー!」
ワタクシは遂に、街に到着したのですわ。
これで久しぶりにフカフカのベッドで眠れますわ。
それに何より。
「サンドイッチが食べれますわー!」
ワタクシの好物、それはサンドイッチ。森でどんなモンスターを倒しても、パンが入った料理が出てくることはありませんでしたわ。
いくら美味しいお肉やシャーベットを食べても、サンドイッチを食べたい欲は満たされることはありませんでしたわ。
食欲とサンドイッチ欲は別物ですわ。
「サ、サ、サ、サンドイッチ~♪」
鼻歌を口ずさみながら街のレストランを探しますの
そして、ワタクシのサンドイッチ欲をビビッと刺激するレストランを見つけましたわ。
「”冒険者ギルド”……? 変わった名前のレストランですわね……?」
でも開いたドアから中を覗くと、テーブルで食事をしている人がいますし。レストランで間違いないですわ。サンドイッチを食べている方もいらっしゃいますし。
サンドイッチを注文しましたわ。屋敷を追い出された時、お小遣いを持ち出しておいてよかったですわ。
「久しぶりのサンドイッチ、美味しいですわ~!」
このレストランのサンドイッチ、絶品ですわ~!
パクパクですわ。
それにしてもこのお店、やけに剣や弓で武装した方が多いですわ。物騒ですわ。
そんなことはさておいて。
ワタクシ、庶民のレストランに来たら一度やってみたかったことがあるのですわ。
ワタクシはカウンターにいる、かわいらしい制服の女性ウェイトレスさんにこう言いましたわ。
「ここのお店、カードは作れますかしら?」
ポイントカード。
庶民のレストランでは、通うたびにカードにポイントが溜まるという仕組みがあるとメイドから聞いたことがありますの。
ポイントが貯まると、カードの見た目が綺麗になったり隠しメニューが注文できるようになる特典があるのですわ。
一度作ってみたかったのですわ!
「カード……ああ、冒険者カードの作成ですね。では、こちらの紙に必要事項をご記入ください」
手続きを済ませると、銅色のカードを貰いましたわ。
「これが憧れの(ポイント)カード! これが段々ランクアップしていくのね。楽しみですわー!」
「はい。モンスターを討伐した証明となる素材を持ってきていただければ、カードがランクアップしますわ」
モンスターの素材を持ち込むとランクアップ……? 変わったレストランですわ。
「モンスターの素材って、こういうものですの?」
ワタクシは、これまで倒したモンスターの素材をカバンから出しますわ。
スライムさんを倒した時にジェラートと一緒に落ちていた小さな結晶。狼さんの爪。それをどっさりとカウンターの上に出しますの。
「ええ!? こんなに沢山モンスターを倒したんですか!?」
大分驚かれていますわ。
「オイオイお嬢ちゃん、ズルはいけねぇなあ」
声をかけてきたのは、剣を腰に差した大柄な殿方。体が大きくて、とても力が強そうですわ。
「いいもん着て、さぞかしお金持ちなんだろうなぁ。お金でモンスターの素材を買って冒険者ランクを上げようだなんて、ズルはいけねぇよ。罰として、財布の中身と着てるもん全部没収しちゃうぜ。へっへっへ」
そう言って、殿方は腰の剣を抜きます。
「オレ様はこの冒険者ギルドで最強。レベルは8だ。”圧倒的な実力差”って奴を、思い知らせてやるぜぇ!」
殿方は私に向かって剣を振り下ろして――
『自動迎撃スキル”オートカウンターレベル35”が発動します』
吹っ飛びなさいましたわ。
「ぽぎゃあああああああああああああああああああああーーーー!!」
なんだか愉快な悲鳴を上げて、吹っ飛んで行ったのですわ。
開いていたドアから外へ飛び出し、大通りを突っ切って、広場の噴水に激突しましたわ。
「なんだったのかしら、あの方……」
勝手に剣を振り上げて勝手に吹っ飛んでいくだなんて、不思議な方ですわ。
それにさっき”オートカウンター”というへんな耳鳴りもしましたわ。今日は不思議なことばかり起こりますわ。
「……驚きました。あの人、迷惑行為ばかりしていたのですが実力だけは本物でしたから。失礼ながら、”ステータスオープン”と唱えてステータス画面を見せて頂けませんか?」
受付のウェイトレスさんがそう声をかけてきますわ。
「こうかしら? ”ステータスオープン”」
すると、ワタクシの前に半透明の画面が浮かび上がりますわ。
==========================================
シャーロット・ネイビー
レベル:51
攻撃力:75
防御力:81(+ボーナス170)
魔力:77
敏捷:68
スキル
〇オートカウンターレベル17
使用可能魔法
〇プチファイア
==========================================
うーん。なんだかよくわからない数字ばかり並んでいますわ。
「レ、レベル51!? 世界最強と言われるギルドマスターでさえレベル38なのに……!」
受付のウェイトレスさんがなにやら動揺してらっしゃいますわ。
「この”レベル”という数字は、一体なんですの?」
「むむ。難しいことをお聞きになりますね。レベルとは……冒険者にとってのアイデンティティ、積み上げて来た実績の象徴、とでもいうべきでしょうか?」
よくわかりませんわー!
