表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/287

168 ルチアーナの好感度アップ大作戦 2

「想定外に早く用務が片付いたため、当初の予定とは異なり、私も皆とともに実習に参加することにした。この地については詳しいつもりだから、分からないことがあれば何でも聞いてくれ」


皆が集まった昼食の席に顔を見せ、爽やかな笑顔でそう説明した銀髪翠眼の王太子は、全員から歓迎された。


特に、私の両隣に座る女子生徒2人は頬を赤らめると、興奮気味に小声を発する。

「やった、やった! エルネスト様がいらっしゃったわ! すごいすごいすごい!!」

「あああ、銀の髪って世界で一番尊いわ! 翠の目って世界で一番輝いているわね!」


私の正面に座った王太子は、それらの様子をにこやかに見つめると、彼の隣に座るラカーシュと話を始めた。

そんな王太子の表情は溌剌としており、数日間、馬車に揺られて疲れているようには見えなかった。


そのため、王太子はこの地まで転移陣で転移してきたのじゃないかしら、と私は推測する。

忙しい王太子が、片道5日もかけて馬車で来ることは現実的でないし、王城と白百合城は転移陣でつながっているので、それを使用しないはずはないと思われたからだ。


ただし、転移陣が城内のどこに配置されているかは、セキュリティの問題上、外部の者には秘密にしてあるので、学園の生徒たちに使用させることはできない決まりになっている。

だからこそ、王太子は一人で転移陣を使用したのだろうけれど、……私はゲームで王太子ルートをクリアしているため、どこに転移陣があるかを知っているのよね。

と、そう考えたところで、突然閃いた。


「あっ!」

今さらながら思い出した。

聖山の頂上近く―――聖山は活火山のため、火口から少しずれた場所に―――この城からつながる転移陣がある、ということを。


「すっ、すっかり忘れていたわ! つまり、今朝、わざわざ歩いて行く必要はなかったんじゃないの!!」

転移陣を(こっそり)使って、聖山に移動することができたはずだもの。

それなのに、慣れない山登りをしたがために、下山しただけで足が棒のようになってしまったわ。


あああ、仕方がないことだと考えていた山登りが不要だったと分かったことで、一気に損した気分になってしまったわ!

両手で顔をおおってがっくりしていると、王太子の声が降ってきた。


「どうした、ルチアーナ嬢? 午前中は十分な運動をしたから、食が進むかと思ったのだが、あまり食べてないようだな」


くうっ、また嫌味ね。

私がしたのは十分以上の運動で、だからこそ疲労困憊になって、逆に食が進まないというのに。

そして、きっと王太子はラカーシュから聞いていて、そのことを分かっているでしょうに、と思いながら顔をあげる。


これまでの私であれば、王太子に何を言われたとしても、できるだけ関わらないでおこうと、『はい』か『いいえ』で返すところだけれど、先ほど私室で、何としてでも彼と仲良くなろうと決意したことを思い出す。

そのため、私は練習通り、できるだけ控えめに見える微笑を浮かべた。


「うふふふ、殿下、ご心配いただきありがとうございます」

すると、私の微笑を目にした王太子は、びくりと体を跳ねさせると、眉間に皺を寄せた。


その姿を見て、あれ、気に障らないような控えめな態度に徹したつもりなのに、まだ気に入らないのかしら? と、がっかりする。

よく見ると、王太子の頬が少し赤らんでいるので、怒りを感じているのかもしれない。

まあ、王太子好みの控えめな態度を示してもこれじゃあ、好感度アップなんてまだまだ先の話ねと思いながら、彼の発言に調子を合わせてみる。


「実のところ、殿下のおっしゃる通りお腹がぺこぺこだったので、ゆっくりと噛みしめながら味わっていたところですわ。ふふふ、お野菜が特に美味しいですね。もしかしてこれらの野菜は、白百合領で取れたものですか?」


