レースと刺繍に隠れた独占欲。
PVが1万を超えていることに気が付きました。
感謝です!
最後がランスロット様との下町へのお出掛けだった。一番気が緩んでしまったのも仕方がないかもしれない。
実はあの後デート用の服装一式がランスロット様から届いた。どうせ下町の服装を知らないんだろう、変な目で見られるのは本意ではないからこれを着て来い。俺が送り付けたものだから代金はいらない。そう書かれた手紙が添えられていた。
因みに私の専属侍女であるフェリは平民出身であるため服装はフェリに教えてもらえばよいのだが、ランスロット様にはそれを伝えていないので仕方がない。
「フェリ、平民の女性は皆このような感じの服装なの?」
「デート服ですね」
笑顔できっぱりと断定された。微妙な顔で送られてきた服を見下ろす。ランスロット様がこれがデート装備だと知っているのかすごく気になる。
着てみると、その露出の多さに顔が引き攣った。
「少し首元が刳りすぎではないかしら?」
「季節的にもこれくらいが普通です」
「少しスカート丈が短すぎではないかしら?」
「貴族のご令嬢の丈が長すぎるのです。特に今回はデート服ですから少し短めくらいが丁度良いかと」
彼とお忍びデートをしたことがあるとはいえ、完全なる下町に出た訳ではない。貴族街のごく近く、富裕層向けの区域を回っただけだ。だから、平民の服を着るのも初めてだった。
少々大胆すぎる気もするが、これが普通なら仕方ない。
「お嬢様、ご希望の髪型はございますか?」
「うーん、一般的な髪型がよく分からないわ」
「一般的というとポニーテールや三つ編みが多いですが、ここまで完璧なデート服ですともう少し手を加えた方が良いと思います。といっても基本的には自分で整えますのでご令嬢方ほどでは到底ありませんが」
「任せるわ」
正直髪型とかさっぱり分からない。普段の髪型だってフェリに任せっきりなのに、平民の髪型なんて知る筈がない。
結局編み込みとハーフアップという落ち着いた感じになった。そこに比較的小さめのピンクトルマリンがはめ込まれた髪留めを使って完成だ。
化粧もいつもより大人しめで、鏡にはいつもとはがらりと印象が変わった私が映っていた。
ばっちりデートの平民美少女です!どう見ても貴族には見えません!とフェリは太鼓判を押してくれたが、果たしてそれは褒め言葉なのだろうか。
待ち合わせ場所に着くと、そこには既にランスロット様と思しき男性が佇んでいた。
「おはようございます、お待たせして申し訳ありません」
「待って待って」
流石にランスロット様と呼ぶのは問題だろうと思って口にしなかったのだが、他にも何か問題があったらしい。
「まず敬語は使わないで。軽い感じの敬語なら使ってもいいんだけど、きっと上手く使えないと思う。それなら元々タメ口の方がいい。後名前なんだけど、今日はランスって呼んで、様はいらない。君のことはリーナって呼ばせてもらうよ」
「分かりました、じゃなくて、分かったわ。今日はよろしくね、……ランス」
タメ口はともかくいきなり愛称で呼ぶのは正直抵抗があったが、今日は平民の恋人同士という設定のため仕方がないと割り切る。
「まだ少し硬すぎるけど仕方ないか。ああそうだ、今日の君もすごく可愛い。そこらを歩く男が皆振り返りそうだ」
「ランスが服を見立ててくれたからよ、ありがとう。ランスもすごく素敵よ」
「ありがとう。いやぁ本当によく似合ってる。他の男に見せたくないけど仕方ないな」
まるで恋人のようなことを言われて顔が熱くなる。恋人設定であることで、意識がそう向いてしまっているのかもしれない。それはそれで本物っぽくなるので良いのだろうが。
顔を赤くした私を見てランスロット様は一瞬目を瞠り、そして顔を逸らした。その耳が少し赤い。
「わっ私も他の女の子に今の貴方を見せたくないわ!」
その言葉は意識したものではなく、かといって完全なる無意識かというとそうでもない。
とうとうランスロット様は片手で顔を覆ってしまった。
「ちょ、もうやめて……。ほらもう行くよ」
もう片方の手でランスロット様は私の手を握った。そうして指を絡めてくる。
「ら、ランス!」
「恋人なんだから」
狡い。そう言われてしまえば抵抗できなくなるのが分かっていて言っている。
因みに私は彼とは幼い頃にさっくり恋人になったので、普通の恋人同士というのを知らない。つまり例えば恋人になりたての頃に手も繋がないようなよそよそしい期間があることも知らなかったのである。そして平民の恋愛など当然全く知らない。そのため、私はランスロット様の言う通りにするしかなかったのだ。
最初こそお互い照れてまともに会話もできなかったが、少し歩いて一つ目のケーキ屋に入る頃にはパーティーのときのように、あるいはそれ以上に親しく話せるようになっていた。
「まあ、なんて美味しいの!こんなお店があるなんて初めて知ったわ!」
「そりゃあそうだね。俺達の街の店が美味しいのは当然だが、それに勝るとも劣らないだろう?美味しい店はまだまだあるからな」
「この地域もなかなか侮れないわね!」
私が感心するとランスロット様は得意げに笑う。ランスロット様の功績ではないのだがその辺は黙っておこう……。
ケーキ屋の後は露店のクレープに舌鼓を打ち、早めの昼食にすることになった。
「おすすめはたらこパスタだよ」
「たらこ、パスタ……」
たらこは知っている。パスタも知っている。どちらも好きだ。でもたらこパスタ?
パスタなんてカルボナーラとかジェノベーゼとかボロネーゼとか、そういうものしか食べたことがないし、そもそもたらことパスタが合うとか信じられない。
私は穴が開きそうなくらいメニューを見つめ、そしてちらりとランスロット様を見上げた。満面の笑みだった。
確実にたらこパスタを注文すべき場面だ。しかし!それとこれとは別なのだ!どうしてもたらこパスタにすると言えなかった。
「うん、分かった。俺はイカ墨パスタにしようと思っていたけど、スタンダードなやつにするよ。君がたらこパスタを注文して、無理だったら交換すればいい」
イカ墨パスタ。私の口元がひくりと痙攣する。それは下手物ではないのか。勇者すぎないか。
しかしランスロット様は本当はイカ墨パスタが食べたいのだ。
「……っ、分かった、私はたらこパスタにするわ。ランスはイカ墨パスタにして。スタンダードなものなら家で食べられるもの。折角来たのだし、ランスがお勧めするなら美味しいに違いないから」
「うん、前食べたらすごく美味しかった。ならそうしよう」
ランスロット様は私の気が変わらないうちにと思ったのか、即座にウェイターを呼んで注文を済ませた。非常に満足そうな表情である。
してやられた感はない。明らかな誘導に乗っただけだから。ただ折角下町に来たのだから食べたことのないものを食べたいというのも本心だった。
運ばれてきたたらこパスタに目が釘付けになった。思ったより美味しそうに見えたからだ。
恐る恐る口に運ぶと、見た目以上の味だった。
「美味しい……!」
「でしょ?イカ墨パスタ、まだ口つけてないから食べる?」
「いやいいです」
流石にイカ墨パスタは嫌だった。黒いパスタとかいくら美味しくても絶対食べたくない。食わず嫌い?それがどうした。嫌なものは嫌なのだ。
ともかくたらこパスタは非常に美味しかったので我が家の料理人に頼んでみようと思った。因みにランスロット様はイカ墨パスタに大変ご満悦だった。
たらこパスタを書きたかったわけじゃない。




