157 「甘い言葉収集ゲーム」結果発表 3
「エルネスト殿下、今さら傷付きはしませんから、はっきり言ってもらっていいんですよ! 私を馬鹿にしたかったから、私にだけ『定型文』を話さなかったって」
私は王太子に向かって、きっぱりと言い切った。
すると、王太子は両手を上げて、降伏の姿勢を示した。
「もちろん、そんなことがあるはずもない! ……ルチアーナ嬢、私の説明が悪かったことは自覚している。ただし、君が口にしているような事実は1つもないから、まずは私の話を聞いてくれないか」
よく見ると、先ほどは赤かった王太子の顔色が青ざめている。
まあ、これほど王太子の感情を色々と揺さぶったのが私だとしたら、まるで悪女じゃないの!
そう驚いて、目を見張ったけれど、すぐに冷静になる。
……いえ、違ったわ。私は悪女でなく、悪役令嬢だったわね。
そして、私は王太子から嫌われているのだったわ。
そんな嫌いな私から文句を言われたため、青ざめるほど腹立たしかったのでしょうね。
そう考えた私は、素直にソファに座ると、王太子の話を聞こうと両手を膝の上に乗せて彼を見る。
すると、王太子もソファに座り、ポケットから取り出したハンカチーフで額を拭っていた。
よく見ると、青ざめた王太子の額に汗が浮かんでいる。
その様子を見て、まあ、カレルだけでなく、王太子も体調が悪いようだわ、と私は心配になった。
思い返してみれば、学園の重要イベントである「収穫祭」が開催されたのは昨日のことだ。
主催は生徒会だったため、会のメンバーは物凄く忙しかっただろうし、それらの努力は全て、私たち生徒を楽しませるためだったのだ。
「王太子殿下、言いすぎましたわ。私たち生徒のために、素晴らしいイベントを実施してもらったのだから、ストレス解消のために私をからかったとしても許容すべきでした」
「いや、だから……!」
「はい、黙って聞きます」
今度こそ口を噤むと、王太子は自分を落ち着かせるために、ふーっとため息を1つ吐いた。
それから、顔を上げて私を見つめると、意を決したように口を開く。
「ルチアーナ嬢、私は昨日のゲーム時において、『定型文』以外の言葉を君に対して口にした。しかし、それは意図的ではなく、動揺したための不可抗力だと理解してほしい」
「動揺ですか?」
一体何に動揺したのかしら、と聞き返してみたけれど、王太子には答える気がないようで、説明を続けられた。
「もちろん、君には1つの落ち度もない。ただ私が未熟だっただけだ。そのため、『定型文』以外の言葉を口にして、ゲームの得点を減点させてしまったことについては申し訳なく思う」
そこで言葉を切ると、王太子は軽く頭を下げた。
その潔い態度を見て、そうなのよね、王太子は高潔なのよねと心の中で思う。
学園内では全ての生徒が平等だと言うものの、結局のところ、エルネスト王太子は世継の君なのだ。
仮に王太子が間違いを犯したとしても、間違いを認める必要はないし、謝罪する必要もないのだ。
黙っていれば、彼に付き従っている側近が上手にことを納めてしまうのだから。
けれど、エルネスト王太子はきちんと自分の非を認めて、謝罪をしてきた。
そういう態度は、本当に立派だと思う。
感心して見つめていると、王太子は真剣な表情で私を見つめてきた。
「ルチアーナ嬢、君に対してのアンフェアな態度を反省している。だから、どうか私に埋め合わせをさせてほしい。何か望むことがあれば言ってくれ」
「え?」
いや、たかがゲームですから、そんな真剣に考えなくてもいいんですよ、と口にしようとしたところで、王太子の隣に座っていたラカーシュまでもが同じことを言い出した。
「ルチアーナ嬢、私も同様だ。私もゲーム実施中に、エルネストと同じルール違反をした。そのため、エルネスト同様の償いをしたいと思う」
いやいやいや、だから、たかがゲームですからね……と言いかけたその時、―――生徒会室の扉が突然開かれた。
反射的に振り返ると、意外なことに、兄が扉口に立っていた。
そして、兄を見た瞬間、どういうわけか、私はトラブル発生の予感を覚えたのだった。
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