127 ジョシュア師団長逆攻略計画 1
兄は凄いとの共通認識を持ったところで、師団長がおもむろに口を開いた。
「ところで、ルチアーナ嬢、カドレア城での顛末を説明したいのだが、よいだろうか?」
ジョシュア師団長の言葉を聞いた私は、はっとして謝罪のために頭を下げる。
「ジョシュア師団長、謝罪が遅れました! 東星の件については、師団長に全ての後始末をお任せしてしまって申し訳ありません」
兄が腕を失ってからの私は、はっきり言って酷かった。
ただただ兄のことを心配するだけで、その他のことは全てほったらかしにしていたのだから。
ジョシュア師団長は私の何倍も忙しい身なのに、全ての後始末を一手に引き受けてくれたのだ。申し訳なさしかない。
だというのに、師団長は頭上から気遣うような声を掛けてくれた。
「いや、頭を上げてくれ、ルチアーナ嬢。そもそもあなたのおかげで、私もルイスもダリルも、望み続けた未来を手に入れることができたのだ。あなたには深く感謝している」
想定外の言葉に驚いて顔を上げると、何らかの感情をたたえた瞳と視線が合った。
あ、この表情はよろしくない気がする、と直感的に思った私は、軽い調子で感謝の気持ちを受け取る。
「どういたしまして。けれど、ダリルは私にとっても弟ですから、お礼を言われることではありませんわ。弟に満足できる未来を与えることができて、私もほっとしているところですから。ジョシュア師団長こそ、様々にご尽力いただきありがとうございました」
にこりと微笑んでお礼を言うと、先ほどまでの緊張感は消え去り、師団長は困ったように眉を下げた。
「困ったな、サフィアに続いてあなたも謝意を受け取らないタイプなのか」
「え?」
「いや、カドレア城についての報告だったな」
そう言うと、師団長は膝の上で両手を組み、真っすぐ私を見つめてきた。
「ルチアーナ嬢も知っている通り、私は陸軍魔術師団長の職位にある。そのため、一定の果たすべき義務と自由にできる権限がある」
師団長は一旦言葉を切ると、申し訳なさそうに言葉を続けた。
「まず、私の義務として、『四星』のうちの一星である『東星』と接触したことを王宮に報告した。東星の転移に巻き込まれ、この世界最大の秘密である『世界樹』のある空間に足を踏み入れたことまでを」
「はい」
師団長の話を聞いた私は、それはそうだと納得する。
『東星』との接触も、『世界樹』を目にしたことも、非常に大きな事柄だ。
魔術師団の頂点に立つ者として、報告しないわけにはいかないだろう。
勿論、私のことだって。
そう覚悟して、師団長の次の言葉を待つ。
けれど、続けられた言葉は意外なものだった。
「それから、権限として、それ以外の全ては調査中だと報告した」
「え?」
「推測まじりの報告で、王宮を混乱させてはいけないからね。そのため、『東星』が現れ、私たちに接触した理由は不明だと報告している。……そもそも、私は3年前のサフィアと東星との契約についても報告していないし、慎重に調査をするタイプなのだよ。だから、あなたの存在を含めた調査中の事柄について、王宮には一切の報告を上げていない」
「ジョシュア師団長……」
魔術師団に詳しくない私でも、師団長の行為は彼の権限を越えていて、その立場を危うくさせるものではないかと想像できた。
しかも、師団長が無茶をしたのは、十中八九、私の存在を王宮から隠すためだろう。
心配になって師団長を見つめていると、彼は視線を避けるかのように床を見つめた。
「以前、サフィアは2つの選択肢を提示して、あなたに選ばせようとしたね。1つはあなたの存在を王宮に報告することで、自由を失う代わりに守護を得る選択。もう1つは王宮には何も報告せず、自分で自分の身を守る選択。先日までのあなたは混乱していて、何らかの判断ができるようには思われなかったため、私がこれまでのあなたの言動を元に、後者を選択した」
それから、師団長は少しだけ躊躇した後、言葉を続けた。
「恐らくサフィアでも同じようにしただろう。私は……サフィアの代わりに、あなたの望みを叶えたかったのだ」
「……ありがとうございます」
師団長の口調はあくまで優しかったけれど、有無を言わさぬ圧力のようなものが感じられたため、お礼の言葉が口からついて出る。
恐らくジョシュア師団長は、兄が腕を失ったことに責任を感じているのだろう。
そして、責任感の高さから、兄に代わって私の面倒を見るべきだと考えているのだろう。
そんな必要は全くないのに、と考えていると、師団長は座っていたソファから立ち上がり、テーブルを回ってくると、私の前に膝をついた。
「ジョ、ジョシュア師団長!?」
驚く私にそれ以上説明することなく、師団長は片手を胸に当てると、真顔で見つめてきた。
「ルチアーナ嬢、そうではない。私があなたに感じているのは兄が妹に抱く感情とは異なるものだ」
「え?」
「だから、私にチャンスをくれないか?」
「えっ、チャンス?」
言われた意味が分からずに、瞬きを繰り返す。
すると、師団長は至極真面目な顔で頷いた。
「ああ、そうだ。私があなたに恋をする機会を与えてくれ」
「なっ」
何を冗談言っているんですか―――などと、言い出せる雰囲気では全くなかったため、私はただごくりと唾を飲み込んだ。
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皆様に応援いただいたおかげです!! ありがとうございました!!
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〇出版社1周年記念 溺愛ルートPV
https://magazine.jp.square-enix.com/sqexnovel/1st_anniversary/
(ページの下の方にあります)
(有名大先生方のビッグ対談など、PV以外にも素晴らしい企画がありますので、上から下まで眺めていただければ幸いです!)
〇YouTube 溺愛ルートPV(労力省力化のために貼付)
https://www.youtube.com/watch?v=FuOXL8Ofs08