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知らぬが仏、言わぬが花。


「まあ、素敵ですわね!まだできたばかりのお店を選ぶということはきちんと調べているということですもの、ユーステス様はリーシャ様を本当に大切にしていらっしゃるのね!」

「確かにとても大切にしていただいていますわ……」


 リーシャは顔を真っ赤にして俯く。しかしぱっと開かれた扇で隠されたその口元が緩んでいることくらい、見なくても分かるというものだ。

 それでも私は微笑を崩さない。貴族として当然、しかし微笑をキープするのはそれが理由ではなく、私のなけなしのプライドだ。


「リーシャ様が幸せそうで良かったわ。それで、何故リーシャ様を探していたかなのだけれど、そのお店でお茶会をしましょうというお話になっているの。折角だから元第一の五人でどうかしらと思ったのよ」

「素敵です!卒業以来五人でお話する機会はありませんでしたものね。是非ご一緒させて下さい」

「良かったわ。では私が主催で開くわね。招待状はこちらから送らせていただきます。現時点で予定のない日があれば教えていただけるかしら。皆さん婚約等でお忙しいでしょうから、ある程度の擦り合わせはしておきたいわ」


 本来お茶会とは主催者が日時を決めるものである。しかしパーティー等でそういう話になったときは、その場で決めて改めて招待状を送るということが多い。折角なら皆が参加できる日を選んだ方が良いからだ。

 やはり皆婚約者選定のための顔合わせなどでそれ程自由な日がない。しかし上手く全員が参加できる日が今月中に見つかった。


「上手く決まってよかったですわね!リーシャ様、折角ですからユーステス様とのお話も聞かせて下さいませ!」

「あら、私の話も聞いて欲しいわ。最近はヴァル様とも会えているのよ、本当に格好良いのよ……!」

「ふふ、アンスリア様も殿下のことが大好きですものね。沢山聞かせて下さいね」

「勿論よ」


 アンスリア様は私を見なかったけれど、それは本音でありつつも確実にフォローだった。きっと当日もリーシャの話よりアンスリア様の話の方が多いのだろう。

 プライドの高い令嬢ならばそんな気遣いは不要だといきり立つに違いない。だが未だ立ち直りきれていない私にとっては非常に有難いことだった。

 私がそのフォローを必要としているかどうか、アンスリア様はきっちりと判断している筈だ。何故なら、人の機微に敏いアンスリア様がそんな無神経なことをする訳がないからである。

 その後はアンスリア様が上手く話題を逸らしてくれたため、私も会話に興じることができた。


⁑*⁑*⁑


「何ですって?」


 翌日届いた二枚の釣り書きを前に、私は顔を顰めた。


「漸くまともな縁談が来たな。それで、どうする?」


 父が私に釣り書きを押し付ける。その表情がやや柔らかくなっているのを私は見逃さなかった。

 つまり、どちらかでいいんじゃないか?ということである。


「どうって……急に言われても困ります」

「けれど二人とも同じクラスだったんだろう?第一は良い人ばかりだったと言っていたじゃないか」


 不思議そうな顔をして父が首を傾げる。意味が分からないとでも言いたげなその表情に、つい顔が引き攣る。


「そうですけど」

「昨日のパーティーで婚約者がいないことが分かったからじゃないか?次の候補はリーナだったということだろう」

「……そうなんでしょうね」


 おそらく昨日彼らが自分から私に話しかけてきたのはこの布石だったのだろう。


「まあいい。取り敢えず二人とも手紙を送って来ているから読んでから考えなさい」

「……はい」


 どうやら父の中で私がどちらかに嫁ぐのは決定事項のようだ。

 実際私もその方向に傾いているが。

 父から手紙を受け取って自室に向かう。何か言いたげな母には気付かないふりをしておいた。まずは手紙だ、母との話は後の方がいい。手紙の内容を踏まえて話をしたいからだ。


「ユリウス様と、ランスロット様か」


 私がそこそこ話したことのある二人だ。結婚相手として悪くないと思うし、良い家庭が築けるだろうなとも思う。家格も良い。

 知らない誰かよりも高位貴族として限りなくまともだと確信している二人を選んでしまうのは当然だ。

 どちらにすべきか、と手紙を開く。まずはユリウス様だ。


『こんにちは。先日はお会いできて嬉しかったです。

 突然婚約を申し込んだこと、驚いていらっしゃるかと思います。

 ですが、カルメリーナ嬢とならきっと良い家庭が築けるのではと思っています。

 身分の差は全く問題ありません。第一クラスを貫いた貴女ならば、アストレア侯爵家は全面的に歓迎すると約束しましょう。

 卒業パーティーでも言った通り、私は次男であるため爵位は継げません。領地経営に尽くす陰の人となることでしょう。しかし侯爵家の名誉をかけて、十分な生活を保証します。

 貴族の結婚は愛が伴わないことが殆どです。けれど私は貴女と信頼関係を築き、貴女を幸せにすると誓います。いつか愛し合える日が来ると信じています。

 一クラスメイトであった私を急に夫として受け入れるのは不安であることでしょう。一度夫候補としてお会いしませんか?』


 という内容が貴族の言い回しで書かれている。まあ、予想通りの内容だ。

 普通の求婚の手紙、つまり何の変哲もない手紙。それはある意味真面目であることの象徴。

 本人の人柄を見ても夫として上手くやっていけるだろう。

 次にランスロット様の手紙を開いた。


『こんにちは。あれから変わりはない?

 この前問題ないって言ってた理由はこれだよ。旦那候補としてのデートに問題があるはずないよね。

 こういう手紙には本当なら抱負とかを書くものなんだろうけど、そういうのは会ったときに話すことにするよ。

 とにかく今度一緒に下町のスイーツを食べよう。次のカップルデーは丁度10日後なんだけど予定はどう?

 返事を待ってるね。』


 という旨だ。こちらも貴族の言い回しは用いられているが、非常に軽い。とにかく軽い。しかしそういう人だということは既に分かっている。実は結構人の機微に敏くて気遣いのできる人だということも。

 彼と結婚すればきっと楽しいんだろうな、とは思う。


「取り敢えず二人に返信しないと」


 私は便箋とペンを手に取った。

 便箋の色は内緒だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・いい釣り書きが届いてホッとしました。でないと、つらすぎて… [一言] ヒロインの貴族社会ならではの試練は続きそう…。
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