288 緩衝地帯で一休み? 4
「カンナ侯爵領訪問は、元々私がお誘いした件ですよね。あの、私の兄が何か言いましたか?」
カンナ侯爵領に行くことは、私がカールに提案したものだ。
四星の一星である南星が、『陰の魔の★地帯』に侵入できる者を探していたため、その候補者としてカールが適任だと考えたからだ。
けれど、途中で反省したのだ。
カールは私が下心なく彼に近付いたと思っているから、そうでないことを知ったら、裏切られたと思ってショックを受けるんじゃないかしら、と。
だから、カンナ侯爵領行きの提案を取り消したのだけれど、そもそもこの件は事前にカールから婉曲にお断りされていた。
それがここにきて、どういうわけか本人が自ら行きたいと言い出したのだ。
カールの心変わりの理由として思い当たることは、サフィアお兄様しかない。
兄にカールを預けてからまだわずかな時間しか経っていないけれど、きっと兄が何か言ったのだわと考えながらカールの答えを待っていると、彼は慌てて否定してきた。
「い、いや、違う! サフィア殿はオレの背中を押してくれただけで、決断したのはオレ自身だ」
「……そうなんですか?」
カールは本心からそう思っているのかもしれないけれど、兄のことだから上手に誘導して、カールがそう考えるよう仕向けたんじゃないかしら。
疑うような視線を向けると、カールは激しい調子で反論してきた。
「ああ、そうだ! そもそも君は誤解している。以前、君から誘われた時、すぐに返事をしなかったのは婉曲な断りではない。一緒に行きたかったが……オレなんかが付いていっても君は楽しめないだろうし、そもそも君の誘い自体が社交辞令で、本気にしてはいけないと思ったんだ」
「私は思ったことしか言いません」
まさかそんな理由で断られたとは思いもしなかったため、びっくりして言い返すと、カールはもう一度尋ねてきた。
「だったら、オレが同行しても問題ないな? 君たちと一緒にカンナ侯爵領に行ってもいいのだな?」
カールが付いてきてくれるなら嬉しいけど、私が自分の提案を取り消したのは、私に下心があったからなのよね。
「実は私には告白することと、謝罪することがありまして……私がカール様をお誘いしたのは、下心があったからなんです。本当にごめんなさい! 私はカール様にカンナ侯爵領でしてほしいことがあって、一緒に来てほしいとお誘いしました」
こうなったら全て告白するしかないと頭を下げると、カールは普段通りの声を出した。
「それは当然のことだ。下心がなければ、誰もオレに近付くはずがない」
その言葉を聞いて、驚いて顔を上げる。
「いえ、もちろん違いますよ! カール様はとても素敵で魅力的ですから、下心なくただ一緒にいたいと思う生徒はたくさんいます!!」
「……ああ」
カールは頷いたけれど、私の言葉を信じているようには見えなかった。
どうやら私が社交辞令を言ったと思っているようだ。
カールの考えを変えるのは一朝一夕にはいかないから、ここでどれだけ説明しても分かってもらえないでしょうねと、諦めて説明に戻る。
「……それで、カール様は私が下心なく近付いたと思っているから、そうでないことを知ったらショックを受けるだろうなと考え、誘いを取り消したんです」
「君は私を思いやってくれたのだな」
カールが嬉しそうに頬を染めたので、私は慌てて否定する。
「いえ、その前に私はカール様を利用しようとしたんです」
言葉にした後で、はっきり「利用する」と言われるのは嫌だろうなと気付いたけれど、カールは嫌悪感を露わにすることなく、嬉しそうに微笑んだ。
「先ほども言ったが、それは当然のことだ。私に利用する価値があると思ってくれて嬉しいよ」
「まあ」
前向き、と言っていいのか分からないけど、カールは私が彼を利用したことすらプラスに捉えたわよ。
何てことかしらと二の句が継げないでいると、一部始終を見ていたセリアがぼそりと呟いた。
「カール様は強敵そうですね」
すかさずユーリア様とダリルも呟く。
「ええ、新しいタイプだわ」
「どうしてお姉様の周りにはこうも次々に、きらきらした男子が集まるんだろう」
『一体何が原因かしら』とばかりに、3人がじっと私を見つめてきたため、止めてちょうだいと手を振る。
「あの、皆さんの期待に添えずに申し訳ないのですが、私の周りに自然にきらきら男子が集まるような、そんなすごいことは起こりませんよ。……色々な偶然が重なったり、助けを求めたりした結果、きらきら男子とお知り合いになったりはしているかもしれませんが」
そういえば、この間の王宮舞踏会ではたくさんの男性と踊ったけれど、全員がきらきら男子だったわ。
そう思ったため、あくまで結果としてきらきら男子が集まることがある、と最後の一言を付け足す。
すると、セリアとユーリア様はおかしそうな笑みを浮かべた。
「そうですね。たまたま結果として、お姉様の周りにきらきらした男子が集まるだけですね」
「ふふふ、偶然というにはすごい確率よね。この王国でも指折りのきらきら男子が全員集まっているのじゃないかしら」
最後にダリルが期待するように目を輝かせる。
「ということは、お姉様と一緒にいると、僕もきらきら男子になれるのかな」
ダリルったら何て可愛いことを言うのかしらと、私はよしよしと彼の頭を撫でた。
それから、私はカールに向き直る。
「カール様、もしもカンナ侯爵領に一緒に来ていただけるのであれば、私はすごく嬉しいです。兄と一緒に歓待しますわ」
勢い込んで言うと、カールはふっと小さく笑った。
「サフィア殿と同じことを言うのだな」
「えっ」
「いや、何でもない。それでは、ぜひご一緒させてもらおう」
そう言ったカールは本心から一緒に行きたがっているように見えたので、私は「お願いします」と頭を下げたのだった。