まずは王太子の領地のものを笑顔で褒めて、気分をよくする作戦だったのだけれど、王太子はぴくりと頬を引きつらせた。

「……いや、これは領内で取れた野菜ではなく、隣の領地から買い求めたものだ」

「あっ、そ、そうなんですね! さ、さすが白百合領と隣り合う土地の野菜だけあって、美味しいです!」


まさかそのような回答が返って来るとは思っていなかったため、焦ってしどろもどろな返答になる。

通常、野菜のように価格が安いものは、わざわざ遠くから運んだりしないのに、領地外から購入した野菜が使われているなんて想定外だったわ。


そう焦る私を何と思ったのか、王太子はしばらく私の顔をじっと見つめた後、ふいに話題を変えてきた。

「ルチアーナ嬢、昼食後はラカーシュとともに領内の村を回る予定らしいね。私が加わっても、問題ないだろうか?」


「えっ、も、もちろんです!!」

まあ、王太子自ら食いついてきたわよ!

ということは、王太子の表情は厳しいけれど、私の笑顔+褒め褒め作戦は、上手くいったということかしら?


そう嬉しく思って、にまりとしたけれど……。

「ああ、やっぱりエルネスト様はラカーシュ様とご一緒に行動されるのね!」

「お2人の仲の良さでしたら、仕方がありませんわね!!」

両隣に座る女子生徒たちが、残念そうに零していたので、私の努力とは関係ないところで出た結果かもしれない。



その後、昼食を終えた王太子とラカーシュ、私の3人は同じ馬車に乗ると、視察先に向かった。

馬車に乗り込む際、王太子とラカーシュがちらりと私のドレスに視線を向けてきたので、どうやら昼食後に服を着替えたことに気付かれたようだ。


本日の視察先は領地内のルナル村を予定していたため、びらびらのドレスを着るのは場違いだろうと考え、手持ちの中で1番装飾の少ないドレスに着替えていたのだ。

王太子とラカーシュも似たようなことを考えたようで、2人は普段着用しないようなシンプルな服に着替えていた―――ただし、シンプルではあったものの、明らかに上質な布地であるうえ、2人とも間違えようもないほどの気品に溢れていたので、誰がどう見ても貴族にしか見えなかったけれど。


けれど、私と同じようにシンプルな服装をしてきた2人を見て、あら、案外この2人と私の思考は似通っているのかもしれないと親近感が湧いてくる。

そのため、こんな風に似ている部分を見つけて、話題にすることで、仲良くなれるんじゃないかしらと考えたけれど、馬車の中で向い合せに座った2人の姿を目にした途端、その作戦の実行を諦めた。


なぜならどちらも極上のイケメン過ぎて、まっすぐ視線を向けることすら難しかったからだ。

そうだった。この2人はゲーム内でも人気を二分していた、最上級の攻略対象者だった。

そんなイケメン2人と気安く口を利こうだなんて、私には100万年早かったわ。


そう考え、『2人と仲良くなるために話をしよう』作戦を早々に捨て去り、窓からの景色を見るともなしに見ていたところ、王太子が私に話しかけてきた。

「ところで、ルチアーナ嬢、私が不在の間、生徒会の仕事を手伝ってもらったことに対して、まだお礼を言っていなかったな。収穫祭がこれまでになく斬新なものになったのは、君が多くのアイディアを出したからだと聞いている。君の尽力に感謝する」


「えっ! い、いいえ、とんでもないことですわ」

まさか王太子からお礼を言われるとは思ってもいなかったため、両手を振って否定する。

それに、実際のところ、お礼を言われるほど生徒会の仕事を頑張ってはいないのだ。


なぜなら毎日生徒会室に顔を出していたのは、部屋の隅を借りて勉強するためだったし、むしろラカーシュから勉強を教えてもらっていたので、その分、彼の仕事の邪魔をしたように思われる。

そして、収穫祭の内容が斬新になったのは、私の心の奥底に眠っていた願望を……たとえば、『イケメンたちの普段にない格好を見てみたい!』だとか、『あわよくば、攻略対象者の私室を覗いてみたい(だから、報償付きの企画を提案しよう)!』だとかを、思ったままに形にしただけなのだ。


ただし、王太子に詳しく説明するには、動機となる下心がひど過ぎるため、私の名誉のために黙っていようと口を噤む。

そのため、俯いてもじもじしていると、結局のところ紳士な王太子は、見て見ぬ振りをすることに決めたようで、生徒会についての話に切り替えた。

(余談だけど、こんな風に嫌っている私に対しても、きちんと気遣いを見せられるところが、王太子の人気が高いゆえんだと思う)