一体なんですのこの数字ー!
「さて、話が逸れてしまいましたが。先ほど頂いたモンスターの討伐証明素材で、シャーロットさんはシルバー冒険者にランクアップしました」
ウェイトレスさんが、カウンターから銀色のカードを取り出しますわ。
「まぁ、ピカピカで綺麗ですわー!」
「この上には、更にゴールド・プラチナ・パール・ダイヤランクが存在します」
そう言ってウェイトレスさんがカードを見せてくれます。
まぁ! まぁ! まぁ!
「とても綺麗ですわ! 特にワタクシその”ダイヤランク”のカードが気に入りましたわ!」
「シャーロットさんならすぐにダイヤランクに上がれますよ。……いえ本当に。お世辞でもなんでもなく。すぐに上がれると思います」
「ふふふ。ありがとうですわ。キラキラのカードを手に入れるのが楽しみですわー!」
「さて、早速ですがクエストは受注なさいますか?」
「クエ、スト……?」
なんでしょうクエストって?
初めて聞く言葉ですわー!
「クエストとは、モンスターの討伐依頼です。クエストを受注してから指定されたモンスターを討伐すると、報酬を貰うことができます」
かわったレストランですわね。
報酬って、何が貰えるのでしょう? レストランの値引き券とかかしら?
面白そうなシステムですわ。でも……
「ごめんなさい。クエストは受けないわ」
「クエストを、受注しないですって……!?」
ウェイトレスさんが、信じられないといった顔でワタクシを見ますの。ワタクシ、そんな変なことを言ったかしら……?
「だってワタクシ、倒すモンスターは自分で決めたいの。誰かに倒すモンスターを決められるなんて、イヤだわ」
実はワタクシ、ワガママな性格ですの。
「し、しかしそれでは……」
その時、ワタクシは聞きましたの。
「――大変だ! 街の北の畑を、超巨大イノシシモンスター”グランドボア”が荒らしまわってるらしいぞ」
「本当か!? 早く討伐しないと街の食料危機じゃないか!」
「だけどあんな強力モンスターと戦うなんて無茶だ! 街の冒険者全員で掛かっても、半分は死ぬぞ……」
「それでもやるしかないだろう。やらなきゃ街の人間まとめて飢え死にだ。あと数時間もすればクエストが発行されるはずだ。それまで、最後になるかもしれない飯でも味わって喰おうや」
「そう言えば、グランドボアの肉はとてつもなく美味いと聞くな。生き残って、何としてもありつきたいもんだ」
――という、噂話を。
とてつもなく美味しいお肉……!?
決めましたわ。
ワタクシ、そのグランドボアというモンスターを食べますわ!
お肉というのは、肉食動物より草食動物のほうが美味しいと聞きますわ。
狼のお肉でさえ、ワタクシのスキルであんなにおいしくなったのですもの。元々美味しいと噂のグランドボアのお肉がどれほど美味しくなるか、想像するだけで涎が止まりませんわ~!
他にも何やら食料危機がどうとか半分死ぬとかなんとか言っていた気がしますけど、忘れましたわ。
ワタクシ今、イノシシの美味しいお肉のことしか考えられませんわ~!
「ねぇ受付のあなた。あの”街の北の畑”というのはどちらにいけばいいのかしら?」
「北の畑は、こちらになります」
受付のウェイトレスさんが、地図に印を付けて渡してくださいます。
「ではワタクシ、行ってまいりますわ」
「待ってくださいシャーロットさん、クエストは――」
「クエストが発行されるのなんて待っていられませんわ~!」
誰かに先を越されたら大変ですもの。
ワタクシは急いで畑へ向かいましたわ。
――――
「まぁ、大きなイノシシですわ」
北の畑についたわたくし、びっくり仰天してしましましたわ。
庶民の皆様の家まるごと2つ分程の大きさでしょうか。とにかく大きいですわー!
