153 「収穫祭」という名の恋のイベント 12
次に発見したのは、ラカーシュだった。
オアシスを背景に、黒い衣装をまとって涼し気に佇むラカーシュは、目にしただけで息が止まりそうな麗しさだった。
ラカーシュが着用しているのは、王太子と対にして作られた、「黒百合」をイメージしたものだ。
彼は頭に黒い布を巻き、上半身をはだけさせながらも、足元までの長い黒衣をまとっていた。
その上から、金糸銀糸で飾り付けられた幅の広い白の飾り布を、左肩からクロスする形で反対側の膝まで垂らし、腰に飾りリボンを付けている姿は、「完璧なる彫像様」だった。
ラカーシュはさらに、片方の肩に複雑な刺繍が入った高級そうな黒い布地をかけており、それが肌を露出させられていることへのせめてもの抵抗に思われて、可愛らしく感じる。
頭や腰回りに飾られた装飾品が、太陽に照らされてきらきらと輝いていて、ラカーシュをより完成されたものに見せていた。
「ああ、美の完成形をここに見たわ!」
うっとりとそう呟くと、私は長い列に並んだ。
この場もまた、王太子の場合と同じくらいに女子生徒の歓声がすさまじかった。
ラカーシュに何事かのセリフを言われた生徒が、悲鳴を上げているのだけれど、中には、腰が砕けて座り込む女子生徒もいるようだ。
そうなるほどの、どんなセリフを言われるのかしら、と期待が高まってくる。
私の番になったので、ラカーシュの前に立つと、驚くことに彼は私を二度見した。
さらに、目を見開いて私を見つめた後、よろけながら後ろに数歩下がった。
「えっ?」
何事かしらと声を漏らすと、ラカーシュははっとした様子で立ち止まった。
それから、何かに耐えるかのようにぎゅっと拳を握り締めたけれど、その顔色は先ほどの王太子に負けず劣らず赤かった。
「ルチアーナ嬢、その衣装は……それはダメだ。君が美しいことは分かっていたが、そのように美しさを強調するものではない。……恐らく私は、1年分の心臓を今日一日で使い果たしてしまうだろう」
そう言うと、ラカーシュは肩にかけていた高級そうな布地を差し出してきた。
「頼むから、これを羽織ってくれ。そうでなければ、私の心臓はとても耐えられそうにないし、私と同じ状態になる男子生徒が続出するだろうからな」
まあ、ラカーシュは親切ね、とお礼を言おうとしたけれど、それより早く、彼はびくりと全身を跳ねさせた。
それから、信じられないとばかりに目を見開き、布を持っていない方の手で顔の下半分を覆った。
「何てことだ! 君の美しさが、香りとなって漏れ出ているぞ。ああ、これは間違いなく、男子生徒をダメにする香りだ。ルチアーナ嬢、これ以上その香りが漏れないよう、今すぐこれを体に巻き付けるのだ」
顔を赤らめ、目を潤ませながらも、必死で香りを吸い込まないようにと鼻と口を片手で押えるラカーシュは、正直言って最高に尊かった。
美貌の彫像様は完璧に、女子生徒の萌えるツボを押さえている。
加えて、全力で香りを吸い込まないようにしながらも、もう一方の手はずっと布を差し出し続けているところが、ラカーシュの女子生徒に対する潔癖さを表しているようで、その表現力の高さに感心する。
素晴らしいわ、ラカーシュの演技は完成されているわね!
というか、彼はこのイベントに消極的だと思っていたけれど、ノリノリじゃないの!
そう考えて嬉しくなった私は、笑顔でラカーシュにお礼を言う。
「ラカーシュ様、ありがとうございます!」
それから、私はラカーシュに向かって手を伸ばすと、彼が差し出していた布地を受け取った。
数秒間、その布地を手に持った後、再び彼に返す。
なぜならこの布地を女子生徒に手渡すところまでが、ラカーシュの演技だと気付いたからだ。
私の番が終わったのだから、布地を返さなければ、ラカーシュは次の女子生徒にこの布地を渡せなくなってしまう。
王太子の時と違って、今度は勘違いしないわよ、と正しく行動したにもかかわらず、ラカーシュは理解できないといった様子で、返却された布地に視線を落とした。
そのため、私は分かり切っていることだろうけれど、と思いながら説明する。
「ラカーシュ様、役になり切るのはいいですが、私にその布地を渡してしまったら、次の女子生徒に同じことができなくなりますよ」
すると、ラカーシュははっとしたように私を見た。
その姿は、まるで自分が演技をしていたことに、たった今気づいたとでもいうかのようだった。
ふふふ、芸が細かいわねと思いながらラカーシュに微笑むと、私は回答票に視線を落とした。
「ありがとうございました。ええと、ラカーシュ様のセリフは……『何てことだ! 君の美しさが、香りとなって漏れ出ているぞ。ああ、これは間違いなく、男子生徒をダメにする香りだ。ルチアーナ嬢、これ以上その香りが漏れないよう、今すぐこれを体に巻き付けるのだ』……ですね。むむ、ものすごく長いですね。急いで書き込まないと忘れてしまいそうです」
私の言葉を聞いたラカーシュは、びくりと体を強張らせた。
「その、ルチアーナ嬢、……」
ラカーシュが緊張しているように見えたので、彼の言葉を聞き取ろうとしたけれど、その時、次の順番の女子生徒が、急かすかのように咳払いをした。
そのため、私は慌ててラカーシュに頭を下げると、彼の元を後にした。
ざくざくと砂を踏みしめながら歩いていると、ラカーシュの言いたいことが分かったような気持ちになる。
「あっ、もしかしたら私は彼のセリフを聞き間違えたのかもしれないわ! ラカーシュはそれを教えようとして、でも、やっぱり教えてはルールに反すると葛藤して、あんな様子になったのじゃないかしら。……うーん、そうだとしたら、『巻き付けるのだ』ではなく、『巻き付けなさい』なのかしら?」
というか、今さらだけど、ラカーシュにスティックを向けるのを忘れていた。
それなのに、「定型文」を口にしてくれるなんていい人だわ、と私は心の中で思ったのだった。