表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
276/287

266 聖夜祭前イベント 3

それから、4時間後。

私は他の女子生徒と同じように寮の私室に戻ると、聖夜祭のための衣装に着替えていた。


正確には、凄腕の侍女であるマリアとドナが色々やってくれるのを、逆らうことなく黙って受け入れていた。


色々というのは、入浴から始まり、艶が増すという液体を髪にべたべた塗られ、「どうしてドレスを着る前にプディングを食べたんですか!」と文句を言われた一連のあれこれだ。

「私がプディングを食べたのは、とても美味しそうだったからよ」という至極当然の答えを飲み込むと、私は無心の境地で2人の前に立ち続ける。


実のところ、「お兄様が勧めた大きなプディングを断って、小さなプディングしか食べなかったのよ!」と誇りたいところだったけれど、どうせ褒めてはくれず、「そもそも食べることが間違いです」と叱られることは分かり切っていたため口を噤む。

私も賢くなったものだわと、自分の成長を誇らしく思っていると、2人が満足気な表情で私の前に鏡を運んできた。


終わったのかしらと、何気なく鏡を見た私は、驚きの声を上げる。

「わあ、撫子の花を見つけたわ!」


すると、私の後ろに立つ侍女たちが顔をしかめた。

「撫子の花ではなく、撫子の花の妖精です!」

「ええ、本当にお嬢様は驚くほどお美しいのですから、撫子の妖精そのものに見えます!!」


うーん、相変わらず私贔屓がすごいわね。

でも、この2人が私のドレスを注文しておいてくれたおかげで、私は助かったのよね。

私付きの侍女であるマリアとドナは非常に優秀で、いつだって私の不足を補ってくれるのだけど、今回もいつの間にか聖夜祭用のドレスを注文してくれていたのだ。


市販のドレスを加工して誤魔化そうと思っていた私が、恐る恐るその旨を2人に相談したところ、夢のように美しいドレスを運んできた時の驚きと喜びは忘れない。

それから、2人の優しさも。

「お嬢様はそれどころではありませんでしたからね。私たちが精一杯準備させていただきました!」


私の不手際を責めることなく、誇らし気に胸を張る侍女たちを見て、本当に優秀で素敵な2人だわと感激した。

けれど、ドレスを身に着けた途端、あ、優秀過ぎるんじゃないかしら、ほどほどでいいのにと思ってしまったのは仕方がないことだろう。


「何というのか……ダイアンサス侯爵家が本気を出してきたと誰もが思うわね」

思わずそう言ってしまうくらい、私は繊細で美しい一輪の撫子に見えた。


私の髪色より一段濃い同系色のドレスは薄く、ふんわりと私の体を包んでいるのだけれど、それらの色も素材も本物の撫子の花びらのように見えるのだ。

その結果、私自身が一輪の撫子に見えるという幻想的な現象が起こっていた。

一方、デザインは大胆なものになっていて、胸元が深く切れ込んでいる。

それから、花びらが重なったようなデザインのスカートは膝までしかなく、脚が丸見えだった。


「マ、マリア、ドナ、脚が……」

完全に露出している膝下を指差すと、マリアが分かっているとばかりに頷いた。

「ええ、白くて長くてまっすぐな、お美しいおみあしですね!」


「い、いや、そうじゃなく、脚が見えて……」

これはもうはっきり言わないと伝わらないわ、とずばり言いかけたところ、ドナが私の言葉を遮るように興奮した声を出す。

「正式な夜会では絶対に着られないドレスです! 私は常々、お嬢様のお美しい脚を誰にも見せずにしまっているのは、社交界の損失だと思っていました。やっと、公の場でお嬢様の美しい脚を披露できます!!」


わあ、2人とも確信犯だったわ。

この2人がいなかったら、私はドレスがなくて大変なことになるところだったから、文句を言うわけにはいかない。

2人ともそのことを分かっていて、最大限冒険したわね。


「う、うーん、収穫祭の時のズボンは透けていたから、脚の形が見えたと思うけど、でも薄い布すらなくて膝下を晒すというのは、また違うわね」


ちなみに、所属チームを識別するために付けるマークは、見える部分であればどこでもいいということになったらしい。

「それもそうよね。このゲームは出会い頭に勝負をするものではないから、即座に相手のチームを確認しなければいけないものではないものね」


だから、腕にでも貼り付けようと思っていたところ、侍女のマリアが「失礼、お嬢様!」と言って、とんでもないところに貼付してしまった。


「えっ?」

私は目を丸くした後、焦って鏡に近付く。

「え、ちょ、な、何てところに印を付けたの!」

声がかすれてしまったのは仕方がないことだろう。


マークは鎖骨の下、胸の谷間の真上に貼ってあったのだから。

何てことかしら。これは完全に胸の谷間に視線を誘導するための印だわ!


呆然とする私に、マリアが誇らし気な顔を向ける。

「グッドエクスキューズです! 『お嬢様の素敵な何かを確認したい。でも、そんなことは紳士としてできない!』という悩める紳士たちのために、不肖マリアが最高の言い訳をご準備いたしました!」

「お嬢様のふくよかな何かは、どうしたって男性の視線を釘付けにしますものね。いくら紳士の集団とはいえ、ちらりとも見ることができないのはあまりにかわいそうです。ですから、『違います、違います! 僕はルチアーナ嬢の胸を見たのではなく、鎖骨の下にあるマークを確認したんです!!』と100万人の男子生徒がお嬢様に言い訳できる機会をご準備しました」


「いや、学園にそんな大勢の男子生徒はいないから」

2人の物言いがあまりに大袈裟だったため、そこまで大したことではないわよね、と逆に頭が冷えてくる。


どちらにしても、既に貼られたものは仕方がないわ。

私がため息をつくと、ドナが仕上げとばかりに、花冠を頭に載せてくれた。

「これで完璧です!」


……本当に可憐な一輪の撫子に見えるのに、刺激的でもあるというのはどういうことかしら。

私は諦めの境地で、鏡に映った刺激的な撫子の妖精を見つめたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています
☆コミカライズページへはこちらからどうぞ

10/7ノベル9巻発売予定です!
ルチアーナのハニートラップ講座(サフィア生徒編&ラカーシュ生徒編)
サフィア&ダリルと行うルチアーナの断罪シミュレーション等5つのお話を加筆しています

ノベル9巻

コミックス6巻(通常版・特装版)同日発売予定です!
魅了編完結です!例のお兄様左腕衝撃事件も収められています。
特装版は、ルチアーナとサフィア、ラカーシュの魅力がたっぷりつまった1冊となっています。

コミックス6巻


コミックス6巻特装版

どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

― 新着の感想 ―
師団長2人はこのサービス衣装のルチアーナが見れなくて可哀想と思ってしまったわ
侍女様ズGJ部です♡ コレで軒並みノックアウトですね~(☆▽☆)
花の妖精 宵マチ先生、お待ち申し上げております。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