「どうしましょう、こんなに大きな猪だと思っていませんでしたわ……」
こんなに大きかったら――
こんなに大きかったら――――
「1人じゃ食べきれませんわー!」
正直に白状いたしますわ。
ワタクシ今、グランドボアさんの事が大きなステーキにしか見えていませんの。
これまでの森での暮らしで、モンスターに共通の弱点があることを見つけましたわ。
それは、魔法に当たると死んでしまう事ですわ。
これまで何度もスライムさんや狼さんに魔法を当てて試したから、間違いありませんわ。
これはきっと、どんなに大きいモンスターでも同じですわ。
「”プチファイア”ですわ!」
飛び出した牛1頭ほどの大きさの炎の塊(前より大きくなっているような気がしますわ? 不思議ですわ)が、グランドボアに命中しますわ。
『ブモオオオオオオオオオオオオオオオォ!!』
グランドボアさんが断末魔を上げて、地面に倒れますわ。思った通り、こんなに大きなモンスターさんでも魔法に当たると死んでしまうのですわ。
「魔法って便利ですわ~!」
そして”ボンッ”という音を立ててグランドボアがステーキに変身しますわ。
馬車が丸ごと1台乗りそうなくらい大きなお皿。その上に、山盛りのステーキがドーン! と乗っていますわ。
最高の眺めですわ!
「でもどうしましょう。こんなに沢山のお肉、ワタクシだけでは食べきれませんわ……」
後から他の方が来たら、分けて差し上げましょう。
独り占めは良くないですから。それに、美味しいものは皆で分け合ったほうが美味しくなりますわ。
と思っていたのですが――
「完食ですわ」
あんなに沢山あったお肉。
全部! 食べてしまいましたわ!
先ほどワタクシ、『美味しいものは皆で分け合ったほうが美味しくなる』と申し上げたかしら。
嘘ですわ!
美味しいものは分け合うよりも全部自分で食べたほうが美味しいに決まっていますわ~~!
パクパクですわ~~~~!!
ワタクシの身体よりもずっと大きなあれだけのお肉がどうしてワタクシの胃袋に収まっているのか不思議ですけれど、これもきっとギフト”モンスターイーター”のおかげですわ。
「ワタクシ大満足ですわ~!」
『ボスクラスモンスターを食べたことによりレベルが5上がりました』
『グランドボア捕食ボーナス。スキル”無限アイテムボックス”を獲得しました』
ワタクシの手元で、急に空中にぽっかりと”穴”が空きましたわ。
「まぁ。なんですの、これ?」
ワタクシが意思をこめると、穴が広がったり閉じたりしますわ。
「もしかして、この穴に荷物を入れておいたらとても楽に運べるのでは無いかしら?」
ワタクシってば賢いですわ。
「この穴、とても便利ですわ~!」
淑女はみんな、同じ悩みを抱えているのですわ。
「オシャレなデザインのバッグは、どれも小さすぎるのですわー!!」
淑女たるもの、大きな荷物を自分で持ち運ぶなかれ。
そんな風潮があるので、オシャレなデザインの淑女向けバッグはどれもとても小さいのですわ。
ハンカチとお財布くらいしか入りませんの。
でもこの不思議な穴があれば、暇潰しの本も何冊でも運べますわ。お腹が空いたとき用のパンも持ち運び放題ですわ~!
――――
「というわけでワタクシ、グランドボアを倒してきましたわー!」
夕方。
ワタクシは大満足でレストランに戻って来ましたわ。
「はい、グランドボアの牙ですわ。これをお渡しすれば、カードはランクアップできるかしら?」
ワタクシは、例の不思議な穴からグランドボアの牙を取り出して、受付のウェイトレスさんに渡しますわ。
「え、今どこから牙を取り出しました?」
「この不思議な穴ですわ~」
ワタクシは穴を広げて見せますわ。
「そ、それは所有者が1人いるだけでポーション類を大量に持ち込めるようになってダンジョン攻略難易度が大きく変わるという伝説のスキル”アイテムボックス”では……?」
「まぁ、そんな名前なのこの便利な穴?」
この穴があればかさばるお化粧道具も楽々持ち運びできますわ~。
「グランドボアをお1人で討伐したということは、ポイントが頭割りされずシャーロットさんに全て付与されるので……ええと、こんなことは前代未聞なのですが、ポイントが規定値を超えていますのでランク一気に2つ上がって、シルバーからプラチナになります」
受付のウェイトレスさんが綺麗に光るカードを出してくれましたわ。
「まぁ、綺麗ですわ~。これまでのカードの光り方も好きだったけど、ワタクシこちらの方が好みですわ」
「ふふふ。そう言っていただけると嬉しいです」
「でもね。ワタクシ一番好きなのは一番上のダイヤランクのカードですわ。早くダイヤランクのカードになってみたいですわ~」
「シャーロットさんならすぐになれますよ。ええ本当に。来週にでも」
「さて、次はどんなモンスターを倒しに行こうかしら」
「クエストを受注しないのであれば、街から10キロ程離れた高難易度ダンジョン”エゲルマの洞窟”はいかがでしょうか? あのダンジョンの奥には古代文明の遺跡が眠っていて、現代の技術では再現不可能なアーティファクトが沢山眠っているらしいです。ただ、様々なモンスターが棲みついていてあまり研究が進められていません」
「まぁ。それは楽しみですわ~」
古代文明に興味はないけど、色々な種類のモンスターが棲んでいるというのはワクワクしますわ~!
