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79 コンラート 13

「うん、だって、お姉さまは特別だもの」


コンラートは慌てふためいている私に構うことなく、当然の話とでもいうかのように、真面目くさった表情で見返してきた。


「もちろん、今までだってお姉さまは僕の特別だったけれど、2日前に帰ってきたお姉さまは、丸っきり別の何かになっていた。お姉さまの体の中心から、常にきらっきらの光が湧き上がってくるような、そんな感じ。だから、僕は我慢できなくなって、お姉さまにお菓子を作ってもらったの」


「ほわぁ!?」

コンラートの説明には一部理解できないところがあったけれど、最後の部分には思い当たることがあったので、思わず声を上げる。

ええ、覚えているわよ! コンちゃんが小さい体に似合わないほど、大量のお菓子を食べたことは。


晩御飯の後だというのに、食べすぎると思っていたのよねと思い出す私の前で、コンラートが話を続ける。

「……お姉さまのお菓子を食べれば食べるほど、息をすることも、体を動かすことも、どんどん楽になっていくなと不思議に思っていたけれど、ラカーシュの話を聞いて分かったよ。僕は、お姉さまのお菓子で、獣から人間に変わったんだ」


「ひゃあああああ!」

なんてこと、コンラート本人もアイテムの価値を認めてしまったわよ!


でも、可愛いコンちゃんがそう言うのであれば、たまたま偶然に、可笑しなお菓子が出来てしまったということが、あるのかもしれないわね。


そう思った私は、この際だからと、もう1つの疑問を口にする。

「コンちゃん、お姉さまはもう一つ分からないことがあるの。どうやらお姉さまの瞳には三重印が入っているみたいでね、『四星』、『東』、『ウィステリア公爵家』なのですって。これはコンちゃんと関係があるのかしら?」


「…………」

私の言葉を聞いたコンラートはびくりと体を強張らせると、目を見開いて固まった。


普通の声を出したつもりだったけれど、責めているように聞こえたのかしらと心配になった私は、意識して優しい声を作る。

「『四星』と『東』の印が入っているから、『東星』の仕業なのかしらと思っていたのだけれど、先ほど『東星』らしき人とたまたま目が合った時に、関心を持たれなかったのよね。コンちゃんの話からも、『東星』は私のことを識別していないということだったよね?」


私の問いかけに対し、答えたくないのか答えられないのか、コンラートが返事をしないため、無意識に助けを求めるかのようにラカーシュを見つめると、彼はゆっくりと口を開いた。


「……『ウィステリア公爵家』の印について考察すると、サフィア殿を始め、ジョシュア殿やオーバン殿が、君の瞳に入っているのは『魅了』の術者の印と言っていたよね? 術を行使できる者がダリル殿しかいないという現状から鑑みると、ダリル殿自身が印を付けたと考えるのが妥当だろう。無意識下の行動かもしれないが、ダリル殿はルチアーナ嬢を惹き付けたくて、少しずつ術を発動させていたのだろう。そして、ダリル殿の身体が人間の形を取ったことで魔力と身分が戻り、『ウィステリア公爵家』の印が刻まれたのだと思われる……特に、公爵家の紋が遅れて発現したことからも、そう推測されるのだが」


「なるほど」

突然の質問だったにもかかわらず、すらすらと答えるラカーシュを見て、さすが学園の優等生だわと思う。

そして、ラカーシュから理路整然と説明されると、その通りのような気がしてくる。

話を聞いていたコンラートも同じように感じたようで、目の前でしょんぼりと俯いた。


「……そうかもしれない。僕はお姉さまが大好きで、お姉さまにも僕のことを好きでいてほしかったから、前のお母様にしたように、無意識のうちに『魅了』を発動していたのかもしれない。……多分、したのだと思う。お姉さま、ごめんなさい……」

「だ、大丈夫よ、コンちゃん! お姉さまは『魅了』が効きにくいみたいだから! だって、コンちゃんも好きだけれど、お兄様も好きだからね。コンちゃんだけを好きになる特殊魔術には、かかっていないわ」


