267 ときめきの聖夜祭 1
そろそろ聖夜祭が開催される時刻になったので、私はマリアとドナにお礼を言うと、寮を後にした。
今回の聖夜祭では、領地戦がメインイベントになっている。
そのため、聖夜祭と領地戦は、開始と終了が完全に一致する運びになっていた。
聖夜祭の間中、生徒たちは領地戦を楽しみながら、気分に応じてゲームの対象外となる非領土エリアを訪れ、聖夜祭ならではのイベントーーー『聖夜の特別な食事を提供する食堂』『過去を振り返って話をする談話室』『プレゼントを交換する広間』など―――を自由に体験することができる仕組みになっている。
ちょっと考えただけでも、楽しいことが満載のイベントだ。
「あー、わくわくしてきたわ! 聖夜祭の時間は数時間しかないから、やりたいことが全部できるかしら」
笑みを浮かべながら歩いていると、目的地である噴水がある場所に到着した。
兄と私はプリンの中からミニチュアを引き当てたため、チームの代表になっている。
そのため、少なくともゲームスタート時には、できるだけ領地内の目立つ場所にいた方がいいだろうと皆に言われ、戸外に来たのだ。
指定された噴水には兄が先に来ており、私を見ると驚いたように動きを止めた。
けれど、それは一瞬のことで、兄はすぐにいつも通りの笑みを浮かべると歩み寄ってくる。
それから、片手を差しだしてきて私の手を取った。
「これは……本当にプリンセスの登場だな」
兄は称賛するように私の全身を眺めると、ふわりと美しく微笑んだ。
「何とまあ、私の撫子の妖精はこれほどまでに美しかったのか」
それから、兄は私の手を取ったまま顔を近付けてくると、邪気のない表情を浮かべる。
「お前の騎士に選ばれた私は幸運だな」
それはあまりにも謙遜が過ぎる言葉だった。
なぜなら光り輝いているのは兄の方で、そんな兄に守ってもらう私の方が幸運なのは、間違いないように思われたからだ。
兄が模しているのは、恐らく聖騎士だろう。
そのため、兄はきらきらと光を発しそうなほど神々しい騎士服を身に付けていた。
白色をベースにした煌びやかな騎士服の上から、色鮮やかな長いマントを羽織っている。
騎士服はきっちり首元まで詰まっているのだけれど、それが逆にストイックで、隠しきれない色気が漏れ出ていた。
兄にとって、魔術師は最高の職業だと思っていたけれど、もしかしたら騎士になったとしても最高だったのかもしれない。
そう思ってしまうほど、兄の聖騎士姿は堂々としており、魅力的だった。
そして、そんな兄の周りには、不思議な光景が広がっていた。
大きさがバラバラな大小の丸い水球がふわふわと浮遊しており、陽の光を受けてきらきらと輝いているのだ。
兄は水魔術の使い手だ。
だから、恐らくこれは、兄が魔術で操作しているのだろう。
普通の術者だったら、そもそもこんなことはできないし、できたとしてもすぐに魔力が枯渇してしまうはずだ。
けれど、兄であれば、聖夜祭の終了時間までこの魔術を行使しても、ピンピンしているに違いない。
輝く水球は得も言われぬほど美しく、聖夜祭という非日常的なイベントの特別感をこれでもかと演出していた。
そんな幻想的な光景の中心に、最上級の麗しい顔とスタイルを持つ美形が立ち、神々しい騎士服を身に付けて微笑んでいるのだ。
女子生徒を始め男子生徒ですら兄には近寄りがたいと、皆から遠巻きにされるのは仕方がないことだろう。
「お兄様のような騎士が守ってくれるのであれば、誰一人私を獲得することはできないでしょうね」
相手が誰であれ、兄から私を奪い去るイメージが湧かなかったため、思わずそう呟く。
すると、兄は困ったように微笑んだ。
「プリンセス、私はただでさえお前をずっと手元に置いておきたい気持ちでいるのだ。誘惑するようなことを言うものではない」
兄の表情も声も非常に穏やかなものだったけれど、なぜか冗談にならないひやりとしたものを感じたため、私はにこりと笑みを浮かべると無難な言葉を返した。
「私は模範的なプリンセスとして、騎士様に守られていますわ」
「ああ、不埒な輩は、指一本お前に触れさせないと誓おう」
兄の言葉を笑顔で受けながら、この場合の「不埒な輩」とは、どこまで含まれるのかしらと考える。
うふふー、これは考えない方がいい問題ね。
そう思った私は空を見上げた。
ちょうど太陽が沈む時間帯だったため、他の生徒たちも皆、戸外に立つと、沈みゆく太陽を見つめていた。
「太陽が沈んだら、ゲームスタートの合図ね」
私の呟きとともに太陽が沈み切り、辺りが真っ暗になる。
代わりに、頭上できらきらと星が煌めき始めた。
自然の星に見えるけれど、明らかに星の並びがおかしいので、恐らく魔術で操作しているのだろう。
