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記憶の扉をノックして  作者: howari
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太陽の光を飛行機の影が隠した。

どこまでも遠く透き通った空に手を伸ばし、思わず目を細める。



彼にやっと会える。


この日をずっとずっと待ち侘びていたんだ。


夢を叶えた彼がやっと帰ってくる。



自動ドアが開いて、私は空港へと足を踏み入れる。鼓動が早くなって周りのざわめきなどまるで耳に入ってこない。



「もうすぐ着くよ」



スマホを見ると自然と口元が緩み、早足になって行く。私は慣れないヒールの靴で駆け出した。



◇◇



恋人のひかりに出会ったのは、勤務先のパティスリーだった。私は見習いパティシエとして働いていた。毎日朝早くから、夜遅くまで。好きな仕事だったけど毎日怒られるし、正直精神的に参ってきていた。

そんな時、彼に出会ったのだ。



「母の誕生日用に」



スーツを着た彼は、女手一つで育ててくれた母親に誕生日ケーキを買おうとしていた。優しい人だなと思った。私は彼からお母さんの好みを聞いて、フルーツたっぷりのタルトを選んであげた。

「ありがとう」

そう言った彼の笑顔は、太陽の様に優しく暖かいなと感じた。



次の日、彼は私にお礼を言いに来てくれた。

それから彼は良く来てくれるになり、その度にお母さんへのケーキを買って帰った。次第に私は、彼が来てくれるのを楽しみに待つ様になった。


そして私は、彼に恋をしてしまった。


何回か会うようになり、私たちは……



◇◇



私は小走りで駆けていた。彼が帰ってくる到着ロビーへと。胸を高鳴らせながら、彼が前日に言っていた言葉を思い出す。



「そっちへ帰ったら話がある」



何だろう。楽しみだな。


慣れないヒールが痛い。久しぶりに会えるからって新しく買ったサーモンピンクのヒール靴。靴を脱ぐとアキレス腱のところに血が滲んでいた。



「痛いな……」





「危ない!」


振り返ると大きなスーツケースが勢いよくぶつかって、私は強く床へと倒れ込んだ。

頭を強く打ったみたいで、景色がぐらりと歪んでいる。



「大丈夫ですか?申し訳ありません!」

子供連れのお母さんが私に頭を下げていた。



「うちの子がふざけてスーツケースを離したんです!お怪我はありませんか?」

 


私はくらくらした頭で起き上がり、「大丈夫です」と答えた。そのまま近くの椅子へと腰を掛けた。


気持ち悪いな……視界が歪んでいる。




あれ?

どうしてこんな所に居るんだっけ?

分からない。



ポケットに手を入れるとクッキーが入った袋が2つ入っているのを見つけた。1つは赤いリボンで可愛くラッピングしてあるみたいだ。 



2つ?

どうして……




その時、ある声が鼓膜にスッと入ってきた。






「花!」




 

振り返って見えた笑顔に見覚えはなかった。

 


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