「ルチアーナ嬢、生徒会について少し説明したい。とはいっても、君は生徒会室に何度も顔を出しているため、メンバーは既に把握しているのだろうが」

突然、王太子が生徒会の話を始めたことを不思議に思ったものの、私にも馴染みのある話だったため頷く。

わずか1か月という短い期間だったけれど、収穫祭の開催という共通の目的があったため、生徒会のメンバーとはだいぶ仲良くなれたのだ。


王太子は私の表情を確認すると、説明を続けた。

「君も承知している通り、現在の生徒会役員は、会長、副会長、書記、会計、庶務の5名となっている。その5名で生徒会業務を実施することに支障はないのだが、毎月開催するイベントがマンネリ化しているように思われてね。新たに広報担当に加わってもらいたいと、常々考えていたところだ」


「まあ、そうなんですね! 生徒会主催のイベントといえば、先月は収穫祭、先々月は占いを実施されましたよね? どちらもすごく楽しかったですわ!」

王太子がせっかく話しかけてくれたので、好感度アップ作戦にのっとり、何でも褒めておこうと笑顔でイベントを肯定すると、彼はじっと私を見つめてきた。


「えっ、ど、どうかしましたか?」

まさか私の下心が見抜かれたのかしら、とどきどきしながら聞き返すと、彼は驚くべきことを口にした。


「広報担当の人選について内々に検討した結果……私としてはぜひ、斬新なアイディアを持つルチアーナ嬢に、生徒会に加わってもらいたいと考えている」


おかげさまで、本日ノベル4巻&コミックス1巻が発売されました!!


挿絵(By みてみん)


私が心臓を射抜かれたこのイラストの続きは、ノベル4巻でお楽しみください。


★「甘い言葉収集ゲーム」におけるサフィア・ルイス・ジョシュアターン

★ルチアーナがサフィアにつきまとう(サフィアに甘やかされる)話

★ラカーシュ視点、王太子視点の話

★生徒会メンバーで前世占いをしてもらう話

などを加筆していますので、お手に取っていただければ嬉しいです。



そして、待望のコミックス1巻の特典は、こんなすごいことになっています。

挿絵(By みてみん)

(さくまさんに作成いただきました! 本当にありがとうございます!!)

(サイズの制約上、どうしても画像がぼやけます。お手数ですが、鮮明な画像は下記twitterからご確認ください)


★オリジナルのサフィア登場シーン

★ラカーシュ×ルチアーナによる公爵誕生会

★ルチアーナは魔法使い!?

という、どこをめくっても楽しい1冊になっており、ページ数も通常より大幅アップしています!!



そして、サフィアからのお誘いです。

挿絵(By みてみん)


どうぞよろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています
☆コミカライズページへはこちらからどうぞ

10/7ノベル9巻発売予定です!
ルチアーナのハニートラップ講座(サフィア生徒編&ラカーシュ生徒編)
サフィア&ダリルと行うルチアーナの断罪シミュレーション等5つのお話を加筆しています

ノベル9巻

コミックス6巻(通常版・特装版)同日発売予定です!
魅了編完結です!例のお兄様左腕衝撃事件も収められています。
特装版は、ルチアーナとサフィア、ラカーシュの魅力がたっぷりつまった1冊となっています。

コミックス6巻


コミックス6巻特装版

どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど移動は転移装置だったのですね。疑問が解けてすっきりしました。 頂上まで一気に行けるなら、次回の探索は楽ですね!(見つからなければ) [一言] 4巻収穫祭、大変満足しました。 ルチア…
[良い点] 王子が純情なところ [気になる点] ノベル4の案内がついてるのできになったところ。 はめるの表現。 地域差のある言葉だなと。 自分は手袋は口語ならする、文章なら着用するとかになるかなあ。…
[良い点] 小説4巻 購入しました 「甘い言葉収集ゲーム」で、全攻略者が発するルチアーナにだけの甘い言葉 うらやましい... もし、この回答用紙が流出したら 学園の女子生徒たちにますます嫉妬されてしま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