星々の煌めきに目を奪われていると、その中にある一際大きな金色の星がぎらりと輝いた。
それから、金の星は私たちの領地に向かって降ってきた。
「北の星だ!」
チームの生徒たちが大きな歓声を上げる。
生徒たちが見つめる中、金色の星はキラキラと輝きながら、まっすぐ私たちに向かってきた。
「えっ?」
びっくりして目を丸くしたけれど、輝く星は速度を落とすことなく、そのまま降ってくる。
しかしながら、少しずつサイズが縮んでいるようで、私たちの近くまで来た時は、両手で掴めるほどの大きさになっていた。
兄は両手を伸ばすと、戸惑う様子もなく、まっすぐ落ちてきた星を両手で受け止める。
すると、その星はびかりと輝いて、兄の手の中で2つに別れた。
驚いて覗き込むと、星の欠片の一つはティアラに、もう一つは剣に変わっていた。
兄は片手で剣を掴むとくるりと回し、慣れた手つきで腰に佩く。
すると、輝ける長剣を腰に差した立派な聖騎士が完成した。
輝ける聖騎士は私の前に立つと、恭しい手付きで輝くティアラを私の頭に載せる。
私は頭に花冠を被っていたけれど、兄のことだからそれを邪魔しない形で、上手にティアラを重ねてくれたに違いない。
兄はティアラを被った私を満足そうに見つめると、片手を剣にかけて一礼した。
「プリンセス、あなたを全ての誘惑からお守りしましょう。どうかあなたが私のもとに留まりたいと願い、心変わりしませんように」
その途端、チームの全員から歓声が上がる。
「プリンセス! 私たちもプリンセスをお守りします!!」
「ゲーム終了時にも、同じメンバーでここに立つぞ!」
「麗しのプリンセスと騎士に栄光あれ!!」
やんややんやと楽し気に囃し立てる生徒たちを見て、お兄様はどうしてこう皆を引き付け、興奮させるようなことを言うことができるのかしらと感心する。
さすがだわと考えていると、今度は空の天辺から、青色の星が南に向かって降ってきた。
星が見えなくなったところで、遠くから歓声が響く。
恐らく、南チームの誰かが星を受け止めたのだろう。
同じように赤色の星が東に、緑色の星が西に向かって降っていった。
それらを眺めながら、私は兄に向かってこそりと囁く。
「領地を東西南北に分けたのは分かりやすさを優先させたのでしょうし、星を使ったのは聖夜祭ならではの演出でしょうけど、東星や南星と聞くと、どうしても『四星』を思い出してしまいますね。そして、私たちは北チームですが、北星と言えば東星とペアになる悪しき星ですよね」
兄は性格的に、善き星よりも悪しき星の方が似合う気がするから、ぴったりの領地を担当したんじゃないかしらとにやにやしていると、兄がちらりと横目で見てきた。
何か言いたそうな顔をしていたけれど、何も言い返してこなかったので、珍しいこともあるものねと不思議に思う。
きっと、相手にするのが面倒だと思ったのでしょうね。
あるいは、今夜の兄はちっとも悪しき者に見えないから、私の言葉を頓珍漢だと思ったのかもしれない。
分かっていますよ。今夜のお兄様は、慈悲深き聖騎士様ですよね!
そう考えながら麗しい聖騎士様を見つめていると、兄は悪戯めいた表情でにやりと笑った。
「プリンセス、熱い眼差しで見つめてもらうのは嬉しいが、自分の身が可愛いのであれば止めた方がいい。身分違いの恋だと分かっているのに、歯止めが効かなくなりそうだ」
兄の甘い言葉を聞いた私は、半眼になる。
兄は今日一日、このプリンセスと騎士ごっこを続けるつもりかしら。
兄は完全にふざけているし、イベントを盛り上げようとしているのだろうけれど、この手の冗談を言うことが許されないイケメンだということをもっと自覚してほしいわね!
「ほほほ、私は騎士様にそこまで言われるほどのものではありませんわ。ところで、私は領地戦の間、何をしていればいいのでしょうか」
相手にするだけ無駄だと思った私は、兄に今後の行動を質問する。
このゲームのルールを考えると、基本的に他領に行かなければ、何をしていてもいいはずだ。
そうですよね、と確認するように見上げると、兄は綺麗な笑みを浮かべた。
「お前が何をしていればいいかだと? 簡単な話だ。どれほど魅力的な男性が現れたとしても、どれほど口が上手い男性が現れたとしても、決して誘惑されることなく私のもとにいるのだ」
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あと、聖夜祭で「このキャラのこんな格好が見たい!」という希望がありましたら、教えていただければ嬉しいです。参考にさせていただきます。
ぜひぜひよろしくお願いします!!! (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