落ち込んでいたコンラートを慰めようと言葉を続けると、どういう訳かラカーシュがふっと寂しそうな表情をした。

けれど、すぐに目を伏せて感情を隠される。


……まあ、彫像様は最近、表情が豊かだわね。

それとももしかしたら、親しくなったらどんどんと感情を見せてくるタイプなのかしら。


そう疑問に思う私の前で、ラカーシュは目を伏せたまま、平坦な声で続けた。

「説明を続けると、『東星』を暗示する『四星』『東』の2つの印は、恐らく『東星』本人が付けたものではないはずだ」


「えっ!?」

そこは『東星』から直接印を付けられたと思っていたので、驚いて声を上げる。


けれど、ラカーシュは顔を上げると、私を見つめて小さく首を横に振った。

「本人が付けたのだとしたら、ルチアーナ嬢と面識があるはずだから、『東星』がルチアーナ嬢を認識できないことの説明がつかない。これまでに『東星』がルチアーナ嬢に対して干渉出来たことといえば、せいぜい夢の中くらいだったけれど……あれだって、契約相手のサフィア殿を通したお遊び程度の話だ。だから、『東星』はルチアーナ嬢を認識できていないし、干渉できないのだと思われる。つまり、……『四星』『東』の2つの印はダリル殿、もしくはサフィア殿経由で刻まれたものと推測される」


「ダリルかお兄様経由……」

何だか不穏な話になってきたわねと思いながら、ちらりとコンラートに目をやると、彼は真っ青な顔で両手を握りしめていた。


ラカーシュが話を続ける。

「ダリル殿とサフィア殿には、『東星』との契約紋が刻まれている。恐らく、『東星』の契約相手が『魔法使い』を認識したら、契約相手から『魔法使い』に『東星の印』を付ける細工をしていたのだろう」


「ああ!」

そこまでラカーシュの推測を聞いた私は、思わず声を上げた。


多分、ラカーシュの言う通りだ。

そして、サフィアお兄様も同じ結論に達したのだろう。

だから、私の瞳に『東星』の印が入ったのは自分の責任かもしれないと考え、きっと抵抗せずに攫われたのだ―――


私の表情を見たラカーシュは、私の考えていたことが分かったようで、慰めるかのように微笑んだ。

「ルチアーナ嬢、全ては私の推測だ。確信的なものは何もない」

「でも! きっとそれでお兄様は攫われたのだわ! もしかしたら、自分から捕らえられたのかもしれない……」


思わずそう言い返した私のドレスをコンラートがぎゅっと握りしめてきた。

「……多分、サフィアではなく原因は僕だ。だって、僕とカドレアとの契約は成立していないもの。僕はまだ命をもらっていないから仮契約の状態で、だから、僕経由で付けた印をカドレアは正しく感知できなかったんだ」


真っ青な顔で言葉を絞り出すコンラートをちらりと見ると、ラカーシュは冷静に言葉を続けた。

「あるいは、サフィア殿の契約が終了しているのかもしれない。『東星』との契約は終了間近だと言っていたから、現時点では既に終了していて、もはやサフィア殿のつけた印を『東星』が辿れないのかもしれない。……もしくは、契約者経由の印であれば、『東星』は辿れないのかもしれない」


元気付けるためのラカーシュの言葉に対し、コンラートはぶんぶんと首を横に振った。

「どちらにしても、サフィアの元に行かないと! サフィアは恐ろしく強いけど、東星カドレアにはきっと敵わない。彼女は永遠を生きる凶星だから。そして、カドレアは『魔法使い』について、これ以上はないというほど本気だから、サフィアに容赦しないと思う……」


「コンちゃん……」

コンラートの言葉を聞いた途端、お兄様への心配が蘇り、私は困ったように彼を見つめたけれど、私が願い事を口にするよりも早く、コンラートが決意したような表情で口を開いた。

「お姉さま、僕がカドレアの元に案内するよ!」


「えっ? い、いいの!?」

先ほどコンラートは、『東星』に逆らうことは出来ないと言っていたはずだ。

間違いなく、コンラートは無理をしているのだろう。


けれど、そんな私の心配をよそに、コンラートはきっぱりと言い切った。

「うん。僕はずっと何もしない自分が嫌いだったのに、またもや『カドレアには逆らえない』と言い訳をして、何もしないところだった。僕は変わりたいんだ!」


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どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! >落ち込んでいたコンラートを慰めようと言葉を続けると、どういう訳かラカーシュがふっと寂しそうな表情をした。 けれど、すぐに目を伏せて感情を隠される。 ……まあ…
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