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177 手札公開(ただし乙女ゲームについては除く) 3

必要なことを確認し終わったエルネスト王太子は、頭の中で考えを整理している様子だった。


無言のまま組んだ両手に顎を乗せ、空を見つめる。

彼の結論が出るまで待つことにした私は、両膝に手を置いておとなしくしていたけれど、しばらくするとちらりと様子をうかがった。


すると、王太子は考え事をしていたためか、足を組もうとした際にテーブルに足をぶつけてしまい、衝撃でテーブルの上の籠がばたんと音を立てて倒れる。


その籠は、先ほど訪問した村の住人から贈られたものだったため、倒れた拍子に村人たちからもらった贈り物がぴょこぴょこと飛び出てきた。

それらの品々に交じって、私が収穫した変色した作物も籠から零れ落ちる。


白いテーブルに映える毒々しい赤色は、子どもたちの手に浮き出ていた赤い斑点を思い起こさせた。

そのため、王太子は未だ何事かを考えている様子だったけれど、我慢できずに口を開く。

王太子は混乱している様子だったから、1つ1つ順を追って説明しようと思ったけれど、急がなければならない話なのは確かだから、いったん全ての情報を3人で共有した方がいいかもしれないわ、と考えを改めながら。


「王太子殿下、考えを整理されているところ申し訳ありません。もう1点、共有すべき情報があるので、お話してもいいですか?」


王太子が顔を上げて頷いたので、私は王太子とラカーシュを交互に見つめながら言葉を続けた。

「先ほど、村で見た紅い斑点についてです。エルネスト殿下は『子どもたちの腕に表れていた紅斑が何かを知っているのか?』と私に尋ねられましたが、……多分、知っていると思います。あれは風土病の印です」


私の言葉を聞いた2人は、驚いたように目を見張った。

「何だって?」

「風土病の印!?」


そんな2人に向かって、私ははっきりと頷く。

「ええ、恐らく、この地域特有の病気だと思われます。(ゲームの中で新しい病気という説明はなかったので)ずっと昔に、この地で流行ったことがあるのではないかと思われますが、詳しいことは分かりません。ただ、お2人ともに初耳のご様子ですから、最近の症例はなく、そのため、医師の方も見逃されたのではないでしょうか」


「…………」

「…………」

2人は何か言おうと口を開いたけれど、声を出すことなく再び口を閉じてしまった。

そのため、説明を続ける。


「あの紅斑はいずれ全身に広がります。そして、紅斑が浮き出る量に比例するように、罹患者は数年かけて少しずつ、少しずつ病魔に侵されていきます。初めは体の節々が痛むだけですが、最後には体を動かせなくなって、寝たきりの状態になるのです」


「……そんな」

王太子は目を見開くと、かすれた声を出した。


衝撃を受ける王太子を前に、これ以上彼に負担を与えたくないとは思ったものの、大事なことなので言わないわけにはいけないと話を続ける。

「恐らくですが、近い将来、あの村の多くの者が風土病を発症します。そして、その原因は既に発生しているのだと思います。病が進行している印である紅斑が大人の方に見受けられなかったのは、体が小さい子どもから影響が出ているからではないでしょうか」


衝撃で声も出せない様子の王太子に代わって、ラカーシュが確認してくる。

「村人の多くが罹患するとなれば、相当の数の者が対象になる。恐らくあの村には、2千人近い者が住んでいるから、1割が罹るとしても200人になる」


私が無言のまま頷くと、ラカーシュは冷静な声で質問してきた。

「それで、ルチアーナ嬢……将来的に、この村の者の多くが風土病を発症するとして、原因は何だと推測する?」


それはとても大事な質問だったため、私はゲームの中の王太子の言葉をもう1度思い出そうと記憶を辿る。


―――エルネスト王太子ルートで、彼は言っていた。

『私のせいだ! 王家と聖獣の契約が切れたため、この地は弱っている。その影響を受け、領民たちの全身に紅斑が出始めたのだ。彼らの辿る末路は皆同じだ。体の節々が痛み出し、最後は体を動かせなくなって、寝たきりになるのだ』


そう、彼ははっきりと言っていたのだ―――「王家と聖獣の契約が切れたため、この地は弱っている」と。


私は両手を組み合わせると、無言のまま私を凝視している王太子に顔を向けた。

それから、できるだけ王太子を傷付けないようにと、優しい口調であることを意識しながら言葉を紡いだ。


「恐らく、……王家と聖獣の契約が切れたことが原因です」


私の言葉を聞いた王太子は、びくりと体を硬直させた。


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