287 緩衝地帯で一休み? 3
カールの言葉を聞いて、そうだった、ここにはもう一人、大勢の人とのイベントを楽しむ機会を逃してきた人物がいるんだったわと思い至る。
カールに視線をやると、彼は失言したとばかりに片手で口元を押さえていた。
彼の声には憧憬の気持ちが滲んでいたので、本音が出てしまったことが恥ずかしかったのだろう。
聞こえなかった振りをするのも一つの方法よね……と思ったものの、聖夜に自分だけが孤独だと感じてほしくなくて、誰にともなく話し始める。
「100%私が原因なのですが、ここ何年もの間、我が家では家族間の交流が断絶していました。それから、セリア様とユーリア様と知り合うまで、私にはお友達がいませんでした。ですから、私にとっても、親しい人たちと一緒に食事をするようになったのは最近なんです」
「えっ」
カールが驚いたような声を上げたため、私は彼ににこりと笑いかけた。
「カール様の言うように、家族での食事はいいものですね。私もやっとそのことを実感できるようになりました」
もちろん私はカールほど悲惨な体験はしていないし、家族関係が断絶していたのも私自身が原因だから自業自得だ。
けれど、それでもずっと問題ない生活をしていたわけではなく、寂しい経験だってしたことがあると伝えたかったのだ。
とはいえ、さすがにカールの体験とは差があり過ぎるわねと申し訳なく思っていると、なぜかセリアが話を引き取った。
「奇遇ですね。実のところ、私の家も訳ありでして、家族は腫物を触るように私に接してきたんです。加えて、お友達を作っても仕方がないと、当時の私は頑なになっていたので、親しい相手がいませんでした。今思えば、私は一人で死んでいく準備をしていたんですね」
セリアがずっと秘密にしていた個人的なことを話したためびっくりする。
それはカールも同じだったようで、ぎょっとしたようにセリアを見やった。
「し、死んでいく準備?」
セリアが披露したのは、何の問題もないように見える筆頭公爵家の令嬢が口にする内容ではなかったため、カールは目を見開いて絶句したけれど、彼女は何でもないとばかりに頷く。
「ええ、私は死に至る運命の下に生まれたのだと思い込み、勝手に人生を諦めていたんです。けれど、ルチアーナお姉様が私を救ってくれました。ですから、私も晴れて家族や友人方と楽しく食事ができるようになったというわけです」
「……そうか」
カールはほっとしたように短く返すと、疲れたように俯いた。
恐らく、自分以外の順風満帆に見える者たちも、大なり小なり悩みを抱えているのだと気付いて、複雑な思いを抱いたのだろう。
そんなカールを見て、ユーリア様は理解を示すように頷いたものの、言葉を発することはなかった。
ユーリア様の兄2人は非常にやんちゃだから、彼女だってこれまで色々な苦労をしてきたはずだ。
けれど、私たちの話を聞いた後では大変さが不足していると考え、苦労話を披露するのは止めたのだろう。
こういうところがカッコいいのよねと思いながら、ユーリア様を見やる。
すると、私の隣に座っているダリルが自分を見てくれとばかりに服を引っ張ってきて、哀れっぽい声を出した。
「僕は特別でおかしなルールを持つ公爵家に生まれたんだ。そのせいで、僕が生まれた途端、母は僕にかかりきりになり、3人の兄たちを放置した」
それはダリルの言う通りだったのでしんみりしていると、彼は話の大部分を割愛してきた。
「そんなわけで、僕の家はぐちゃぐちゃになっちゃったんだ。だから、僕は公爵邸を出て、ダイアンサス侯爵家でルチアーナお姉様と暮らしているんだ」
ダリルは悲しそうに両手で目元を押さえたけれど、彼の話から受ける印象と事実は少し違っているんじゃないかしら。
というのも、実際にはウィステリア公爵家の不和は解消されたし、公爵家の全員がダリルが公爵邸に残ることを希望したのよね。
それなのに、ダリルがだらだら生活をしたいと言って、自主的にダイアンサス侯爵邸で暮らすのを決めたのだ。
ダリルったら、同情を引くために少しばかり話を盛ったわね。
そう呆れていると、次は自分の番だと思ったのか、カールが口を開いた。
「……オレは、思い出作りのつもりでこの国に来た。母国でオレに関わる者はいなかったし、ほとんど何も許されなかったから、ここでやることのほとんどが初めてのことばかりだ。だから、何だって興味を引かれるし楽しいが、何をやるにも慣れていないから、迷惑をかけたら申し訳ない」
カールは大事なところをぼかしたけれど、それでも彼が大変な状況にいることを皆は読み取ったようで、悲しそうに眉尻を下げる。
私も同様に眉尻を下げながら、言葉にしたことでカールの悲惨さがより浮き彫りになってしまったわと考えた。
私たちが抱えていた問題は、それがどれほど大きなものであったとしても、全て解決している。
一方、カールはそうでなく、現在進行形で問題を抱えているのだ。
そのことを全員が理解したようで、沈鬱な雰囲気が漂ったため、私は思わず口を開いた。
「あの、すみません。私がおかしなことを言い出したので、不幸の告白大会みたいになっちゃいましたね。その……次に集まった時は、幸福の告白大会をしましょうね」
カールが寂しそうだったため、同調したくて不幸を告白したけれど、どうせなら幸せな話をした方が楽しいわよね。
「……ああ」
カールが同意したところで、彼のフォークがおかしな音を立てた。
視線をやると、彼が食べていたターキーの中から、丸いボールのようなものが出てきたところだった。
「あら」
「まあ」
セリアとユーリア様が楽しそうな笑みを浮かべたところで、それが何か分かっていない様子のカールが手に取り、片手で握り締める。
すると、ボールが2つにぱかりと割れ、中からきらきらと輝く金色の星が現れた。
「わあ、きらきらのスターだ!」
聖夜のイベントに参加するのが初めてのダリルも、カール同様に金色の星の意味が分かっていないようだったけれど、それでも嬉しそうな声を上げる。
一方のセリアは、隣に座るカールに丁寧に説明していた。
「カール様はとても運がいいですわ。料理の中に、この『ラッキースター』が稀に混じっているんです。このスターを手に取った者は、同席した人たちに1つのお願いごとができるんです」
「そうなのか」
カールは顔を上げて私を見つめてくると、確認するように尋ねた。
「オレにこのターキーを切り分けてくれたのは、ルチアーナ嬢だったな」
「ええ」
「……そうか」
カールの表情がふっと緩む。
『ラッキースター』入りのターキーだと知りながら、私がその部分のお肉をカールに切り分けたのだと気付いたようだ。
カールは何かを決意したようにぐっとこぶしを握り締めると、私にむかってはっきり言った。
「だったら、オレの望みをルチアーナ嬢に叶えてほしい。オレは……ルチアーナ嬢とカンナ侯爵領に行きたい」
「えっ」
思ってもみないことを言われた私は、目を丸くしてカールを見つめたのだった。







