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96 カドレア城 15

「サフィア、お前は何度言えば分かるのだ! 自分を基準に考えるんじゃない! お前が出来ることを、誰だってできるとは限らないんだぞ」

ジョシュア師団長は顔をしかめたまま、当然の苦情を口にした。


けれど、兄はジョシュア師団長の感情に無頓着なようで、何かを確認するかのように両手を前に突き出すと、広げた指先を見つめたままさらりと返事をする。

「やあ、王国陸軍魔術師団長ともあろう者がご謙遜だ。師団長にできなければ、誰にもできないだろうに」


兄の言葉を聞いた師団長は、言葉に詰まるかのようにぐっと唇を噛み締めた。

さらに、師団長が言い返すよりも早く、東星が2人の会話に割り込んでくる。

「サフィア、わたくしの目の前でわたくしを放っておくなんて、失礼極まりない態度だわ! そもそも、どうしてわたくしが黙ってお前たちの好きにさせると思うのかしら☆」


東星は見るからに、苛立った様子だった。

怒りの声を上げた東星に対し、ちらりと確認するかのような表情で顔を向けたお兄様、ジョシュア師団長、ラカーシュの事務的な態度も気に入らなかったようで、苛々とした様子で顔にかかる髪を振り払う。

どうやら至高の存在である東星は、常に特別な存在であるように扱われないと不満を覚えるようだった。

見ていなさい、と言わんばかりに東星は片腕を振り上げ、上空へ向かって手の平を広げる。


「風・尖矢・風!!」


その言葉とともに、尖りを持った風の矢が幾つも幾つも降り注いでくる。

兄は称賛するかのような表情で、勢いを増しながら降り注いでくる風の矢を見つめた。

「やあ、これはまた見事な魔術だな。師団長殿、出番だぞ。よろしくお願いする」


けれど、称賛する言葉とは裏腹に、兄は師団長に対応を依頼すると、東星の攻撃にはそれ以上頓着しない様子で自分の指先を見つめた。

降り注いでくる風の矢から逃げる素振りも見せない。


「くっ、サフィアめ、本当にこの後の60秒を丸投げしやがった! そこまで信頼してもらったことに、私は感謝すべきなのか!?」

師団長は憤懣やるかたないといった表情で、両手を空に向かって突き出した。


師団長の隣では、ラカーシュが無言のまま同じように両手を突き出す。

「ラカーシュ、君はいい奴だな!」

隣に並び、ともに戦おうとするラカーシュに対し、ジョシュア師団長は称賛の言葉を口にした。


師団長の言葉の半分は兄に対する嫌味のように思われたけれど、その兄は自分の両手を不思議そうに見つめながら立ち尽くしているだけだった。

しばらくそのままの状態で自分の指先を眺めていたけれど、数秒の後、「ああ!」と納得したかのように頷く。

それから、兄は口の中で何事かを呟くと、発生させた自らの魔術で指先を傷付けた。


兄の左手の小指と薬指、右手の薬指から鮮血が勢いよく噴き出る。

そのさまを目にした兄は、やっと理解出来たという風に微笑んだ。

「なるほど、魔力が体に馴染んでいない弊害か。魔力が体内を巡る速度に差異が発生するとは。だが、出口を幾つか作ったので平準化したはずだ」


それから、何かを確かめるかのような表情で中空を見つめる。

「いやあ、困ったな。私の元に戻ってきたばかりの魔力だから、やはり全く馴染んでいない……唯一の助けは、ルチアーナの魔力が混じっていることだが、……だが、ここで倒されてしまったら、これが私の実力ということになるのだろうな。『本当はもっとやれたのだ』と後から言っても、しょせんは負け犬の遠吠えか」


独り言のような言葉を呟く間も、兄の3本の指から血が流れ続けていた。

けれど、それぞれの指の出血の勢いに差異があり、同じ指でも出血の勢いが増したり減じたりしているので、兄が体の中で何事かを試みていることが見て取れた。

「……馴染んではいないが、試してみるしかないな。結局はバランスの問題であることだし。―――やあ、そろそろ時間か?」


ジョシュア師団長に依頼した半分ほどの時間が経過したところで、兄はそう呟いた。

それから、兄は珍しく緊張した様子で息を吐くと、両手を地面に向かって突き出す。


「魔術陣顕現!」


―――その言葉とともに、兄の髪色と同色の魔術陣が足元に展開され始めた。


兄を中心に青紫の線と記号、数式が描かれた円陣が形成されていく。

兄が展開した魔術陣の模様の複雑さは遠目にも見て取れ、相変わらず緻密な陣を描くものだと感心する。


けれど、そこで兄は不思議な動作をした。

地面に向けていた手のひらを上に向けると、何かを包み込むかのように指を丸めたのだ。


初めて見る動作に、一体何をしているのかしらと凝視していると、兄は呪文を重ねた。

「ダイアンサス附与!」


その言葉とともに、兄の魔術陣を撫子ダイアンサスが取り囲み始めた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


そして、大変お待たせして申し訳ありません。

想定していた以上の用務が重なり、戻ってこれませんでした。

緊急事態宣言が出され、外出を控えなければいけない地域もあるようですので、皆さまのお慰みになればと、できるだけ(あくまで更新が遅い私比です)GWの間は更新していきたいと思います。

よろしくお願いします。


お待ちいただきありがとうございました(´▽`)

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10/7ノベル9巻発売予定です!
ルチアーナのハニートラップ講座(サフィア生徒編&ラカーシュ生徒編)
サフィア&ダリルと行うルチアーナの断罪シミュレーション等5つのお話を加筆しています

ノベル9巻

コミックス6巻(通常版・特装版)同日発売予定です!
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特装版は、ルチアーナとサフィア、ラカーシュの魅力がたっぷりつまった1冊となっています。

コミックス6巻


コミックス6巻特装版

どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。待ちに待っていました‼︎‼︎ 待っている間、何度ループしたことか…‼︎ 言葉の使い方が大好きです。お兄様のとぼけ具合にやられてます。かっこよすぎて目が離せません!大…
[一言] とても好きで更新を心待ちにしていました。 お兄さま大好きです。ありがとうございます。
[良い点] バトルがかっこいい! [一言] 再開心待ちにしていました。 今回もドキドキしてとても面白かったです。 2巻発売もいまかいまかと楽しみに待ってます。 色々と大変な世の中ですが、あまり無理なさ…
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