こうしてワタクシは、ダンジョン? とかいうところに向かったのですわ。
――――
シャーロットが己の強さに気付かずグランドボアを一撃で仕留めたその日の夜。
冒険者ギルドは、シャーロットの話題で大いに盛り上がっていた。
「そしてこれがその時にシャーロットさんが持ち込んだモンスターの素材です。ドーン!」
レストラン受付のウェイトレス……と勘違いされている冒険者ギルドの受付嬢が、シャーロットが初めて冒険者ギルドに持ち込んだスライムとドレッドウルフの素材が詰まった箱をテーブルの上に載せる。
途端にテーブルを囲んでいた冒険者たちが盛り上がる。
「すげぇ、シャーロットさん、こんなに沢山モンスターを狩ってたのかよ!」
「近頃モンスターの襲撃が減ったと思ってたけどシャーロットさんのおかげだったんだな!」
「凄い人と同じ街に居合わせてしまった……。神よ、この幸運に感謝します!」
受付嬢は更に熱量を上げながら語り続ける。
「冒険者登録をしたいと申し出るシャーロットさん。そのとき、シャーロットさんに魔の手が迫ります。襲ったのは、当冒険者ギルド最強のレベル8のエリックさん。シャーロットさんは因縁を付けられて、剣で斬りかかられます。が、シャーロットさんは一瞥もせず一瞬でエリックさんを吹き飛ばします! 私は一番近くで見ていましたが、シャーロットさんがどんなスキルで反撃したのかさえ全く分かりませんでした!」
「おいおい受付嬢ちゃん、それはちょっと話を盛り過ぎだぜ! わっはっは!」
「いや、受付嬢ちゃんは全く話を盛ってなんかいねぇぜ」
そういって現れたのは、シャーロットに因縁を付けた男だった。以前は髪を無造作に伸ばしていたが、今は短く刈り込んでいる。
「シャーロットさんに斬りかかった次の瞬間、吹っ飛ばされていたんだ。本当に何が起きたかわからねぇよ。……俺はこれまで、”レベル8”って自分の強さに溺れていたんだ。だが、あの人に教えられたよ。俺の強さなんてのは、取るに足らないちっぽけなものなんだってな。”圧倒的な実力差”って奴を思い知らされたよ。これからは、心を入れ替えて真面目に生きていくさ」
そう語る男は、とても澄んだ目をしていた。
受付嬢が再び熱っぽく語り出す。
「まだまだシャーロットさんの武勇伝はこんなものではありません! 冒険者登録を終えたシャーロットさんと話しているとき。誰かがグランドボアの出現情報を話し始めました。その時、それまで優雅に微笑んでいたシャーロットさんの表情が変わりました」
冒険者達全員は固唾を飲んで受付嬢の話を聞く。
「あの時のシャーロットさんは、とても真剣そうな顔をしていました。そして、クエストも受注せずにグランドボアのいる北の畑に走り出したのです」
「何!? クエストを受注せずに?」
「どういうことだ……? クエストを受注しないと、モンスターを倒しても銅貨1枚も貰えないのに?」
「シャーロットさんは、一体何を考えているんだ……?」
チッチッチ、と受付嬢は指を左右に振る。
「私には分かります。シャーロットさんは、クエストの報酬を捨ててでも、クエストが発行されるまでの数時間にグランドボアが暴れて被害が拡大するのを止めたかったのです」
「「「なんだってー!?」」」
「フフフ。あの時のシャーロットさんの目はこう語っていました。『人の命程尊いものは無いのですわ。クエストが発行されるのを待っていたら、グランドボアに街のどなたかが死んでしまうかもしれませんわ。ワタクシ、そんなこと耐えられませんわ! 報酬など要りません、1秒でも早くグランドボアを倒してまいりますわ!』、と」
「くううううぅ! シャーロットさん、カッコ良すぎる! 何も語らず走り出す辺り、すっげぇCOOLだぜ!」
「感動した! 感動した! 俺は! なんて高潔な精神を持っているんだシャーロットさんは!」
「俺は恥ずかしい……報酬のためにしかモンスターと戦ってこなかった自分が恥ずかしい!」
何人もの大の男が、人目もはばからず熱い涙を流す。
「今日はとにかく、英雄の誕生を祝いましょう! 我らの街の英雄、シャーロット・ネイビーさんに乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
こうして、ただモンスターのお肉を食べることしか頭にないシャーロットの美化されまくった武勇伝が生まれたのだった。
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